7話 聖騎士ヨシュア。

 ゴルに"旦那"の名前を吐かせた数日後、俺はバルバロの城郭都市に来ている。

 聖ラザロ修道会から馬で2時間ほどの距離だ。


「きゃあ、聖騎士のヨシュア様よ!」

「んまっ!? 微笑まれたわっ」

「なんて凛々しくてお美しいのかしら」


 本日、バルバロで開かれる年に1度の祭りで、修道会騎士団が大通りをパレードしている。

 聖騎士ヨシュアが率いると聞き、ケイトに頼んで同行させてもらっていた。


「きゃあ」

「素敵よ〜」


 と、通りのあちらこちらから黄色い声援が聞こえていた。

 ただし、そのほとんどがヨシュアに向けられたものである。


 ヨシュアは俺から見てもなかなかのイケメンだし、バルバロの住人は彼に恩義を感じていた。


 その理由は、3年前から周辺の街道を荒らすようになったサイクロプスを、ヨシュア率いる騎士団が退治しているからだ。


 沼地のダンジョンで平和に暮らしているモンスターが、唐突に地上を荒らすようになった理由は不明だが……。


「あぁん、ヨシュア様〜。こちらをご覧になってぇ」

「きゃあきゃあ、笑ったわ〜」


 と、華やかな聖騎士、白金騎士、騎士──総勢20名ほどの騎馬行進の後を、武器や馬具を持たされた従士たち20名も駆け足で追わなければならない。


「おら、きびきび動けよ、見習いどもが」

「おせぇんだよ」

「ちっ! なんだって、こんなチビ2人をケイト様は贔屓されてんだ?」


 などと、回りの従士たちは、俺とディアナにぶつぶつと嫌味を言っている。


 それは当然だろう。


 街や城のパレードに参加できる騎士と従士は選抜だ。

 住民からチヤホヤされて気分が良いし、何より出世する可能性が高まる。


 聖地奪還を本気で目指すケイトや、単純に偉くなりたいヤツにとってもチャンスだ。


 聖騎士や白金騎士ともなれば、能無しなんてバカにされることもなくなるからな。

 

 最底辺の従士見習いですら騎士を諦めきれずにいるのは、自分を追い払った連中を見返してやりたいという思いがあるからだろう。


 そんな気持ちも分かるから、俺は何も言い返さず無視していたのだが──、


「ふん!」


 ディアナは鼻を鳴らした。


「そっちこそ遅れるな、ウスノロどもめ!」


 美少女の憎まれ口って、ヘイトが5割増しになる気がするよな。


 という俺の心配事など意に介さず、ディアナは懸命に走る速度を上げた。

 重い兜を持った状態で頑張る根性だけは買ってやるべきだろう。


 だが、既にディアナは限界状態のはずだ。


「ふぅふぅ、ぜぇ」

 

 俺の方は、イタズラや仕返しのため、あるいは田舎領地を見回るため、故郷ボルトンで足腰だけは鍛えまくってきた。


「ふぅふぅ──くっ──そ」


 息苦しさに顔を歪めるディアナを横目に見やった。


 ディアナがこのまま道に倒れてしまい、回りの従士たちが喜ぶのも癪にさわるな……。

 ちっ、助けるか。


 と、俺がディアナの抱える兜に手を伸ばした時のことだ。


「諸君、止まってくれたまえっ!!」


 ヨシュアの指示が響いた。


 朝方に修道会を出発した時から気になっていたが、ヨシュアは持って回った言い方をするタイプだ。

 実際の戦場では痛い目に遭いそうな予感がした。


「我らが騎士団は、英雄広場に無事到着した」


 バルバロの英雄広場がパレートの終着地点である。


 あとは観衆たちの声援を受けつつ、広場を見下ろす城館へゆっくりと入って行けば良い。


 そして、馬小屋に馬と馬具を預け、大きな武器類を城の使用人たちに手渡せば──、


「騎士以下の者は、六の鐘までを自由行動とする」


 聖騎士と白金騎士はバルバロのあるじを表敬するため城内へ上がるが、騎士と従士には貴重な自由時間が与えられた。


 これには騎士や従士からも歓声が上がった。


 従士見習いほどではないが、騎士や従士も修道会ではほとんど自由が無い。

 座学と訓練で忙しいし、上位者から頼まれごとをすれば断れないからだ。


 俺も街で羽を伸ばせるのは嬉しかった。

 まだ、フランから金が届いていない点は残念だが……、


「だが、そこのお前!」


 住民たちに愛想を振りまいていた時とは打って変わり、ヨシュアは厳しい表情を浮かべて、俺──あるいは隣のディアナを指差している。


「女の方だ。こちらへ来い」

「ヨシュア様──」

「黙っていろ、ケイト」 


 新旧の義理に挟まれた格好のケイトは狼狽えているが、ディアナは本心はどうあれ落ち着き払った様子でヨシュアの方へ近付いていく。


「来たぞ。で、何の用だ?」


 馬上のヨシュアを見上げ、少しばかり挑発的な態度を示した。

 ぎりっ──と、ヨシュアは奥歯を噛んだ。


「──分をわきまえたまえ。ディアナ・メギストス」


 生家を追われた者が大半の修道会では、互いの家名に触れないことが礼儀である。

 古傷に触れてくれるな、というところだ。


 そのためディアナの出自を初めて知った連中が多く、メギストスと聞いて周囲にざわめきが広がった。


「メギストスって、宮廷魔術師のか?」

「馬鹿な……。なんだってそんなヤツが修道会にいるんだ」

「おいおい、嘘だろ」


 代々宮廷魔術師を輩出するメギストス家に、能無しなど生まれるはずがない──と、彼らは考えているのだ。


「諸君、静かに」


 そう言ってヨシュアは右手を振った。


「修道会に入ったということは、つまりはそういうことなのだ。たとえ生まれがメギストスであったとしてもな。とはいえ──」


 と、ヨシュアが片頬を上げて笑うと、いかにも底意地の悪そうな顔になった。 

 街の人々に手を振っていた姿は見せかけなんだろう。


 ゴルが吐いた通り、聖騎士ヨシュアが盗賊と組んでいるのだと俺は確信した。


「やはり、メギストスの家名には価値がある。城内に上がり、バルバロのギャバン伯へのご機嫌伺いに同行したまえ」


 なお、俺の原作知識によれば、バルバロのギャバンはかなりのロリ◯ンである。

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