第2話夢その2

俺はステージの階段で身をかがめながら、助けられそうな人がいるかを見渡している。

…8人いるな。

ステージの近くに3人、体育館の中央辺りに4人、出口のほうに1人。

左右でいうと、左に5人、右に3人。

半数近くが大怪我をしているが、早く止血などをすれば、十分に間に合う。

天井が落下するまでの時間を軽く予想したところ、あと2分くらいあると思う。

考えている時間はないが、どの順番で助ければいいだろうか?

近い人から助けるか、それとも遠い人から助けべきか。

それとも、左側にいる人から助けるか、右側にいる人を助けるか。

……近い人から助けるか。

俺は、まずステージの近くにいる3人を助けることにした。


「大丈夫ですか!もうすぐで、天井が落下するので、俺についてきてください!」


「…怖くて…動けないです…。」


「俺がおんぶするので大丈夫です!…よっと!」


顔面蒼白で 体全身が戦慄いている小柄な女子生徒をおんぶする。

おんぶすると、彼女が発生させている振動が背中に伝わってくる。

おんぶしている彼女を、黒衣の戦士に向けていても、風切は避けていくようだ。

風切が俺を避けた後の進行方向も、感じ取れる。

しかも、正確にだ。

…俺、やっぱ変なのかな?


「大丈夫ですか!俺と一緒に走れますか!」


「いや、走ったらあいつに技に当たって、下手したら死ぬぞ!一緒に走れるかよっ!……なんで、立ってて平気なんだお前?」


「よくわからないんですけど、俺には当たらないんですよね。ささっ、俺とぴったり行動してください!」


「よくわからねぇが、分かった!ぴったり行動すればいいんだな!」


強面で、ガタイのいい男子生徒は、俺を盾にするかのように走る。


「大丈夫ですか!…っ、早く止血しないと…。この人がおんぶしてステージまで運んでくれます!」


「…ありがとう…。」


「わかったぜ、任せろっ!…てっおいっ!俺におんぶさせようとすんじゃねぇ!」


「この人は大怪我をしていて、一人でステージまで移動するのは、とても難しいと

思います。俺はこの人をおんぶしているので、運ぶことが出来ません。お願いします、この人を運んであげてください。」


「……わかったよ、俺が運ぶ。お前のおかげで、技に当たっていないからな。よいしょっと!」


「ありがとう。急ぎましょう!早くしないと天井が落下するので。」


ガタイのいい男子生徒は、左の下肢が切断された女性の先生をおんぶする。


「では、行きましょう!」


「…ああ、行けるぜ!」


俺とガタイのいい男子生徒は、ステージに向かって全力で駆け出した。




「ステージについたので、おろしますね!」


「…ありがとう。」


俺は、全身が戦慄いている女子生徒を、落下した天井の後ろにおろした。


「おろすぞっ!」


「 ……。」


ガタイがいい男子生徒は、大怪我をしている女性の先生を、優しく同じところでおろした。



「あっ、お前無事だったか!いきなり飛び出してよ!間に合ってよかったな!」


「っ、先輩!まだ時間があると思うので、また助けに行ってきます!」


そういいながら、俺は、体育館の中央に向かって走り出した。


「…あっ!あいつまた助けに行くのか!…いやっ、兄貴、俺も助けに行きます!」


強面の男子生徒は、俺を追いかけて走り出した。


「…あいつら。俺は…。」


そう呟きながら先輩は、自分の右手の拳を強く握った。


残されている時間は、あと1分もないだろう。

だが、少しでも時間があるならば、俺は生き残っている人を助ける。

ステージに向かって走り出したとき、男子生徒が助けを求めていたのに、俺は見捨ててしまった。

その時、心臓が強く締め付けられるような罪悪感を抱いた。

もうあのようなことは体験したくはない。

…だから、俺は、もう誰も見捨てることはしない!!


「兄貴っ!あと5人いまっせ!どう助けますか?」


「さっきみたいに怪我している人をおんぶして運ぼう。」


「了解っ!」


体育館の中央に向かって走っている俺の背後に、強面の男子生徒が走っている。


「あいつ、止まりませんね。」


「あいつはあのままでいいんだよ。時間がないからペース上げるね。」


「了解っ!」


俺は走る速度を上げたが、背後にいる人もしっかりとついてきている。

体育館の中央に着き、怯えている男性に話しかける。


「助けに来ました。今おんぶしますね。」


俺は、左腕が切断された小柄な男子生徒をおんぶする。


「走るので、しっかりつかまっててくださいね。」


「…。」


出血多量で意識が朦朧としているのだろう、反応がなかった。早く止血しないとまずいぞ。

俺は、次に近い人へと向かって走った。


「大丈夫ですか。この人がおんぶしてステージまで運んでくれます!」


「わかったぜ、任せろっ!よいしょっと。」


強面の男子生徒は、右側の下肢と左手が切断された長身の女子生徒をおんぶする。

…変わったな、さっきは頼んだら拒否してたのに。そんなことを考えながら、次の人のところまで一緒に向かって走った。


「大丈夫ですか。一緒に…」


しまった、この人も大怪我をしている。一人じゃ移動するのは難しいので、誰かに運んでもらわないといけないのに、俺も強面の男子生徒も手がふさがっている。

いまは一人おんぶするだけでもかなりきつい。くそっ、俺にもっと力があれば、二人運べたかもしれないのに。


「兄貴、どうしますか。」


「…。」


どうすればいいんだ、俺は。何かいい案をはやく思いつかないと。この人も、俺たちも潰されてしまう。全力で走れば…。だめだ、おんぶしながらじゃ無理だ。

…わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない。

…くっ、誰かを見捨てないといけないのか。


「おーーーーーい!!大丈夫かーーーーっ!!」


「っ、先輩?」


なんということだろう、先輩がこちらに向かって全力で走っている。

大量の風切がとんできているのに、ほとんど当っていない。本当に運がよいのだろう。


「はぁはぁ、俺がそいつを運ぶぜっ!」


「…先輩、ナイスタイミングです。お願いします。」


先輩は自分の目の前に到着した。

先輩、本当に凄いです。

先輩は右足が切断された女子生徒をおんぶした。


「さぁ、急ぎましょう!俺を盾にするように走ってください!」


「ああ、わかったぜ!」


「了解っ!」


3人は体育館のステージに向かって走り出した。その時、体育館の骨組みの多数が風切によって切断されて、体育館が崩れ始めそうになった。


「やばいぞ、急いでステージまで行くぞ!」


「はい!」


「おう!」


3人は走るスピードを上げた。

急がないと落下した天井にぶつかって大怪我、いや死ぬかもしれない。

…くそっ、出口付近にいる一人を助けることができなかったか。もう天井が崩れる。


「やばい、天井が落下するぞ!!」


「「!!!」」


すごい勢いで体育館のステージ付近の天井が落下し始めた。くっ、急がないと潰れる。


「よしっ、間に合った!みんな無事か!」


「はい、大丈夫です先輩。」


「俺も大丈夫だぜ。」


俺たちはステージに無事たどり着いた。 おんぶされてた人達も無事だ。

… 一人助けることができなかったか。…いや、まだ間に合う。まだ全部落下していない。よし、落下してる天井をよけながら体育館の出口付近にいるあの人を助けるぞ。


「俺、出口付近にいる人を助けに行きます!」


「「は?」」


「なっなにいってんだよお前、天井が落下してるだろ。あほか!」


「そうですよ兄貴、もう間に合わないですよ。」


「いや、俺は助けに行ってきます。俺が死んでも悲しまないでください、では。」


俺は体育館の出口付近にいる人を助けるために出口付近に向かって走り出した。

絶対に助けてみせる、絶対に。


「…ああいうやつが、俺が目指している KAS に入れるんだろうな。俺も一緒に行けばよかったかな。」




「っ、あぶねぇ。」


走っている最中に、目の前に天井が落下した。風切はどこに来るかは分かるが、落下している天井がどこに落ちるのかはわからない。

前と後ろから天井が次々と落下している。

その時、


「あがががががががががががが…。」


黒衣の戦士がそう喚き叫んだ。

落下した天井が、体育館の中央の空中にいる黒衣の戦士の頭上に激突し、黒衣の戦士は落下した天井と共に体育館の床へと落ちていった。


「あいつ、ついに倒れたのか。」


体育館の出口の近くにいる俺は、走りながら後ろにいる黒衣の戦士を見た。

黒衣の戦士は白目をむき、口から泡を出して倒れている。今度こそ倒れただろう。

もしやつが倒れているならば、体育館を囲っている結界が解除されているかもしれない。それならば天井が落下する前に出口付近につくことができたら、一緒に外に出れば助かるかもしれない。



「大丈夫ですか、おんぶしますね。」


俺は体育館の出口付近にいる血だらけの男子生徒をおんぶした。

急いでステージのところまで、!!

自分の背後に天井が落下した。

ステージまでの道が、落下した天井で塞がれている。


「くっ、これじゃステージに戻るのが難しいぞ――!!!」


自分の頭上の天井が落下しようとしている。

後ろは天井で道が塞がれていて、前には出口があるが黒衣の戦士が結界を張っていたのでいけないかもしれない。

…一か八かだ、出口に向かって飛び出すぞ。


「うおおおおおおおーーー!!!」


俺は男子生徒をおんぶしながら出口にむかって飛び出した。


「はっ!!」


外にはまだ無数の風でできている結界が張ってあった。

くそっ、このままじゃ…、!!!

自分の目の前の結界の風が、自分を避けるように左右にわかれるのが感知できる。

これは風切の時と同じように俺を避けるようになっているのか、信じるぞ俺は。

俺は方向転換せずにそのまま結界に突っ込んだ。


「…助かったのか、やったーーーーーーーー!!」


俺は嬉しさのあまりに大声をだしてしまった。

結界の風が、感知できた通りに左右にわかれてくれたおかげで怪我をせずにすんだ。

おんぶしている人も無事だ。


っ、ステージにいる先輩たちは無事だろうか。

体育館の天井は全て落下し、体育館の壁も倒れている。

ここからじゃ落下した天井のせいでステージが見えない。

うーん、ステージに近かないと無事かどうかわからないぞ。



「俺、体育館にいた人達が無事かどうか確認してくるので、ここで待機していてください。」


俺はそう言いながら、 おんぶしていた人をベンチにおろした。


先輩、どうか無事でいてください。

俺はステージを目指して走り出した。

体育館の外からステージに行くつもりだ。

俺は結界を無効化することができるので、わざわざ体育館の入口から入る必要はない。


体育館の中央あたりの外で走っている。

そういえば黒衣の戦士はちゃんと倒れたのだろうか。

しかし風の結界が残っていたので、まだ倒れていない可能性があるのか 。

いや、奴が落下した天井に直撃し、そのまま下敷きになるのを目撃したので流石に倒れたか。

そうなると結界が残っているのはなぜだろうか。

くそっ、もっと技について聞いとけばよかったか。

そんなことを考えながら走っていると、いつの間にかステージの近くに着いていた。

ん、瓦礫が邪魔でステージが見えないな。


「よいしょっと。」


俺は瓦礫を登り、体育館の中へと入っていった。

うーん、やっぱり酷いな。

体育館の中は瓦礫で埋め尽くされている。

ステージまでの道に、自分の背丈よりも高く積みあがった瓦礫が多いので、瓦礫を登らないと近づくことができない。


「よっと。」


俺は瓦礫を登って、飛び降りた。


「あっ、先輩無事でしたか!」


飛び降りたところがステージで、そこには先輩達が立っていた。

先輩は涙が出ているが、嬉しそうな顔で俺に飛びかかって来た。


「おっ、お前無事だったのか。よかった、落下した天井にぶつかって死んでるんじゃないかと思って、俺、泣いてたんだぜ。」


「そ、そうですか。でも先輩たちも無事で良かったです。」


先輩は俺の胸元に、熱くて濡れている顔を押しつけている。


「あっ、兄貴!無事だったんですね!」


強面の男子生徒も俺の胸元に向かって飛び付き、涙で濡れている顔を押しつけている。

うーん、無事だったのはうれしいのだが、自分の胸元に、泣いている男二人の顔があるのは怖いのだが。


「先輩、早く体育館から出ましょう。怪我をしている人達を早く病院に連れていかないといけませんし、黒衣の戦士が倒れていない場合、逃げることが困難になると思うので。」


「ああ、そうだな。そういえば外の結界はどうなっているんだ?」


「まだ残っています。でも俺が近づくと、俺を避けるように結界の風が左右に分かれるので、大丈夫ですよ。」


「えっ?マジで?」


「……マジです。」


「……そうか、お前、技が当たらないようになっている体質なのかな。」


「いや、わからないです。でもそうとしか考えられないですよね。」


確かにおかしいよな、俺。

家についたら聞いてみよう。


「あっ、そういえば、俺がステージに行くのに通った道は、瓦礫が積み重なっていて、登らないと通れませんでした。」


「じゃあ別のルートを通らないといけないのか。確か左から来たよな。」


俺は先輩の問いに対して頷いた。


「なるほど、じゃあ右から出るぞ。体育館から早く出たいからな。」


「じゃあ俺が通れるか――」


「兄貴、俺が確認してくるっすよ。俺もいいところ見せたいっすからね!」


強面の男子生徒が自信ありげな顔で、俺の左肩に右手を置いた。


「いや、俺も行きます!黒衣の戦士がもし倒れていなかったら、危ないですよ!」


「駄目ですよ兄貴!俺、すぐに戻ってくるんで!」


そう言いながら強面の男子生徒は、脱出ルートを確保するため走り出した。




















































































































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