第10話 番外編① 夜霧と那砂


――――それは壹夜ちゃんがうちにきて暫く経った頃。


「……え、お前らまだなの?」

「まだって……その……っ」

八雲に問われ、夜霧さんが狼狽えていた。


何の話だろうか……?


「一辺ガツンと行って来いよ」

「いや、ですけど……ぼくには特殊な力があるので」

言霊の力だったっけ。


「那砂さんには使いたくないですが、思ってもみない拍子に出てしまえば、彼女の意思とは関係ない結果になってしまうかもしれません!」

那砂さんが関係してるのかな。


「お姉ちゃん鈍すぎ」

玻璃はりと遊んでくれていた壹夜ちゃんから声がかかる。え……鈍い……?


「あいつぁ俺の眷属選んでんだぞ?聞きゃしねぇよ」

「え……っ」


「言ってなかったか……?那砂は俺に生涯仕える選択をしてんだ。その代わり、女鬼としての幸せはさ……捨ててんだよ」

そっか……八雲と同じ寿命を生きるから。普通に夫婦はできないということ。


「でも、たったひとつ女鬼としての幸せがかなう方法があるとする」

「……それはっ」


「お前も選ぶか?俺の眷属を」

「選ばなければ、那砂さんと壱花さまが大変なことになるでしょう?」

確かに……主役の宴会ではすぐに帰ろうとしちゃうし、玻璃のことをお願いしている間は、夜霧さんについてきてもらっているのだ。

那砂さんとお買い物に行く時は、代わりに夜霧さんと八雲がみてくれるけど。


それでも夜霧さんの忠告は……ありがたい。


「なら、もうひとつついでに選んで来い」

「……っ、その……っ、それは」

もうひとつとは……?夜霧さんがかなりテンパってる?


「ねぇ、私の名前が聞こえた気がするんだけど、呼んだ?」


「わ――――――っ!?」

いつの間にか、夜霧さんの隣に那砂さんがいたのだ!


「そんなにびっくりしちゃった?ふふっ」

そしてにこやかに苦笑する那砂さん。


「そ、その、那砂さん……っ」

そして夜霧さんが意を決したように切り出す。


「ん?」


「その……ぼくも、八雲さまの……眷属にしてもらおうと思って……」

「あら、そうなの?それは助かるわ!一緒にがんばりましょうね」


「は……はい!」

にこりと笑みを浮かべる夜霧さんだけど……。


「夜霧、それだけじゃないでしょ」

壹夜ちゃんから鋭い指摘が入る。


「あら、何かしら?」


「えと……そのー……」


「おら、行け。こう言う時は気合いだぞー」

八雲がにやにやしている。


「簡単に言わないでくださいよ!」

「八雲ったら、また何か悪戯企んでるんじゃないでしょうね」

那砂さんの視線に、八雲がサッと視線を外す。


「ち、違うんです、那砂さん!」

夜霧さんが那砂さんの手を握り、見つめる。


「……えっと……」

「その……夫婦に……なってくれませんか……っ」


……え!?え――――――――っ!?


「本当に気付いてなかったんだな」

八雲!?

「お姉ちゃん相手に八雲さまも相当攻めたね」

「当然だろう?」

八雲が何だかドヤ顔を見せているが……。


夜霧さんと那砂さんは……!


「ん……うんっ」

那砂さんが……顔を赤くして、照れてる!?


「し、幸せに……しますから」

「うん……っ」

見つめ合うふたりが結ばれたことに心の中で拍手を贈った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る