第2話 暗殺危機


「取り敢えず……こいつらの返却はお前らに任せる。こいつらが暗殺しようがどうだろうが、どうでもいい」

どうでもいいの……!?そうなの!?私は生命の危機なんだけどぉ……。


「本気で殺したら次こそ本当の忍同士の戦争だ」

ニタァッと嗤う霧連むづらくんの表情にピクンと肩を振るわす。このひとは、私と違う次元を生きているような気がしてならない。

だってまるで……彼はそうなることも楽しそうだと言わんばかりの雰囲気なんだもの。


「その子はどうするおつもりで?」

「ん?俺たちの正体を知った以上は……決まってるだろ?こちらの気も知らねぇで勝手に舞い込んで来たのは……お前の方だ」


ゾクリ。


……え、えと、あのー……。一体私はどうなる運命で……!?一応助けてくれたのよね?助けてくれたのにまた生命の危機ドSとかは勘弁して欲しいのだけど……!?


「そんじゃ」


彼はそう告げると、不意にまた身体が浮き上がり、塀の中へ……って。


「ちょぉ――――――っ!?この塀は越えていいものなの……!?私これでもカタギなんですけどぉ~~~~っ!?」

ここって入ると恐い目に遭うテンプレじゃないのぉ――――――っ!?


「あぁ……?ずっと外に突っ立ってるつもりか?統木すめらぎに迷惑だ。今度はあのおっかないおっさんどもが来るぞ」

「……え?あの……?」

塀の中に着地した霧連むづらくんが、指差したのは。


「……あん?おい椿鬼つばきぃ、おめぇ誰だそいつぁ」

「女連れ込むたぁいい度胸してるじゃねぇか」

ひぁ――――――――っ!?明らかにヤバそうなコワモテのおぉぉっ!!!


「うるせぇ黙れ。串刺しにすんぞ」

クナイでか!?クナイでなのか!?さっきの見た以上はクナイを想像してしまう!と言うかこんな恐そうなお兄さんたちになんつー口の利き方を……!

そしておっさんと呼ぶには抵抗を覚えちゃうお年頃――――――――っ!!


「がはははははっ!それは勘弁……!万が一尻に刺さったらどうすんだ……!」

そう言う問題か!!?そうなのか!?


「しかし……ぼんと年齢近そうだな?」

ギクッ。それって……その、間違いなく統木すめらぎくんのことよね……?近いと言うか……同級生ですぅ――――――っ。そしてそのために繰り広げられるクラスルーム劇場に調子に乗った私はロッカーに忍ばせていたニンジャコスチュームに身を隠して瑠夏るかさまのティータイムを撮影し、そのままルンルン気分ですたこらついていったら、――――――統木すめらぎくんの衝撃の正体を知ってしまったぁ――――――☆いや、いいの。ある意味萌えたから……!統木すめらぎくんと瑠夏るかさまの恋の行方に萌えたからぁ~~~~っ!でも塀の中は絶対ダメだと言い聞かせてたのに何で私は今塀の中ー。


氷隠きがくしの問題だ、口を出すんじゃねぇ」

き、がくし……?また知らない用語が……。


「なら、いいけどよ」

ぼんに怒られるこたぁするんじゃねーぞ」

統木すめらぎくんが……怒る?あまりイメージできないのだけど……。


「ふん」

しかし霧連むづらくんはそっぽを向いて行ってしまう。……あ、もちろん私も連行されるてるのだけど。


「あの……霧連むづらくん」

椿鬼つばき。そう呼んでただろ」

「え……?」

下の……名前?まぁ確かにさっき、フルネームを呼んだけども。


「いずれ夫婦になるんだ。苗字はおかしいだろう?」

「はい……!?ふう、ふって……何で!?どこがどうなって……あ、ニンジャコスプレイヤー同士付き合おってことかー!趣味が合うのはいいことだ……!うん!」

それにどことなく初恋の君に似てるし、顔は悪くない!目付きとニヤリ笑みが凶悪なだけで……!


「コスプレじゃねぇよ。お前分かってんのか?俺と結婚しねぇと、マジでカミカクシに拐われんぞ」

にこぱーっと凶悪とは真逆な笑みを見せてくる霧連むづらくん……。いや……椿鬼つばき……くん?何かさっきと違う意味で恐いんだけど迫力マシマシなんだけど。


「いや、マジで分からないっす」

「なら取り敢えず来い」

「いやー、行っても来なくてもまだおろしてもらえませんが――――……あの、自分で歩くけど」

「もう着く、諦めろ」

「自立歩行をぉっ!?」


※※※


「……んで、お前は何で生命狙われてんだ?」

帰らずの屋敷(※命名:私)に連れ込まれた私は、母屋と思われしでかい屋敷の裏にある離れ……といってもでかい。離れだけどもそれ相応にでかい屋敷に連れてこられていた。


そして目の前には霧連むづら……椿鬼つばきくんだ。

うーん、顔は同じだけど、学校での椿鬼つばきくんと違いすぎて……何だか落ち着かない。

でもその目だけは同じなのよね……。あと初恋の君に良く似てるのがまたさらに……ぐ……っ。


「いや、私が聞きたいくらいなんだけど……」

「狙われる覚えは?」


「いや……うーん……まさか……っ。統木すめらぎくんの実家の秘密を知ってしまったから……!?でもこれは……これは不可抗力なんですぅ……」


「……いろいろとツッコミたい部分はあるが……大体何でうちのぼんを付けてた」

「いやそれは……てか、椿鬼つばきくんもそうじゃないの!?」

「そうって何がだ」


椿鬼つばきくん知らないの?そう……そうだったの……」

私の早とちりだったとは……。


「でも、やっぱり推しカプのことだもの!語るのは任せて……!」

「はぁ……」

そしてもしかしたら……仲間が増えるかもしれないよ、私のオタ友ヒョウカちゃんっ!椿鬼つばきくんだって統木すめらぎくんと瑠夏るかさまのことを陰から付けてたんだもの!素質は十二分にあるわ!!


「いい?うちのクラスには現在2カップルがいるの。1組目は学校で庶民と呼ばれる出身ながら、特待生枠で入学したヒロインちゃん:春町はるまち陽咲ひさちゃん……!」

「あ――――……何か目立ってた女か。ぼんを馴れ馴れしく話し掛けて名前呼びしてやがったな。殺気出したらぼんにバレて怒られたわ――――……」

「いや、あんた何してんの、みんなのヒロインちゃんに。成金お嬢とか我が儘お嬢にやっかみとか受けてるけどけなげに頑張ってるヒロインちゃんに何殺気出してんのよ。今日だって、瑠夏るかさまウォッチングに向かう最中さなかいびり現場を目撃しちゃったんだから。もちろんヒーローが果敢に助けに入ったのだけど。でも……あの子は天使よ?あの子は女神の生まれ変わりか何かなんだわきっと……!だってとぉーっても優しい上に、やっかみ振り撒く彼女たちのことも許し、手作りのお弁当とかお菓子とか作ってくるのよマジで尊すぎる――――――――っ!!……はっ、まさか……っ」

「何か思い当たったのか?」


「まさかあれが原因かしら……。その……ヒロインちゃんのイチオシヒーローがいるんだけどね。その名も……花見咲はなみざき 朝来あさきくん!彼は政財界に名をとどろかす国内有数の資産家に生まれた、有数の名家のお坊っちゃまなのに、その気さくでフレンドリーなところとか、顔がいいところとかでモッテモテなの……!年子の妹さんがちょっとブラコン気味なんだけども、きっと陽咲ひさちゃんがその優しさで包んであげて軟化するんじゃないかしら?多分……花見咲はなみざき兄妹は学校で一、ニを争うお坊っちゃまお嬢さまじゃないかしら」

「あん?そんなのカタギから見たオモテの顔だろうが。統木すめらぎだって裏社会で名をとどろかす大家だかんな!?ぼんが一番だ!!」

「……あんたほんと統木すめらぎくんが好きよね」


「ここでその言い方はやめろ」

「え?」


「おやっさんもクソジジイも統木すめらぎなんだよ……」

「あ――――……そう言う意味?」

てかクソジジイ?クソジジイって誰かしら、統木すめらぎくんのおじいさまかしらね?統木すめらぎくんのことはマジでマブいめだけれど、おじいさまはその枠でいいの?多分……うちみたいな関係ではないだろうけど。

だって本当に怨んだら……クソジジイでは済ませないものね。


「じゃぁ……璃音りおんくん?」

今をときめくキラキラネーム、璃音りおんくんとお呼びしてもいいのだろうか……!

ついに推し活のため、璃音りおんくんも下の名前デビューしていいのかしら……!


「因みにそのキラキラネームはおやっさんの趣味でな――――……、本人は呼ばれるとめちゃくちゃ眉間の皺が険しくなる」

ぐはっ。アカンやん。


「じゃぁ……ぼん、さん?」

「可だ」

あざぁ――――――っす。てか何の試練よ、これ!!


「じゃぁ話は戻るんだけど、陽咲ひさちゃんとその朝来あさきくんのカップルがね、今私のイチオシなわけよ。金持ち学校に慣れない陽咲ひさちゃんを優しく支え導くイケメン王子・朝来あさきくん」

因みに朝来あさきくん呼びは本人の認可外!でも花見咲はなみざきさまとかだと紛らわしいから、オタ友と一緒にそう呼ぶことを正式に決めたのだ!うんうん~~!と、頷いていれば。


「……うちのぼん関係あるのかそこに」

「大いにあるわよ!」


「ふぅん?話してみろ」

「えぇ、もちろんよ!実は朝来あさきくんには幼馴染みで許嫁と呼ばれるお嬢さまがいるの!本当に許嫁かどうかは不明だけどね!」

だって現代日本だもの!自由恋愛時代だもの!

でもこう言う世界には隠された政略結婚なんてのもまだあるわけで……。


「そしてそのお嬢さまこそがライバル令嬢の……海守みかみ 瑠夏るかさま!多くの貿易企業を連ねる一大グループ・海守みかみ家のお嬢さまね!」

「あぁ……さっきぼんと一緒にいた……」


「そうそう、その瑠夏るかさまよ!瑠夏るかさまは朝来あさきくんが陽咲ひさちゃんにばかり構うのが納得いかないんだけど……この間遂に……っ、朝来あさきくんに『構うな』と怒られてしまったのよ。そして落ち込む瑠夏るかさまにさっと飲み物を差し入れたのが……ぼんさんよ」

「……それがどうかしたのか?」


「どうかって……新たなときめき恋のステージ爆上がり!!私はここに……ぼんさんと瑠夏るかさまの、ライバル令嬢との恋の予感を覚えたの……!これは推せる!いいえ、私は推すわ!」


「……ふぅん……お前の話は分かった」

「ほんと!?椿鬼つばきくんも一緒に推す――――?ぼんさんと瑠夏るかさまカポー!」


「……んで、お前が思う心当たりって何だよ」

は……!その話がぶっ飛んでた……!


「いや……ほら。陽咲ひさちゃんって根っからのヒロイン体質でしょ?」

「はぁ……ヒロイン体質?」


「そう……中には陽咲ひさちゃんが朝来あさきくんと仲良しなことを妬む令嬢もいるってわけ。だから複数の令嬢に囲まれて嫌みを言われて、ピンチな時があったのよ。でも私はモブ。このまま出ていっても何もできない!だけどそんな時こそ朝来あさきくんの出番……!でも朝来あさきくんなかなか来ない!現実は小説のようにはいかなかった……だから……」

「だから?」


「陰からこっそり……グミの実を蒔いてやったの。令嬢たちは驚いて逃げて行ったけど……。く……っ、バレてないと思ってたのに……。私が犯人だと突き止めて……それで生命を……っ!?」

「本当にそうだとしたらその令嬢はアホだぞ」


「仕方がないのよ。教養の高いマジお嬢さまばかりじゃないの。中には家に金だけはあっても教養が身に付いていないお嬢さまもいるのよ。全く……1年生だからとはいえ、それが原因なわけないし。陽咲ひさちゃんは庶民出身の特待生とは言え、2年生に手をだすとか何考えてるのかしらね。でもそんな中でも瑠夏るかさまはマジもんのお嬢さま……!陽咲ひさちゃんの庶民派言動に苦言を呈することはあれど……陰でみみっちい嫌がらせなんてしないのよ……!今日は瑠夏るかさまのティータイムも張っていたけれど、本当にそれがひとつひとつの所作に滲み出てるのよ。……あれ、ティータイム……ティータイム……何か思い出しかけてるのだけど……いやいや今はそれよりも……!そんなけなげなお嬢さまがライバル令嬢になって、そして新たな恋に行けそうならば……推さないわけがないじゃない!!放課後ぼんさんと帰ることになったシーン、最高だった……!あぁん萌え~~っ!!」

ごめんね私のターンのセリフ長くて……!でもそれがオタクなの!ついつい息継ぎもせずに語りすぎちゃうのおぉっ!!


「……推すだの萌えだのなんだのは知らんが……結局理由は分からないってことだな」


「んー……そうねぇ。それ以外は……」

一瞬実家のことが思い浮かんだが……いやそんな……まさか……?


「……やっぱりぼんさんの実家の秘密を知ってしまったから……!」

「それはないな。統木すめらぎが抱えているのは俺たち氷隠きがくしの忍。頭隠かみかくしの忍が遣えているのは花見咲はなみざきの家だ」

「それって朝来あさきくんの……」


「そう。そして双方オモテと裏を取り仕切る商売仇。統木すめらぎ頭隠かみかくしに依頼するわけがねぇな。……あと単純に思ったんだが……お前、海守みかみのお嬢とぼんもだが……話の流れからしてもしかして花見咲のボンボンも付けたんか?」

「そりゃぁ陽咲ひさちゃんとのリアルロマンスを愛でるために……!」

「そこが一番気になるんだが」


「……え?」

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