第24話 番外編 小さな兄妹


――――――――ぬかった……完全に。


いつものように、彼女の元へと潜り込むはずが。子狐の姿に化けたユウリンは、胴を吊るされ途方に暮れていた。とは言え尻尾は全てしまうことはできずに3本出ている。

それはまぁいいのだ。こっそりとユウリンが会いに行っている彼女は、あやかし退治の名家の出身だ。しかしながら無能であるがゆえに家を出されてしまった。


かつて現し世で暴れた化け狐であったユウリンは、矢神楽と言う退魔師の一族にコテンパンにされた過去を持つ。しかし矢神楽もまた、ユウリンによってめちゃくちゃにされた怨みと恐怖甚だしく、双方は長らく敵対関係にあった。


そんな家の娘が無能だからと矢神楽の庇護を外れた。


無能ならば、攻撃を仕掛けてくることもない。しかし矢神楽の縁者であることに代わりはなく、その血を利用して、久々に目にもの見せてくれようかと企んだ。


そしてやすやすと彼女がひとりで暮らすアパートへと忍び込んだのだが。


「よくもまぁ、忍び込もうと思ったな、狐」

「ひいぃっ!?」

本来であればいるはずのない、それがいた。


「おま、おま……っ、シロキ……」

「ふふっ、私を知っているのかい?」

知らないはずがないだろう!?


「何で現し世に……っ、気配も感じなかったぞ……っ」

「そこら辺は……得意だからね」

シロキシンは元来、結界とか、封じることが得意な鬼。だからこそバレずにこんなところに……!


「だが、ここは……」

矢神楽を追い出された娘の……。


「不思議な縁だろう?」

まぁ……確かに。その上……。


「狐のあやかしさんなの?なら、稲荷揚げ、食べるかしら?」

ふんわりと微笑んだその娘がご馳走してくれた狐うどんは……なかなかに美味であった。


シロキシンは娘……楓子に敵意がないならと、度々侵入するぼくを見てみぬふりしていたのだが……。


そんな内緒の逢瀬は突然終わりを告げる。


「お……おろせ……ぼくは楓子の友人だぞ」

楓子はぼくとおそろいのその名を教えてくれた。友人の証だと。シロキシンにはすっごく睨まれたけれど。


でもシロキシンは何も言ってこない!つまり公認なのだ……!だけど。


「琳に近付いた」

この妹大好き、シロキシンの血と力を存分に受け継いだガキは……っ!!


「おにーたん、はなしてあげて。きつねちゃん、かわいそお」

その小さな救世主は、楓子がぼくとお揃いにしたと言う、娘。

矢神楽の血を引くのに、仇敵のぼくと同じ音を持つ。楓子も考えたものだ。そうであれば、矢神楽はこの子に近付くことを躊躇する。


「だけど、琳。こいつはあやかしだ。捕まえて殴っとかないと」

考え方がヤバすぎる!それにあやかしはお前の父親もだよ!いや正確にはあの方は鬼神なのだが。

「でもぉ……」

小さな天使はぼくに慈悲を惜しまない。そしてそんな天使の頼みに遂に、【鬼】が折れた。


――――――――ぼくはボコられてやつの下僕になったけど。


その顛末と言うか窮状をシロキシンに訴えたら爆笑されたのだが……!うぬぬ……っ。


しるしは恐らく、この現し世で暮らせるのはあと少しだろうな」

「それは……」

「半人の身で……あの子は多くを受け継ぎ過ぎた。私は完全なる鬼だが、あの子は違う……。いずれは隔り世に帰らねばならない」

「楓子たちはどうするんだよ」


「琳はまだ、その力は眠ったままだ。そして楓子も……楓子をひとりにはしたくない」

「……シロキシンさま」


「君も……その時は……どうかしるしと共にいておくれ」

腐れ縁ではあるけれど。シスコン狂ではあるけれど。


「ぼくも楓子に会いに行く。そしたら、お揃いの娘のことも見てくる。そして主に伝えてやるよ」

「そうか。それならあの子もきっと、喜ぶだろうね」

「うん」

それは……あの小さな天使が、ひとりになるまで続いた。あの天使は矢神楽に囚われて、主は怒り狂いながらも、シロキシンさまに止められたから……。


迎えに行くその時まで、印を刻むことしか出来なかったけど。


それでも今は……。


「お兄ちゃん、卵焼きできたよ!」

「あぁ、琳」

今は一緒だからね。


【番外編(完)】

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あやかし後宮の新米側室。 瓊紗 @nisha_nyan_

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