【最終章】雨と心

 雨が降る。


 陸上トラックはところどころに水たまりができていて、ランナーたちは今日のレースが憂鬱に感じられた。しかし、主人公の健太は、雨の中でも走ることを決意していた。


 健太は、スポーツを通じて自分の限界を超えることを常に求めていた。雨の日も走りこんでいた彼にと、って、雨は障害ではなく自分のホームグラウンドといっても過言ではなかった。彼の心は、1500m競争高校最後のに燃えていた。


「雨の中だって関係ない。すべてを出し切る。」と健太は決意した。


 彼はスタートラインに立ち、空を見上げた。雨粒が顔を打つ感覚が、彼に活力を与えた。




 On your mark




 瞬間、世界から音が消える。


 ピストルが鳴り、健太は力強く走り出した。彼の足は水しぶきを上げ、心は自由を感じていた。雨は彼の情熱を冷ますどころか、さらに燃え上がらせた。


 『400mの通過 64秒』


 アナウンスが響く


 健太は先頭集団にいた。彼の呼吸は整い、足取りは軽やかだった。雨はますます強く降り、ほとんどの観客はレースを見ずに荷物のこと心配していたが、そんな些細な事で彼の意志は揺るがなかった。彼はただ前だけを見て走り続けた。


 『800mの通過 2分6秒』


 半分の距離を過ぎ先頭集団の全体のペースが上がっていた、肺が悲鳴を上げ、体は疲労を感じ始めていた。しかし、彼の心はまだ強く、雨の中でさえも彼の熱意を燃やし続けていた。彼は先頭に必死に食らいつき、リズムを失わないように集中した。


 残り600m地点で、ほとんどの選手がラストスパートをかける。しかし健太はまだ温存していた。前の選手を離さない程度に。


 最後のラップに入ると、健太はスパートをかけた。彼の足はもはや根性だけで動き、心は勝利への渇望でいっぱいだった。


 水没したトラックを踏み、水しぶきをあげながら、彼は限界を超えていた。


 『1200mの通過 3分3秒』


 しかし、先頭との差は縮まらない。





 最後のレースなのに、こんな平凡に終わるのか。さみしいな。


 3年間、目立った結果も残せなかったな。





 彼の思考に『敗北』が浮かんでくる。


 ...不意に、額に一滴の雨水が当たり、思考がクリアになる。





 は?負けるかよ?





 落ちていたピッチが再び上がる。疲労で短くなっていたストライドが長さを取り戻す。


 前には8人、一人でも抜かせば入賞。そして現在8位は5メートル前。



 こいつだけは絶対に命と引き換えになろうが抜かす。



 健太は文字通り命を懸けてで走る。


 命を懸けた人間は、懸けていない人間と比べ物にならない心を持つ。覚悟が違うのだ。


  他の選手と違い、健太は温存していたこともあり、他の選手の速度が落ちていく中で、一人だけ異様な速さで駆け抜けていく。


 一人、また一人と抜いていく。


 最後の直線ホームストレート。先頭と健太の差は10mほど。


 「勝てる!」そう確信した健太は一心不乱に脚を動かした。それはもはや、走るというよりも、胴体についている棒を地面に突き刺すという表現のほうが正しかった。


 健太が先頭を抜く。しかし、先頭も負けじと張り合う。


 二人は全く同じ速さでフィニッシュラインへ進んで行く。


 最後の力を振り絞り健太はゴール直前、腕を後方に振り、胸を突き出す。ディップする


 健太は一位でフィニッシュラインを越えた。


 ゆっくりと減速し、、トラックに振り向き。3年間の思いを込めて叫ぶ。


「ありがとうございました!」


 健太は深々と礼をする。


 その姿に、だれもレースなど見ていなかったはずのスタンドからは拍手の嵐が起こった。


 健太は堂々とトラックから退場し、赤いタータンの部分から出るまで、決して倒れなかった。


『写真判定中の速報です。 一着は......健太君、書読高校 3分46秒54 大会新記録です!おめでとうございます!』


 放送が終わると、拍手はより一層強まった。しかし、健太がその光景を目にすることは無かった。


 彼の記録は驚異的だった。千分の一秒差で1位になり、さらに彼は自分の記録を更新し、高校最後のレースで最高のパフォーマンスを見せた。雨は止むことなく降り続けたが、健太の心は晴れやかだった。彼は自分自身との戦いに勝利し、新たな記録を樹立したのだ。


 雨はただの天候ではなく、健太にとっては自分を試し、自分に試される機会だった。彼はその試練を乗り越え、心を強くした。そして、彼は雨の中で自分自身を見つけたのだ。



 レースを終えた健太は、雨に濡れながらも、心の中で勝利を喜んだ。彼は自分の限界を超え、新たな記録を打ち立てた。雨は彼にとって、心を強くする試練であり象徴であったのだ。


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 この度は、私の物語をお読みいただき、誠にありがとうございます。皆様の温かい支持があってこそ、物語は生き続けることができます。


 雨の滴が窓ガラスを伝うように、言葉は紙(Web小説なので画面)の上を滑り、心を動かす力を持っています。皆様が私の物語に耳を傾け、心を開いてくださったことに、深く感謝しております。


 物語は、読者一人ひとりの想像力の中で、それぞれ異なる色彩を帯びて輝きます。皆様が私の作品を通じて何かを感じ、考え、そして何か新しい発見をされたなら、これ以上の喜びはありません。


 これからも、皆様に愛される物語を紡ぎ続けることができるよう、精進して参ります。今後とも、どうぞよろしくお願い申し上げます。


心より感謝を込めて


追求者

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雨と心 追求者 @pursue

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