16話 襲撃。

 頭の大きさも聞いておくんだったと思いながら、ゴルの家にあった布切れを使って即席の頭巾を作っていた。

 ツヨツヨになるはずが、まさかの裁縫野郎に……。


 地下牢からサイクロプスを逃がすにしても、顔を隠さないと悪目立ちするだろう。

 単眼と頭の角を見れば、ヒト族でないのは誰でもすぐに気づく。


 そこで俺は、顔を隠す必要があると考えたのだ。


「一応、それっぽいのは出来たんだが……」


 と、俺は作った頭巾を被ってみた。


 部屋の隅にあった鏡を見てみると、めちゃくちゃ怪しい子供が写っている……。


「銀行強盗みたいだな。いや、この世界に銀行はまだ無いか──」


 と、呟いた直後、家の扉が開いた。


「坊っちゃん。戻りやしたぜっ。ぎゃあっ!?」

「あ、怪しいヤツめ。下がれ、ゴル。私が成敗を──」


 入ってきたディアナとゴルは、完全に俺を不審者扱いしていた。

 やはり、俺の作った頭巾じゃ不気味過ぎるのかもしれない……。


「──よう」

「ん、アルだったのか?」

「坊っちゃん?」


 頭巾を取ると2人はきょとんとした表情を浮かべた。


「盗賊コンビにでもなるつもりか?」

「あっしは大賛成ですぜ、うひひ」

「──準備だ」


 そう言って俺は、頭巾をテーブルの上に放り投げた。サイクロプスの子供が5、6匹いるということだったので念のため10枚作ってある……。


「それより、ディアナ。事情はゴルから聞いてるよな?」

「うむ。念のためケイトと一緒に話を聞いたぞ」


 ゴルは怪しいおっさんだから、ケイトが警戒したのだろう。


「まったくギャバンは許せん男だ……。ところで、良く私が言語マニアと知っていたな」

「書庫で言っていただろ。オーガ種の言語を学習中だとか──」


 ただし、それでサイクロプスと会話できるのかどうかは分からない。


「いや、サイクロプスもオーガ種だ。問題ない」


 ディアナは、任せろと頷いた。


「そうか──。なら、上手くこちらの意図を伝えてくれ。助けに行って連中に襲われたらアホらしいからな……」


 子供のサイクロプスでも、ヒト族の大人程度の身体能力を持っている。

 誤解されて争いになると厄介だ。


「で、ゴル」

「へい」

「通用口の衛兵には話をつけてあるんだな?」

「スコットの弱みをがっちり握ってますんで」


 こういう時はバルバロのダメっぷりが逆にありがたい。


「もう行きやすか?」


 窓から外を見ると景色が赤らみ夕刻になりつつあった。


 ケイトは昼過ぎには沼地から修道会へ戻れたはずだ。

 ならば、編成の準備に手間取っていたとしても、そろそろ修道会騎士団がバルバロへ到着するだろう。


 その場合はヨハン総長を通して、ギャバン伯にサイクロプスの子供を解放させられる可能性がある。

 これが最も安全なコースだ。


 あるいは先にサイクロプスが到着した場合──、


「待つ」

「騎士団をですかい?」

「それがベストだが……。地下牢へ侵入するのはサイクロプスが来てからにする」


 何千匹ものサイクロプスが襲撃して来たら城も街も大騒ぎになる。

 そうやって混乱している方が、侵入も脱出も難易度が下がるだろう。


 また、城郭都市には分厚い城壁がある。

 怪力のサイクロプスでも簡単には侵入できないので、救出までの時間的猶予はそれなりにあるはずだ。


「待つ間、物見台にでも登れるといいんだが……」


 と、俺が呟いた時──、


 ドドドオオオオオオオンッ!!


「うわあああ」「ぎゃああ」「きゃーーー」


 外から爆音と悲鳴が響いた。


 ◇


 バルバロは大ピンチに陥っていた。


 城壁を越えて大小様々な岩が投げ込まれ、街の中を破壊しまくっているのだ。

 

 考えれてみれば怪力のサイクロプスは自走する投石機のようなものである。

 『聖地奪還ブレイブサーガ』は攻城兵器の発達していない設定だが、対モンスター戦を考えるとバルバロの城壁でも心もとない。


「この調子じゃ、あっという間に落ちそうですぜ。や、やっぱり逃げません?」


 城門と城壁への攻撃も始まっており、守備側の弓兵が必至に応戦している。

 

 ただ、素人目にも守備兵が不足しているように思えた。

 ギャバン伯は傭兵も抱えているのに、自分がこもる城館を守らせていたのだ。


「どこへ逃げる? 四方の城門から攻められてるんだぞ」


 ここに修道会騎士団が登場すれば、各個撃破できる可能性はあるが……。


「そ、そうですね……」


 希望と逃げ場を失った住民たちは、少しでも安全な場所を求めて右往左往している。

 俺たち3人はそんな人ゴミをかき分けて、ようやく城館の通用門にたどり着いた。


「ゴル!? こんな時に、ホントに来たのかよ?」

「来たくて来たわけじゃねぇんだけど──こちらの御方が──」

「と、盗賊王の再来──」

「しっ!」


 ゴルが慌てて通用門を守る衛兵の口をふさいだ。


 まあ、適当な話で俺に泊を付けておいてくれたのだろう。

 盗賊王……。悪くない響きだ。


「スコット──。生きていたけりゃ滅多なことを喋るんじゃねぇ。ささ、早く案内してくれ。ぼんやりしてっと1つ目の化け物が来ちまうぞ」

「わ、分かった」


 そう言って気の弱そうな衛兵は、後を着いて来いと俺たちを手招いた。

 堂々と入って行くつもりらしい。


「いいのか?」


 俺とディアナは修道会の従士服で、ゴルは弓を背負った狩人スタイルだ。


「大丈夫です。傭兵もわんさかおりますし、ともかく館は大混乱してますんで……」

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