初のミステリー!
崔 梨遙(再)
原案は小学5年生の時のものです。
1月18日、某中学校の1年生の女子、小高桐絵が川沿いをランニング中に毒により死亡していた。
1月25日、同中学校の1年生の男子、大林茂が教室で発見される。毒により死亡していた。
2月8日、同中学校の1年生の男子、中森孝夫が教室で発見される。毒により死亡していた。発見されたのは大林茂と同じく1年C組の教室。
2月14日、同中学校の教諭、杉岡弘志が1年C組の教室で死亡。死因は同じく青酸カリ。
毒はいずれも青酸カリ(シアン化カリウム)。その内、生徒3人はスポーツドリンクのペットボトルが、教諭の側にはお茶のペットボトルが死体の側に転がっていた。そのスポーツドリンクやお茶に青酸カリが混入していたことが判明。警察は、連続殺人事件として本格的に調査に乗り出した。
1年C組、ホームルーム中も教室はいつもより騒がしかった。担任の草薙早苗(26歳)は、さっきから何度も、
「静かにしなさい!」
と繰り返しているのだが、騒ぎは治まらない。同じクラスから3人も死人が出ているのだ。騒ぎたい気持ちはわかるが、教師としては静かにさせなければいけない。ちなみに、“今、学校に行くと危険だから”ということで、数人が欠席している。親に通学を止められているのだ。事件が解決するまで通わせないらしい。
「今、大変なことが起こっていますが、こういう時こそ落ち着いてください」
「先生、早く犯人を捕まえられないんですか?」
「このクラスの中に犯人がいるんですか?」
「皆さんが落ち着いて行動すれば、もうこんな事件は起きません」
「本当ですか? 犯人は捕まるんですか?」
「捕まります。スグに平穏な日々が戻って来ます。だから、落ち着いて行動しましょう。今日はこれで終わりですが、明日も落ち着いて授業に専念してください」
ホームルームが終わったので、みんな退室して静かになった。と思ったら、1人の生徒が残っていた。多田野史郎だった。実は、彼は1番犯人に近い少年だった。
どの事件でも、その日、被害者と接触していたのが多田野君だった。杉岡先生の時は、多田野君が杉岡先生の異変を職員室に知らせに来たのだ。
そもそも、何故杉岡先生が多田野君と面談していたかというと、大林君の時も中森君の時も、事件直前に2人で教室で話していたところを目撃されていたからだ。当然、多田野君は犯人ではないか? と思われる。それで杉岡先生と面談していたのだ。
だが、そこで杉岡先生が死んだ。このことで、多田野君にかかっていた容疑は晴れつつあった。“まさか、面談中に面談相手を殺すなどありえないだろう?”と思われたのだ。だが、早苗はまだ多田野君を疑っていた。
「多田野君、なんで残ってるの?」
「いや、先生が僕に用があるんじゃないかと思って。用が無いなら帰りますけど」
“あなたが犯人でしょう?”
早苗は、その言葉を飲み込んだ。警察も多田野君を調べたが、証拠不十分ということで解放されたばかりなのだ。
「特に用は無いけど」
多田野君は、普通に立ち上がり、教室を自然体で去って行った。早苗は、多田野君の後ろ姿を見つめ続けた。
「校長先生、多田野君の両親と話をさせてください」
「何故だね? 事件のことなら警察に任せて下手に刺激しない方がいいぞ」
「責任は私が取ります。お願いします」
「じゃあ、穏便にね」
「ありがとうございます」
「もしもし、多田野君?」
「はい、多田野です」
「ちょっとご両親と会いたいんだけど、学校に来てもらえるかなぁ」
「ああ……今、親は外に出られないんで、ウチに来てもらえませんか?」
「わかった、今から行くから」
「はい」
「どうぞ」
「失礼します」
「ご両親は?」
「まだ奥の部屋です。もう少ししたら出て来ますよ。座ってください、コーヒーを淹れますね」
「あ、ありがとう」
「どうぞ」
「どうも」
「何か、聞きたいことがあるんでしょう?」
「……じゃあ、聞くわ。今回の殺人事件、犯人はあなたじゃないの?」
「はい、僕ですよ」
多田野君は、世間話をしているかのような口調でアッサリと犯行を認めた。
「どうして?」
「理由は先生がわかってるでしょ? 小高、大林、中森は先生に何をしましたか?」
早苗は放課後の教室で3人がかりでレ〇プされかかったことがあった。小高は女子だが、早苗を押さえつけて大林と中森に協力した。そして、
「色気振りまいてんじゃねえよ、ババア!」
と、罵ったのだ。あの時は、突然非常ベルが鳴って助かったのだ。
「もしかして、あの非常ベル?」
「はい、僕です」
「それで、あの時の3人を殺したの?」
「そうですよ。簡単でした。飲み物を飲ませるだけでしたので。冬場なので、手袋をつけていても怪しまれません。指紋もつきません。ペットボトルが転がっていても僕だという証拠にはなりません。青酸カリは、従兄弟が化学の大学院生なので、遊びに行って手に入れました」
「杉岡先生は?」
「草薙先生を、酔って強引にホテルに誘っているところを見かけました。草薙先生は逃げることが出来たから良かったですが」
「ちょっと待って、じゃあ、全部私のため?」
「そうですよ。だって、僕は草薙先生を愛していますから」
「愛してるって……」
「自分よりも大切、それが愛ですよね? 僕が社会的に抹殺されるとしても、草薙先生を守りたかったということです。もう、質問はありませんよね?」
「ご両親は?」
「ここです」
多田野君が奥の部屋のドアを開けた。多田野君の両親が倒れていた。死んでいるのは、気配でわかる。
「さっき、お茶を飲んでもらったんです」
「どうして、こんなことを?」
「殴る、蹴るなどの暴行を加えるからです。これを見てください」
多田野君はパーカーとシャツを脱いだ。青あざだらけだった。タバコの焼け焦げも何カ所かあった。
「いつか殺してやろうと思っていました。それが、たまたま今日だっただけです。もう、これ以上事件は起こりませんよ。でも、草薙先生はか弱いから先が心配だけどなぁ。先生、これからの人生は大丈夫?」
笑いながら、多田野君はペットボトルのスポーツドリンクを飲んだ。
「あ!」
崩れ落ちる多田野君。驚きで一瞬遅れて多田野君を抱き起こそうとする。多田野君は何かを言っていた。早苗は耳を澄ませた。多田野君の最後の言葉。
「先生、お幸せに」
初のミステリー! 崔 梨遙(再) @sairiyousai
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