書こうか? 迷っていた話。

崔 梨遙(再)

1話完結:800字

 僕が子供の頃。多分、小学校の低学年だったと思う。母に連れられて、母のママ友の家に行った。何故、連れて行かれたのか? わからない。家で留守番をしている方が良かった。訪れたのは、古い一戸建ての家だった。


 中に入ると、


「奥の部屋でテレビでも見ていなさい」


と言われたので奥の部屋に行った。すると、部屋の真ん中で、夏なのにコートを着た女性が宙吊りになっていた。“首吊り?”いやいや、人が住んでいるのだからまさか首吊り自殺をしている死体があるとは思えない。でも、僕は怖くなって、目眩がした。


 僕は、母達が談笑している部屋に戻った。


「どないしたん? おとなしくテレビを見ていなさいって言うたやろ?」

「あの、この家にいるのは僕達3人だけ? 他に誰かいる?」

「いないで、今、私達3人だけやで」


 母のママ友が答えた。僕は気分が悪くなった。


「どないしたん? 青白い顔をして」

「気分が悪い」

「ほな、奥の部屋のベッドで寝ていなさい」

「いや……奥の部屋は……」


 奥の部屋に戻された僕。やっぱり首を吊っている女性がいる。僕は女性の奥のベッドに潜り込んだ。首吊り女性に背を向けて寝た。だが、背を向けていると後ろから何かされそうで怖い。僕は、仰向けになった。チラリと見る。やっぱりいる。女性はただ吊られているだけ。首を吊っているだけ。でも、怖い。もしかすると僕は弱虫なのだろうか?


 2~3時間その状況が続き、


「帰るで!」


 と母が言ってくれたので、ようやく僕は首吊りの部屋から脱出できた。2~3時間も、僕はお化けと同じ部屋で過ごしたのだ。


 帰り道で言った。


「あの家、誰か首を吊ってる? そんなわけないよね?」

「なんでわかったん? あの家、前の持ち主が首を吊って死んだから格安で買えたらしいで。あんた、見えたん?」

「うん、ずっと見えてた」



 その後、首吊り女性の姿が瞼に焼き付いてしまった僕は、目を瞑ると思い出し、毎晩、首吊り女性の夢を見続けた。あの家を離れてからの方が怖かった。実は、40年ほど経った今でも、首吊り女性の姿はハッキリとおぼえている。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

書こうか? 迷っていた話。 崔 梨遙(再) @sairiyousai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る