おまけ 傷と君と
「カズ、また喧嘩したの?」
そう言って俺を見つめる瞳は、悲しそうに揺れていた。
どうして俺なんかのためにこいつがそんな顔をするのだろう、と、この時の俺には理解ができない感情だった。
今日は何人殴っただろう。
吹っ掛けられた喧嘩を買って、気付いた時には周りに立っている人間は居なかった。
「…ほら、手貸して。こんなに真っ赤になって…痛いでしょ」
右手を持ち上げられて初めて、擦り切れて真っ赤になっていた事に気付く。
ジンジンと痺れたような感覚は、正直痛いのかどうかもよく分からなかった。
傷に絆創膏を貼り、湿布をし、包帯を巻いて。
俺が喧嘩する度にいつの間にか手際が良くなった、歩が傷を手当している様子を他人事のように見ていた。
「ぼーっとしてどうしたの?手当て、終わったよ」
「いや、何でもない。いつも悪い」
「喧嘩から逃げたくないんだろうからあまり言わないけど…無理は、しないでね」
手当ては出来るけどやっぱり怪我してるのを見るのは嫌だから。
歩はそう言って悲しそうに笑う。
そんなに真っ直ぐな言葉を向けられた事が無くて、反応に困った。
「…努力は、してみる」
そんな言葉しか出てこなかったけれど、本当!?絶対だからね!?と笑う明るい笑顔に救われた気になる。
もし、叶うなら。
いつか本当に怪我をしなくなって、歩の手当てが要らない日が来たら。
その時には中学で初めてできた友人のために何か返すことができたらいいと、そんなことを思った。
ぼくらのであい 柊 奏汰 @kanata-h370
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