第4話:(2/2)タロット使いと死神猫(悪意を断つ者)

 悠人は神から蘇生の対価として、元の世界からやってきた悪意と暴虐を働く魂を抹消する使命を受けていた。何もしなければ罰はないものの、必然的にその者が絡んでくる。そのため、先手を取り倒す方が賢明だと考えていた。


 悠人は魔獣も人間も、自分にとって挑戦する価値がある相手であれば何でも臨む覚悟があった。彼はふと、唯一神から授かった反応石を思い出し、それを手のひらに召喚した。


 リリスは「あら、あらあらあら。悠人はそれを持っていたのね?」と興味津々の表情で尋ねた。


 悠人は「これが何か知っているのか?」とリリスの表情を窺いながら問い返した。


 リリスは「ええ、それね。魂を吸収して封じ込める物よ。多分何か討伐依頼されたんじゃないかしら?」と知っていることを暗示するように微笑んだ。


 悠人は「よくわかったな……」と感心した様子で答え、リリスは「それはね、討伐対象のいる方角を指し示す物よ。手をかざしてみて」と言い彼女の指示に従い、悠人は石を高く掲げると、一筋の光が遥か彼方を指し示した。


 リリスは「ほら、この光に沿っていけば辿り着くわ。ちょうどこれから案内する町の方角ね。特定の人物の討伐かしら?」と好奇心を隠さずに尋ねた。


 悠人は「ああ、俺の元いた世界から悪意と悪徳を持った魂が、こちらの世界の者に宿って暴虐を尽くしているのを、討伐するよう依頼を受けた」と静かに説明した。


 リリスは「そうなのね。悠人はよほど優秀なのね?」と賞賛の眼差しを向けた。


 悠人は「俺が?」と少し戸惑いながら言った。まだこれから強くなる自分に、すでに強いとされる評価が戸惑いを生んだ。


 リリスは「多分、一番生き残る可能性が高いからよ」と冷静に語った。悠人はその言葉に少し安堵し、同時にタロットカードの力を信じていた。


 気になることがあって、悠人はリリスに問うた。「俺はまだ階位が一度も上がっていないんだ。新たなカードもこれ以上手に入れてないし、どこか良い狩場を知ってるか?」


 リリスは目を輝かせて答えた。「それなら、今から向かう町にダンジョンがあるわ。そこで現れる魔獣を倒して、階位を上げつつ稼ぎましょ?」悠人はその提案に心から同意し、「是非頼む」と返答した。


 次に悠人は深刻な面持ちで尋ねた。「この世界で殺人はどんな扱いなんだ?」


 リリスはゆっくりと答えた。「悠人のいた元の世界とどれぐらい違うかは、まずは全ての常識を捨てた方がいいわ。ここでは高位貴族と王族以外は罪に問われないの。全て当事者同士の問題で、納得がいかないなら決闘で解決せよとまで言われる世界よ」とリリスは説明を続けた。


 悠人はその情報に興味を持ち、「その高位貴族とはなんだ? 王族ならまだわかるが」と詳細を求めた。


 リリスは「高位とはね、貴族の階級で言うと伯爵以上からになるわ。ちなみに階位でも同じ呼び名はあるけど、それはただの名称であって貴族の階級とは別物ね」とリリスは詳しく解説した。


 悠人は思案顔で、「決闘か……。となるとより高い階位の者は決闘の代理として稼ぐこともありそうだな」と推測し、リリスは頷いて、「その通り! だから階位を上げるのは重要よ。あとね、ダンジョンでは殺しは普通にあるから気をつけて」と警告を加えた。


 悠人は「高位貴族や王族を殺めたらどうなるんだ?」とさらに尋ねた。


 リリスは「王族だけは大騒ぎね。高位貴族は軽く調べるみたいだけど、確実な証拠なんてまずはないでしょ? だからやられたらそれで終わりね」と事実を淡々と述べた。


 悠人は「案外、そっけないし命が軽いんだな」と感想を漏らすと、リリスは少し苦笑いしながら、「そうよ。パン一個で人を殺める人がいるぐらいよ」と付け加えた。


 そこまで自由が認められる場合、遭遇する者たちは容赦なく、悠人も対決を徹底的に行うと決心していた。彼は力試しを楽しみ、階位を上げる機会を常に歓迎する。その時、彼の口角がわずかに持ち上がり、陰のある笑みを浮かべた。リリスはそれを見て、「あら、悪い笑顔ね。でもあたしはその考えも好きよ?」と言った。彼女の言葉には明らかな賛同の意味が込められていた。


 リリスはさらに、町にある探索者ギルドの存在を説明し始めた。「町に探索者ギルドがあるのよ。そこでは潜りの探索者でもいいし、正式に登録して探索者になることもできるわ。彼らは仕事の斡旋と買取を行っている組織なの」


 悠人は眉をひそめながらリリスの言葉を聞き、「登録すると具体的にどんなメリットがあるのか? 予測はつくが、デメリットも知りたい」と質問した。


 リリスは首を傾げながら答えた。「メリットは主に買取価格が上がることね。それに実績に応じて身分証明もされるわ。デメリットはね、所在がある程度知られてしまうことと、指名依頼が来ることかしら」


 悠人は深く考え込むように顎を撫で、「登録はデメリットにしか感じないな……」と独り言を漏らした。


 リリスは彼の反応を見て、「そうね、指名されるのは確かに面倒かもしれないわ。登録しないことで、実績は証明しにくいけれど、その代わりに自由が手に入るのよ」と付け加えた。


 悠人は、その言葉に何かを感じ取ったのか、決意を新たにして「それなら、俺は登録しないで自由を選ぶよ」と答えた。


 リリスはにっこりと笑って、「それも一つの正解よ。いつでも登録はできるから、もし必要になったらその時考えればいいわ」と助言した。


 こうして話し合いながら、彼らは数時間にわたって町へと向かい続けた。やがて、巨大な城壁に囲まれた町が視界に入ってきた。大きな門が設えられた入口には、人々が一列に並んでいた。


 リリスは提案するように言った。「今日はまず、腹ごしらえをしてから宿で休みましょ? 明日からダンジョンを自由に回って腕試しよ」


 悠人はお腹を押さえながら、「ああ、確かに腹も減ったし、その提案は助かる」と答えた。


 リリスが指す方向を見ると、何かで揉めている様子の衛兵と馬車の御者がいた。リリスは「あっ! あそこに並びましょう。何か揉めているみたいだけど……」と言った。


 馬車の荷台には、品々とともに檻に入れられた人々が見えた。その中には、人とは少し違う形の者たちもいた。その中の一人、緑色の髪と目を持つ美しい少女が悠人の方をぼんやりと見つめていた。彼女は突然、「日本人ですか?」と問いかけた。


 驚いた悠人は、思わず「ああ、つい先ほど来た」と返答した。その瞬間、馬車が動き出し、少女は「あの、私を……」と言いかけたが、声は遠ざかっていった。


 悠人は彼女の言葉を途中で聞き、焦燥感に駆られる。「一体何が……」と呟きながら、町の中へと去り行く馬車を眺め続けた。

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