58話 当然、俺以外にもいるのだろう。

「久しぶりに来たが、やっぱり王都はすげぇな」

「でやんすね〜」


 ヨーゼフとゲッツはキョロキョロと辺りを見回しながら、宿となるグランメリ教会を目指して先頭を歩いていた。


「何だ、あの大きな建物は? 教会か?」

「見ろ! すげぇ美味そうな屋台があるぞぉ」

「うおおお、スケスケの服を着た──いかんいかん──神よ、お許しください」


 と、王都を初めて訪れた連中もいるので、総勢30名の修道会一行は少しばかりテンションが高くなっている。


 パリス王都は、城塞都市バルバロと全ての規模感が異なるからだ。


 なお、ジョストに参加する3人の騎士と従士ペアだけでなく、俺の選抜した騎士たちも引き連れて来たため大所帯になっていた。


 黄金の薔薇友愛団も選抜をジョストへ送り込んで来ており、万が一にも一触即発の事態になった場合に備えてのことである。


 こんなことが出来るのも、聖槍ビジネスでぼろ儲けしているお陰だった。

 

 やはり、ツ◯商売は最強……。

 緑丸薬をせこせこ生産して売るのがアホらしくなってくるよな。


「すすすごいですぅ」


 俺の従士となったモジモジ嬢も「王都初めて組」らしく、先ほどからうるさくて仕方がなかった。


「あ、あれは何でしょうね、アル様っ。おおぅ、あれをご覧くださいませぃ。ひ、人人人が多すぎて目が回ってしまいますぅぅぅ、あ〜れ〜──」

「大丈夫か?」

「きゃっ(ぽっ)──も、申し訳ございません、アル様」

「おい」

「あわわっ」


 俺とモジモジ嬢の間に、不機嫌そうな表情のディアナが割り込んできた。


「ずいぶんと、楽しそうだな」

「いや──」

「はいっ!!!」

「──」「──」


 元気一杯の返事をするモジモジ嬢に、俺とディアナは顔を見合わせた。


「まあいい。ところで、アル。例の件だが──」

「食事会のことか?」

「そうだ」


 棄権するつもりだったジョストに俺が参加することにしたのも、ヘンリー・メギストスから直々に食事会へ招待されたためである。


「私の伝手つてから聞いた話なのだが、弟の許へ北方からの客人が度々訪れているらしいぞ」


 ヘンリーの動きにきな臭さを感じたディアナは、王都の知人を頼り情報を集めている。


 バルバロと異なり王都には俺の情報源がまったく無いので、どんなゴシップでも有り難かった。


 敵より優位なポジションを取れるのは、常に手持ちの情報が多い側である。その法則はファンタジー世界でも不変だった。


「北方からの客人──というと、ゲルニカか?」

「うむ」


 パリスとゲルニカの小競り合いは現在も続いている。

 さらに、ゲルニカは宰相家の取り潰しなど、国内事情にも不穏な動きがあった。


「我が弟ながら、どうにも良からぬことを企んでいる予感がする……」


 ◇


「良く来てくれました。アル卿!」


 と、朗らかな笑顔で俺を出迎えてくれたのは、ヘンリー・メギストスだった。


 ヘンリーとは以前に1度だけ会ったことがある。

 ハーデス島へ行く前日、 グランメリ教会まで姉のディアナを訪ねて来た時だ。


 父が会いたがっている──と、家に来るよう言うヘンリーに対して、ディアナは気乗りしない様子を示していた。


 結局、俺が口を挟むと、ヘンリーはそのまま大人しく帰ってくれたのだが……。


「いや、申し訳ない。少し時間に遅れたようだ」

「まったく問題ありません。──どころか、長旅でお疲れにも関わらず、当家の招待を受けて頂き感謝に堪えません!」

「──そうか」


 余りに丁重に扱われるので、俺は多少の戸惑いを感じている。


 何と言ってもメギストス家は公爵家であり、代々の宮廷魔術師を輩出する名家なのだ。

 辺境の田舎領主に過ぎないボルトンとは家格が違いすぎる。


 加えて、現在の俺は「能無し」ということになっていた。


 この世界の貴族社会で「能無し」であることは、神の恩寵を受け損ねたという意味で、粗略に扱われて当然の存在である……。


 ゆえに、ヘンリーが良からぬことを企んでいるのでは、というディアナの懸念は、俺の中で確信に変わっていた。


「さあさ、こちらです」


 執事や召使いを差し置いて、ヘンリー自らが俺を案内してくれていた。


 紅いビロードの敷き詰められた通路の先に、メギストス家の紋章が彫られた扉がある。

 

 きっとその先に、豪華な食事と、洒落た音楽──だけではなく、何らかの陰謀が待ち受けて──、


「いえいえ。そんなモノは待ち受けていません。陰謀だなんて、ホントに嫌だなぁ」


 不意打ちだった。


「──!?」

「姉は知らないのですよ。僕の能力の一部しかね」


 この能力さえあれば、確かに他人を操るなどお手のものかもしれない。


「フフ。次いでに言えば、他にも姉が知らないことがありまして──例えば──」


 ヘンリーは双子の姉と異なり、微笑むと片えくぼが出来る。


「僕と貴方の共通点とか……ね」


 覚悟はしていたが、当然俺以外にも居るのだろう。

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