第2話 邪な動機
そのとき、そろばんの彼が言いだした。
「○○さん、水泳やりません?」
え、私が水泳?と思った。
「いい運動になりますよ。私、水泳教えますのでやりませんか?」
彼はそう言った。
確かに私はヒドい不摂生と肥満だった。運動しないこのままだと持病もあって60まで持たないかもしれない。運動は良いかもしれない。
だが、その時、私の中でもう一つのことが強く浮かんでいた。
水泳……水着……競泳水着の女子!!
そう、なんだかんだいっても、私はシンプルにそういうムッツリスケベだった。
まあ市民プールに行ったところでそんな期待するようなことはないだろう。変なアニメとかゲームの見過ぎだ。
多分オバサンならまだマシで、しわしわのお婆さんが足腰の維持のために甲羅干ししているぐらいの風景だろう。
とても私がそういう邪で酷い期待が叶うなんてあり得ない。
だが、私はそれ以上に変態で、何度もヘタなイラストで競泳水着を描いてしまうほどのフェチにハマったど変態なのだ。
あの滑らかな、それでいてざらりとした生地。
独特の切り返しの入ったデザインとカラーリング。
それはまるで私には流麗なスポーツカーや高速列車、そしてヒーローメカのようなあこがれの対象だったのだ。あきらかにど変態である。
こんな凄まじく変態で邪な動機で水泳に興味がわいてしまった私は、彼の視線に我に返って顔を真っ赤にするハメになった。
「どうです?」
彼の言葉に、私は応える言葉を探した。運動なんて面倒くさい、でもしないと多分このまま衰えてサヨナラだろう。好きな競泳水着も描けなくなる。そう、水着……。
「そうですね、いい運動になるでしょうし。デスクワークの生活なので、たまには身体をうごかしてみるのもいいかもしれませんね」
競泳水着見られるかもしれないし、は省いて答えた。あたりまえである。
彼は喜んで私と彼だけの水泳教室の日程を決めた。その間、私は自分のあまりの変態さ、邪さに戦慄していた。
まだその年の年始の話だった。
そして、私はまだ、その後に出会うことになる「市民プールの天使」のことを少しも知らなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます