ライバルお嬢さまでもヒロインちゃんでもないモブの私のポジションがおかしいんですが!?

瓊紗

第1話 生命の危機



何この状況……どことなく身に覚えがあるような……?


しかし一体、どうすればいいのやら。

あの時は、どうしたのだったっけ。



「あの……怪しいものではございません……?」

むしろ怪しいのはそちらです……!いや私もひとのこと言えないと思うけど……!ついついラブロマンスの匂いを追っかけて来ちゃっただけで!いや来ちゃったがために……!!


「……何故」

じっと私を見る瞳は、いつもの分厚いレンズの奥にある切れ長の鋭い目。


素の顔立ちはいいのよ。そう、飛び抜けて。一部女子が地味男子だけど、どこか大人っぽくてらミステリアスで、何かいい!……って言ってたし……!

ただ目つき……目つきがヤバいのよね。


特に今は……防波堤メガネもかけていない上に、いつも以上に感情の消え失せた目元。

冷たい視線。

闇に溶け込みそうな真っ黒ずくめなその衣装は、目元以外の全てを隠している。まさしくジャパニーズ・ニンジャ……かおんめぇわ……っ!


何かしら、ほんと何なのかしら。現代日本でこんな……。ご近所にニンジャコスプレイヤーがいたなんて驚きなのだけど……!?


オタクの心をくすぐ……じゃない

背筋がぞくぞくするのだけど!?確実に楽しみなのではないわよね……!?


ここは、その……。

うん、接点もほとんど何もないけど、ただひとつあるじゃない!その、切り札は……!

この切り札と言うのは……いざというときに結構役に立つのよ……!


「だから……その、一応クラスメイトじゃない、私たち」

「は……?」

目の前の彼の目元が明らかに驚いているようなのだが。え……まさか私、顔と名前覚えられてない……!?いやまぁ、私は庶民派なのだが、実家が実家で否応なしにお嬢さまお坊っちゃま向け金持ち学校に通わされている身……。生徒数も多いしクラスの数も多いもの。それに高校2年でクラス替えがあるのだ。

まだまだ新しいクラスになったばかり。覚えてないと言われても仕方がないわ。


そして私はモブ。目立たず騒がず教室の隅っこで忍に徹するモブなのよ。

よくある恋愛小説に出てくるかわいく可憐なヒロインちゃんや、ライバルお嬢さまのような位置につこうだなんておこがましいことは言わないわ……!こちとら、地味系女子で通して来たのよ!お兄ちゃんはかわいい連呼するシスコンだけど……ヒロインちゃんの方が……かわいいもの……!


――――――そう、だから私たち……!


地味トモじゃない!話したのは今が初めてだけど、トモを名乗れる、それがクラスメイトの強制力!!


え……?そんな強制力ない……?いいのよ!生命の危機なんだからつべこべ言わない!今は生き延びることが、肝心よ……!!


うん……ケータイは昼間のやらかしで充電が心もとないからヒョウカちゃんにも連絡できないし……。お兄ちゃんは忙しいからそもそもすぐには気が付かない!後は警察だけど……補導されたら確実に実家との一悶着があるぅっ!!

だからこそ……この場を切り抜ける度胸も必要なの……!


霧連むづら椿鬼つばきくん……だったよね!ここで出会ったのも何かの縁!!仲良くしようよ!」

いや、何の縁だ、不審者の縁かいと言うツッコミは今はいいの。


「……どうして……覚えてる……」

「はぇ……?」

私が名前知ってることが……意外だった……?いやでも、同じクラスなのだし、知ってる子は知ってるわよね!私、変じゃないわよね!格好は変でも!変なんて言わせないわだってあなたもニンジャコスじゃない……!!


「何故おさの名を……っ、ここまでとはな……」

はい?長って何……?問いたいところだがそうはいかない!だって私今、彼の目の前で後ろから首にナイフ突き付けられてるんだけど、彼のコスプレ仲間にぃぃっ!あれ、でもどっかで聞いたような声よね。つい最近なのだけど……って、今そう言う場合じゃない~~っ!とにかく、生き延びなければ……っ!


ここはクラスメイトの縁……た、助けてくれないのだろうか、助けて欲しいんだけどもよろしくお願いしますコスプレの神にかけてどうか、どうかお願いします神さまの言う通り!

あれ……?これは違う時に使う呪文だった気が……。


「よせ、放してやれ」

「しかし……」

「どうせ逃げられやしねぇだろ」

彼の言葉と共に、背後からの圧が去る。そして首もとのナイフもすっと去っていく。

やっぱり、持つべきものはクラスメイト!地味トモよね……!

――――――でも何か最後恐いこと言わなかったか?


しかし、生命の危機は脱したのよね。え?脱してるわよね、これ。ふぅ……何とかなったぁー。

後は出会えた記念にコスプレショットでも撮らせてもらわなきゃ。

次回からは鑑賞仲間が増えるわねぇ。


「……って、あぁ……っ、いけない!鑑賞!!」


「は……?何言ってんだ」


「何って決まってるじゃない!こんなことしてる場合じゃないわ!」

「こんなこと……?」

「そうよ……!時にはこうして対立し合うこともある。拳で語り合えば何のその!青春か若気の至りか何かのノリで乗り越えればもう言うことはないわ!私たちはもはや固い絆で結ばれたの!」

「……いや、拳は交えてないが……?」


「物理じゃないの!精神の拳よ!最近はそう言う時代の流れだもの!青春だって、精神の拳で語り合う時代が来たのよ!そう、恐れるな。突き進め若人たち私たちよ……!何も恥じることはないの。これからも……一緒よ……!」

――――――――殴り合ったら暴行罪でお巡りさんに厄介になることになるじゃない!最近は駅の改札でもポスターめっちゃ貼ったる恐いじゃない……!


「これからも……一緒か」

「そうそう、楽しいことは一緒にわかち合わなくちゃ。争っていても意味はないのよ。精神の拳で語り合った以上はわかち合いましょう!この素晴らしき恋のときめくメモリアルを見守りゴールインを見届けるのよ……!!」

途中になっちゃったけど……その後の展開は……っ!


「……ってあれ!?瑠夏るかさまと統木すめらぎくんがいない――――――――っ!!?」

ドキドキ2人のときめきシーンどこいったぁ――――――――っ!?私のラブロマンス~~っ!!!

「とっくに解散してるが……?」


「いや……そうよね。現実は恋愛小説のように、ページを読み終えて読み返すまで待ってくれるわけはないのよ……!あぁ……見逃しちゃった再配信なんてないのよ現実にゃぁ……」

「……お前は一体何の話をしてんだ」

「……え?何って……そりゃぁ瑠夏るかさまと統木すめらぎくんの……」

その続きを告げようとした時だった。


「……こっちだ……っ!」

霧連むづらくんは何かハッとしたかのように顔を上げると……いきなり私の腕を掴んで引き寄せるうぅぅ……っ!?


「ひゃぁっ!?」

ぐらりと揺れる身体は、反射的に霧連むづらくんの身体に引き寄せられ……。



ズドドドドッ!!



え……?さっきまで私の頭があった場所に、何か鋭いものが大量に突き刺さったような音が……。


「敵襲か……!」

「えぇ、敵……組同士の抗争――――――――っ!?」

しかしあり得ない話ではない。だってここは……っ!


「いや、違うでしょうに」

さっきまで私にナイフを突き付けてきていた男性の呆れた声が聞こえるが。……え、違うの?じゃぁ一体今のは……。


くるりと顔を回転させれば、塀に大量のクナイが突き刺さってるうぅ……!?


「え、ほんとに突き刺さるもんなの……!?これ……っ!」

「少し黙ってろ」

「……っ!?」

頭上からの声にドキリとして顔を上げれば……霧連むづらくんの顔。あれ、今私抱きしめられてる!?いやでも妙なぶっ飛び思想は持ちませんよ……!!だって私はモブだもの……!モブでいいのよ傍観者で……!


「カミカクシの連中だな」

霧連むづらくんが私を抱いたまま勢いよく木の上に華麗にジャンピングしたんだけど!?ちょま……っ、そんなアニメみたいな動きできるの……!?コスプレイヤー魂ヤバすぎるでしょ……!その前に……。


「神隠し?オカルト系……!?」

――――――まで盛り込まれるの!?


「違う、頭隠すで頭隠かみかくし

「マジかよ。頭って……頭の何を隠したかったのそのひとたち」

「ぶは……っ」

え、吹いた!?霧連むづらくんが吹いた……っ!?


「それはウケるな。新解釈だ……!ぶちのめすついでに頭に貼りつけてやれ……!」


「ぶはっ、は、はい!」

「ぐふ……っ、ふふふ……っ、了解……!」

いや、周りのコスプレイヤーさんたちも吹き出してるんだけど……!?

しかも……双子……?何となく似てるっよーな……。

そしてニンジャ・コスのお陰で目元しか見えないがあの目元……どっかで……。

――――――――てか、みなさんすごすぎる!コスプレイヤーのレベルが違いすぎるうぅぅ――――――!!!ぎゃーっ!?高いところからの急降下恐怖ぅ――――――――っ!?


あぁ――――――――っ!?茂みから現れたその迷彩ニンジャコスプレイヤーさんたちがあたま隠しさんんんっ!?


てか、ニンジャと言えば黒装束じゃない!何で迷彩服にしてんのよ!それじゃぁニンジャじゃなくなっちゃうでしょ――――――――っ!?


しかし霧連むづらくんやみなさんコスプレ凝りすぎ!みなさんまでクナイ持ってるし!


クナイ投げつけ、こっちに飛んでくるクナイを短刀で華麗に叩き落とし……っ。



「この俺の前で、いい度胸をしているな……!」



そう霧連むづらくんが言ったその瞬間、不意に霧連むづらくんが口蓋を外し、その下からニヤリと笑みを漏らっ!


そして強烈な霧連むづらくんの蹴りがあたま隠し集団さんたちをなぎ払う~~っ!?


いや、どういうコスプレイヤー技!?3、4人纏めて吹っ飛んだんだけど……!

どんだけ修行つめばその域に達するのおぉぉっ!?


そしてあたま隠し集団のひとりが苦しそうに呟く。こう言うの、テンプレよね。


「ぐ……っ、霧連むづら椿鬼つばき……何故、お前がぁっ」

いや、見るからに霧連むづらくんなのだけど。私と一緒のところに先制攻撃食らわしてきたのに何を……。


「あ、これもテンプレ?お馴染みだから何としても言おうとしたのね……!まさに……一流コスプレイヤーの極み……!」

「コスプレじゃねぇぞ」

「……え?でもみなさんニンジャコスプレイヤーよね」


「……俺たちは本物の忍。こいつらも、お前を本気で殺す気で来たんだよ」

「こ……ころ……す?何の冗談を……あ、まだコスプレイヤー交流会の続き?」


「交流じゃねぇ。殺し合いだ」

「……っ」

霧連むづらくんの冷たく重い圧と共に放たれた言葉は、どうしてかゾクリと私の身をこわばらせる。

――――――何か、私の知らない……知ってはならないものが……そこにはあるような。


「まぁ今はいろいろうるさいので、本気でやってもトドメまでは刺しません」

と、コスプレイヤー仲間さん……じゃなくてマジの忍さん?ジャパニーズニンジャ……!?


「だがこいつら……本気で殺そうとしてたな」

その……本気でと言うのは……マジなの……?


「我らの協定を破る行為に値します」


「ふん……なら決まってる。こいつらがやろうとしたことは……世間オモテには出ない……秘密裏なお前の暗殺だ」

「……はい……?」


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