第4話 使役人間ライフ
さて、俺は蜘蛛の青年妖怪に連れられて、いい感じの和風屋敷に案内されてきた。
何と言うか、現代日本の純和風旅館みたいだな。和風庭園も緑とグレーのコントラストが美しい。鹿威しの音もいいよなぁ。なんだろうね、この和む感!
「さて、ビャクは今日からここで暮らすのですよ」
「え、そうなの?何で」
俺は相変わらず首輪を嵌められて、リードを引かれている。実家から神隠しかよ的な感じで移動してきちゃったけど。
まさかの実家の障子の向こうとこちらの屋敷を繋げた青年について、とうとうこんなところまでやってきてしまった。
でもなんか、俺に拒否権なさそうだし。家族に泣きながら「言ってらっしゃい幸せにね~」と送り出されれば、今さら後には退けない。
「コンちーやウサウサだってそうでしょう。ご主人さまの屋敷で暮らすのは基本です」
いや、まぁ確かにコンちーたちも主人の諭吉くんたちの住んでいる実家で暮らしてるけど。
てか、妖怪たちの普通に名前呼んでる。昔からの知り合い?
まぁ妖怪の場合、そう言う繋がりもあるっちゃあるみたいだしなぁ。
「てか、何でお前が……名前聞いたっけ?」
今さらだけど、知らなかった。
「
今、真夏だが。いやまぁいいか。真夏が過ぎればすぐ秋が来る。
そして今はしまっているが、真っ白毛並みの蜘蛛の脚はその名によく合うなぁ。
「でも何で真冬が俺のご主人さまなんだよ」
妖怪の方がご主人さまとか聞いたことないんだけど!?いや、悪い妖怪に奴隷のごとく囚われるとか言う設定なら分かるけどっ!そんな展開嫌だけど!そこからの下克上成り上がりファンタジーとかちょっと憧れるけど!でも実際現実でできる自信は皆無である……!
「……だってビャクったら、霊力まるでないじゃないですか」
「げほぁっ」
他人の心の傷をぁっ、いともあっさりとぉっ!お前は鬼かっ!いや、オニグモだけど。ほんにん曰く、突然変異の白いオオオニグモらしいけど……!
それよりもそんな簡単にひとの傷を抉るなあぁぁっ!
「だから契約を結ぶには私の妖力で結ぶしかないでしょう?」
いやまぁ、俺の霊力が0な以上はそうなるけど。
結ぶにしても、それ相応の霊力がいる。召喚しても霊力が見合わなければ契約はできない。せっかく召喚に応じてくれた妖怪には申し訳ないがお帰りいただくことになる。
素直に帰ってくれるならいいけど、そうじゃないなら戦闘になる。だからこそ、召喚の儀式には必ずパピーやマミーのような熟練退魔師が付き添う。
恐らく諭吉くんの時もそうだ。
自身の霊力に見合わない妖怪を召喚することは……滅多にないけどな。
そして俺のような霊力0の人間が行えばーーまるで効果がないのである。
「あんた、妖力強いの?」
俺相手ならどんな妖怪でもご主人さまになれそう。でも妖怪たちがそうしないのは、それをやれば退魔師たちに総叩きにされるからである。
そして弱い妖怪なら退魔師たちはいとも簡単にペラペラ札ビンタ1回で消滅させられるのだ。
札使うだけでも、手加減はしてるんだよ。素手でやってない分、……多分……?
だけど俺の家族が同意した上で俺のご主人さまになったってことは、家族が同意するくらいの大妖怪と言うことなのだろうか。
てか何で同意したの、退魔師一家ぁ――――……。
「ふふふ、それも分からないなんてぇ、ビャクはかわいいですねぇ~~」
ニヨニヨと笑いやがるこのご主人さま。
「悪かったなっ!俺にかかれば霊験あらたかなコンちーの九尾のしっぽに込められた膨大な妖力の素晴らしさなんて分からないよ。単なるもっふもふ天国だってことしか分かんないよ。そもそも大妖怪九尾とか言う前に反則級のもっふもふじゃん、あいつ」
もはや、ふわっふわなしっぽの前には妖力なんてペロペロパーなのではと、こっそりコンちーに囁いてみたら驚愕されたのを思い出す。
こっそりもふっちゃおうと思ったがやめた。さすがに怒られそうなんだもの。何か神秘的で触れがたいんだもの。
あと諭吉くんに怒られそう。また『バカっ!』って言われそう。お兄ちゃん、ゾクゾクしちゃうぞっ☆あ……なら、一度やってみた方が良かった?良かったのかな、これ。いーやいや、諭吉くんからのおバカはまだしもコンちーからの復讐が恐ろしそう……!やっぱなし……!
「……まぁ、だからこそいいのですけど」
何がいいのか、まるでよく分かんない。だけど……。
「何で俺なの?俺よりも強い退魔師と組んだ方がいいんじゃないの?」
強い妖怪と言うのは、強い霊力を持つ人間を好むのだ。あとパートナーとしてやっていく上での相性にも関わってくる。もちろん性格とか他にもバディを組む分にはいろいろあるだろうけど。
「ビャクのそう言うところが気に入ったからですよ!ふふふっ」
いや、気に入られたところがまるで分からないのだが。
「んーと……それにしても……ここは真冬の屋敷なのか?」
「えぇ。そしてどちらかと言うと妖怪の世界向きですからね、使用人も妖怪です」
「えぇっ、そんなところに俺が来ていいの!?」
「私のパートナー兼、使役人間ですもの」
ぅわーぉ。使役人間――――――。異世界ファンタジーNEWワード来ちゃったよ、コレ。妖怪のご主人さま付きの、使役人間・俺ですよ~。
「あのー……その、確認しておきたいんだけども。妖怪に襲われたりとか……しないよね?」
妖怪の屋敷に非力な人間がINしちゃった時のお約束ぅっ!
あるいは霊力持ってても戦う術のない主人公ヒロインが襲われちゃうお約束ぅっ!
「そんな治安の悪い屋敷ではありませんよ。あ、ここビャクの部屋です」
しれっと案内された部屋は純和風旅館の和室そのもの!
そして治安のいい妖怪屋敷、大事。うん。
部屋は畳の香りがどこか懐かしさを誘う。いや実家でもそうだったけど、やはり住み慣れた家じゃぁない場合はこの畳の匂いが気を落ち着かせてくれる気がするなぁ。
畳まれたお布団もあるし、小さな机もある。それから……琴も。
え……琴おぉぉっ!?ま、まままさか。まさか……!?
ひ、弾けと!?俺のオンチ琴弾けと!?俺は人間界……いや、暮らしている都中が恐れてやまない天下の琴オンチですけどおぉぉっ!?
いやそれとも練習しろと言うのとか……?無理だろ何年も散々やってオンチ琴極めちゃったんだからぁ……っ!
もしくは……俺が退屈しないようにと言う心遣いかも知れないけど。
「そして私の部屋は隣です」
「え、隣なの?」
それはそれでビックリ。まぁ迷わなくていいんだけど。
治安がいいとはいえ、妖怪屋敷だ。相棒を探して迷って悪戯妖怪にペロペロリとか嫌。
「夜恐くてひとりで寝られなかったら来てもいいですよ。わふちゃんもビャクのパピーと寝てるでしょう?」
「まぁ……」
むしろわんこなのだけど。ご主人と一緒に寝たいだけのわんこ属性爆発させちゃってるのがわふちゃんなのだけど。
めちゃくちゃかわいいの。パピーに身を寄せて眠る表情めちゃとろんとしてるの。
だから一度『コンちーもどう?』と問うて見れば、本気でドン引かれた。あともちろん諭吉くんから『おバカ』とのお言葉を賜った。
「でもひとりで寝れるから……!」
そんな歳じゃないわー。現代日本じゃぁ成人しとんねんで?あと、この国の成人年齢は15歳。けど儀式は18歳。お酒は20歳になってから。
「おやおや、それは残念ですねぇ」
何か本気で残念がってない?わふちゃんごっこしたかったのかな!?あれはわんこ(※狼)とやるから楽しいのっ!人間とやってもたいして楽しくないから!
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