第3話 とってもステキな首輪


希望に満ち溢れた(所持金0、職業:自称お琴奏者……いや無職住所不定)冒険が始まるのかと思いきや、マジで突き落として来たぁーっ!山の頂上から一気に転がり落として来たよぉっ!何で!?やっぱり諭吉だから!?


諭吉は時に、ひとを山の頂上から一気に転がり落とす。所持金僅か13円と言う、絶望と混沌渦巻く世界へ……。


諭吉は夢を見せてくれるだけの存在じゃない。時にひとを天から地に容赦なく叩き落とすのだ。


しかし叩き落とされたからこそ分かることもある。


「んー、ほんとに開けるんですかぁ?諭吉くん」

ここで、コンちーが弱気な発言。天下の九尾さまが弱気ってえぇっ!!

どうしちゃったの!?あらゆる物語に於いて最凶のラスボスを務める九尾くんなのに~~っ!


「ダメよ、コンちー。これは宿命、逃れられない運命なのよ」

と、ウサウサ。


「わふっ」

頷くわふちゃんは、……かわよす。


何か妖怪たちまで不穏げなんだけどぉー。


「あの、ほんとに開けるの?」

今一度、パパに問う。


「お前が何も召喚できなかった以上は、仕方のないことだ」

うん。俺が西洋風ファンタジーの世界に捨てられるのも仕方のないことだよね。分かった。


「……受け入れる」


「……いいのか、ビャク」


「だって……仕方がないもの」

俺は才能のないぐーたらぷーすけ。このまま腐ってニートになるくらいなら、壮大な西洋風ファンタジーの世界でのたれ死ぬのも……仕方がないのだ。


「大丈夫。俺、上手くやるからさ」

上手く、西洋風ファンタジーな異世界で自分の存在を消滅させるよ。上手く行かないことだらけの異世界人生だったけど、自分の死に様くらいはしっかりとやり遂げたい。


魔物とホンキオニしながら、生贄となる。きっと痛いだろう。泣きたいほどに呻きちらすだろう。だけど、それも運命。


「パパ、ママ。これまで育ててくれて、ありがとう」

「ビャク」

「ビャクさん、あなたっ」

パパとママが目尻に涙を溜めている。ママは後妻で継母のママママだったけど、それでも俺を虐めたりせず、ちゃんとお使いをくれて、たいして上手くもならないお琴の楽譜を買ってくれた。とってもいいママママだった。


「だから、最後に、だけど」

もう、お別れだもの。きっとこの扉を潜り、西洋風ファンタジーの異世界に足を踏み出して……扉が閉じられたら、きっとこちらの世界には帰って来られないのだろう。異世界転移は一方通行が基本だ。それがテンプレ。なら、最後にやり残したことをやってもいいじゃない。


「どうした?」

「何でも言ってちょうだい」

パパも、ママも、こんな時にまで優しい。いい両親を持ててよかった。


「あのね、俺……っ」

その時、諭吉くんが何かを感じ取ったのか叫ぶ。


「やめろっ!」

止めるな諭吉くうぅぅんっ!ここは、お兄ちゃんの最後のお願いを聞いてくれっ!


「パピーとマミーって」

「やめるんだ!それだけはぁっ!」

諭吉くんがこちらに走って来ようとするのを、コンちーとウサウサが止めていた。


「いけません!諭吉!もう彼には触れられないのです!」

「そうよ、彼自身が受け入れたのだもの」

コンちーとウサウサの言葉に、諭吉くんがくわっと吠える。


「だけど……っ!!」


ごめん、ごめんね、諭吉くん。お兄ちゃん、あっちでも上手く、やるからさぁ。最後の最後のお願い。


「呼んでも、いいかな?」

そう、パパとママに問えば……


「パピー、素晴らしい」

「いいわね、あなた!」

喜ぶ両親。力なく「あぁ゛~~~~っ」と泣きながら崩れ落ちる諭吉くん。


ごめんな、でもお兄ちゃん最後に、呼びたかったんだ。やっぱり呼びたかったんだ。だって俺をここまで育ててくれた両親だもの。


「諭吉くん」


「あぅ~~~~っ、もう終わったぁ~~っ、終わったよぉ~~~~っ」

「悲しまないでくれ。俺、お兄ちゃんらしいこと何もできなかったど、諭吉くんと過ごした日々はお兄ちゃんの一生の宝物だっ!」

そんなたいして過ごしてないけど!


「やめてぇ、もうやめてぇ~~~~~っ」

虚空を見上げながらも両手で顔を覆い、咽び叫ぶ諭吉くん。


俺、どんな形であり、そこまで諭吉くんに思われていたんだな。


「お兄ちゃん、とっても幸せだった。大丈夫、俺、幸せになるよ」

幸せな形で骨を埋められるように、頑張る。


「うあぁぁぁ――――――――――っ」

泣き叫ぶ諭吉くん。でも、行かなきゃ、俺。


「本当に、いいんだな」

「うん、パピー」

いいよ、俺行くよ。


「では、開けるぞ」

意を決したようにパピーが頷き、そして重々しい扉が開かれた……。


さぁ、この先にどんな異世界が……


「うふふふっ!嬉しいです!ビャク!私を選んでくれるなんて!」

そこから出てきたのは、一人の美青年だった。白髪に青い目をした爽やか系お兄さん。着流しの夏らしい着物姿。しかも扉の向こうは三畳ほどの小さな何もない部屋。そこに異世界など、なかった。


「異世界は?」

俺は残され……ない普通にいる家族に声をかける。


「何言ってるの!ほんとバカ!バカなのバカ!やっぱりバカ――――――っ!」

諭吉くんのおバカコール、遂に4回達成、ヤったねっ!


「私のビャクをバカバカ言うあのガキはなんです?」

美青年がムッとする。


「いいんだ、あれが諭吉くんの愛情表現だからさ」

「ほんとバカ――――――――っ!」

俺ってば、愛されてるぅ~~。


「では、ビャクが受け入れると言ってくれたので」

カチャッ


へ……?


俺の首に何かが付けられた。


「これ……」

革製の首輪?しかもご丁寧にリード付きである。


「何これ」


「今日からビャクが私のしもべ……パートナーになると言う、とってもステキな首輪ですよ~!」

「今しもべって言わなかった?ねぇ、言ったよね!?しもべって何、そしてお兄さんは何!?」

そもそもこのお兄さん、誰!


「妖怪を隸属させて従わせてる退魔師と同じでしょう?」

まぁ、パートナーではあるものの、主従の契約を結ぶのが退魔師と召喚された妖怪である。


――――――だが、


「俺人間だけど」

一応、人間を隸属させることはできない。退魔師協会が禁じているのだ。才能のない俺だけど、一応もしかしたらとパパに勉強はさせられたんだよ。座学の方だけね。だからそう言うのは知っている。


「それが何の問題が?」

「人間が人間を隸属させんのダメでしょーがっ!」

倫理観的にも!それママとウサウサが観に行くの大好きなショーの世界だよ確実にっ!


「私は妖怪ですよ?」

ケロっと告げる、お兄さん。


「はへ?」

普段はヒト型とってるコンちーとウサウサみたいな?あ2匹はケモ耳しっぽも出ているのだが……目の前の青年にはない。



「何の妖怪なの?」


「あぁ……それはですね」

そう言うと、青年の背中からバキバキバキッともふ毛に覆われた3対の脚が出てきた。雪のように白い毛並みだ。


「蜘蛛です」

「土蜘蛛――――――っ!?」

蜘蛛妖怪と言えば、土蜘蛛である。よくある妖怪土蜘蛛イメージでは土の中にいそうにないけれど!?


「うーん、蜘蛛は蜘蛛ですが、土蜘蛛ではないですよ。種類で言えば、正確には白いオニグモですね。突然変異の白いオオオニグモです」

「うっそ、どこが違うの?」


「そこなの?ねぇそこなの?」

諭吉くんがずっとそう囁いてるのだが。え、他のドコだと言うんだい!?


「諭吉、ビャクくんの幸せをちゃんと祝ってあげないと」

「そうだぞ、諭吉……!」

両親からの言葉に、諭吉くんがくわっと目を見開き、そして力なく目蓋が降りてくる。


「うん……もう、手遅れだもんね」

悲壮感に満ち溢れたそのコメント何だろうね……?



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