第17話 氷の女王に雪解けは来ない…はずだった
高校内でのあだ名は【氷の女王】。
【挿絵】
https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093078262030553
そう呼ばれることに抵抗はなかった。
何故なら高校3年間、私は学校内...いや、学校に関わる人間の前では一度も笑わなかったから。
いや、笑うどころか怒ることも泣くことも楽しむこともなかった。
私は氷のように冷たかった。
告白に呼び出されてもいつも「ごめんなさい。タイプじゃないので」の繰り返しで、どんな人が告白してこようと全く同じリズムで同じ言葉で返答した。
他の人が愛だの恋だの浮かれている間も私はただ、引退後も生徒会のお手伝いをしているのだった。
そんなある日のことだった。
◇
「ね、萌。あんたお兄ちゃんが欲しいって言ってたよね?」
「...何言ってるのお母さん」
「いや、ずっと小さい時からお兄ちゃんが欲しい、お兄ちゃんが欲しいって言ってたでしょ」
「...どんだけ昔の話。しかもこの歳になってお兄ちゃんができたとしても関わりづらいだけでしょ」
「もーそんなこと言わないでよ」
「もしかして、あの人と上手くいったの?」
「あらぁ?気づいてたの?」
「何となく。女の勘ってやつ」
「侮れないわねー。女の勘」
「それで?あっちの連れ子に私より年上の人がいるってこと?」
「いや、同い年よ?」
「...はい?」
「向こうの子の方が3ヶ月?誕生日が早いのよ。だから、あんたが妹」
「...お兄ちゃんって。同じ年かい」
「とりあえず、今度一回顔合わせるから。予定決まったらいうから空けときなよー」
「...はい」
どうせだったら7個くらい上のダンディーで大人なお兄ちゃんなら良かったのに。
それから数週間後、噂のお兄ちゃんとの食事会が行われた。
◇数週間後
「ほら、行くわよ!って、あんたほぼすっぴんじゃない!」
「若い時から化粧したら年老いてたから後悔するでしょ。お母さんみたいに」
「あらぁ...嫌なこと言うわね。地獄に落とすわよ」
「こわっ」
そんな軽口を叩きながら、食事会とやらに行く。
あーだるいな。惚れられでもしたらマジでだるいな。第一印象最悪みたいな感じで行こうかな。けどそうしたらお母さんに迷惑かかるか。
2人きりになった時にでも毒舌吐いたやろ。
そんな最低な心持ちで食事会の場所に向かうのだった。
「予約してたんですけど...」
「あぁ、川上様ですね。こちらです」
到着したのはそこそこ良さそうなお店だった。
ふーん。最低限のマナーはあるみたいねと小姑のような小言を心の中で呟きながら、お店に到着する。
はてさて、どんな芋虫男が現れるのやら。
そうして開かれた扉の奥にその人は立っていた。
「あっ、初めまして...川上宗次郎です...」と、ペコペコとするおじさん。
そして、「川上宗也です」と頭を下げるお兄ちゃん。
いやいやいやいや...いやいやいやいやいやないないないないないない!!別に見た目はそこらへんの芋男子と変わらないし!
だけど、何この胸の高揚!!
ドユコト!?何!?直視できないんだけど!!
お母さんの挨拶など耳にも入らず、目線を逸らすことしかできない。
「ちょっと!萌!挨拶!」
「えっ?あっ、...も、も、萌です...」と、頭を下げる。
それからの私は最悪だった。
コップの水はこぼすし、まともに喋れないし、ずっとうるさい私の胸。
いや、勘弁してよ。
この人はこれからお兄ちゃんになるんだよ?
何一目惚れとかしちゃってんの?馬鹿じゃないの?
「えっと、萌ちゃんは普段何してるの?」と、気を遣って質問してくれるお兄様。
「え!?ふ、普段普段普段...えっと...YouTube見てます!」
「そうなんだ。どういうの見るの?」
あれ?何見てたっけ?そうだ!昨日なんか見てたな...ショートで流れてきた...。
「えっと...カブトムシ対クワガタとか!」
「「「え?」」」
最悪のチョイスをしてしまった。
それからの記憶はない。
いつの間にか食事会は終了して、気づくと家に帰っていた。
最悪だ。私は最悪だ。
それからというもの何度か家に訪れてくれたものの、「きょ、今日はすっぴんだから無理!居ないって言って!」とか「あっ!!こ、これから大事な用があって!それじゃ!」と、お兄ちゃんと会うことをなるべく避けていた。
そうして、大学生になった私。
そろそろ恋愛というものをしてみようと初めたのがレンタル彼女。
まぁ、私にはこういう演技とかする方が性に合ってそうだし、お金をもらえるならなおよし!と思ったのだが...。
その場所に現れたのはお兄ちゃんで、しかも他にも3人のレンカノを借りる始末であった。
こうして私はお兄ちゃんと最悪のデートをしたのだった。
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