時を止める悪役転生、追放されて最強になる。

砂嶋真三

1話 追放。

 俺の名前はアル・ボルトン。


 ボルトン男爵家の跡取り息子で、『聖地奪還ブレイブサーガ』という異世界SRPGの悪役キャラでもある。

 シナリオ強めなファンタジーSRPGの序盤でやられる悪役キャラに転生したわけだ。


 ただし、不遇な悪役キャラとはいえ、プロローグよりかなり昔に転生しているので、余裕で危機回避できると考えていた。


「──というわけで、お前を聖ラザロ修道会へ追放します!」 


 だが、悪役転生からの追放コンボは少しばかりヘヴィだと思う。


「お前のような能無しを鍛え直し、パリス王国の聖騎士にしてやろうという親心です」


 この世界の貴族は、4、5歳くらいになると魔法を授かる。


 それが無い──年に1度の魔力検査で分かる──俺なんかは「能無し」とされた。

 貴族に産まれた不運な「能無し」の多くは修道会へ入れられるのだ。


 修道会では、医道、薬学、占術なんかを学ぶケースが多いが、その中でも聖ラザロ修道会は小規模ながら武闘派なので修道会騎士団と呼ばれている。

 能無しを物理特化の騎士に育て上げ、聖地奪還軍へ送り込んでいた。


 とはいえ、貴族の跡取り息子は、修道会行きを免除されることが多い。


 だから、昨夜キャラ設定通りに父親が他界したので、主人公の軍勢に攻められる前に領地をツヨツヨに鍛え直そうと考えていたのだが……。


「オホホホ。わたくしの可愛い坊や、ダニエルが全てを受け継ぎますからね。ほら、遺言書もこれこの通り」


 と、義母は高笑いをしながら、羊皮紙をひらひらとさせる。


 俺が3歳の時に父親が再婚した女だ。


 本人は乗り気じゃなかったが、王家の圧力で子連れの後妻をもらうことになった。


 それから10年、父親が病弱なのを良いことに、義母と連れ子はかなり俺をイジメてきた。

 もちろん、常にキッチリと仕返しはしている。


 だが、遺言書の件は俺の完全な油断だ。


 俺が「能無し」な時点でシナリオが改変されていることを、改めて肝に銘じておく必要があるな……。


「ダニエルはお前と違って火と水の魔法が使えるからね」

「うん、ママ。だから、こんなヒョロガキ、丸焼きでも水煮にでも出来ちゃうよ、ぐふふ」


 3つ年上のダニエルが丸々とした腹を揺らして笑った。


 奴はロウソクみたいな火とカエルの小便みたいな水を人差し指から出せる。

 

 正直、何の役にも立たないが、この世界の貴族社会では魔法が使えないと超絶馬鹿にされてしまう。


 前世で言えば、SNSのフォロワーみたいなものだ。100や200じゃ役に立たないが、フォロワー0だと馬鹿にされるだろ?


「だから、領地のことはな〜んの心配もいらないのよ。サンチョスもそう思うでしょう?」

「ははっ。すべて奥様のおっしゃる通りでございます」


 この変態執事は義母の浮気相手だ。


 ひょっとしたら、コイツと組んで遺言書を偽装したのかもしれない。


 浮気の証拠も握っているので、それを持って王立裁判所へ駆け込むのも手だが──、


「分かった。いいだろう。行ってやる、聖ラザロ修道会へ」


 現在の状況を利用することに俺は決めた。


 ◇


「──で、大人しく出ていくのですかっ?」


 部屋で荷物整理を手伝ってくれているメイドのフランが、ジトッとした目で俺を睨みつけた。

 ちなみに、エルフ族なので耳が長い。


「そうだ」

「このまま領地を捨てて、聖ラザロ修道会へ大人しく行くことが?」 

「そうだ」

「そこで脳筋騎士になると?」

「脳は筋肉にならん」

「比喩です。でも、聖地奪還軍に加わるってことですよね?」

「選抜されたらな」

「──死にます」


 フランがぽつりと呟いた。


「死んでしまいます。遠い異国の地で魔族に殺されますっ!」

「選抜されるつもりはない。安心しろ。俺はあらゆる危機を回避する」

「いいえ!!」


 荷物の整理を中断し、フランが俺ににじり寄ってきた。

 幼少期からの付き合いなせいか、主従関係を超えることもあるケシカランやつだ。


「アル様はイタズラもされますし、ぶっきらぼうでお顔も怖いですけれど、結局は人助けを人知れずしてしまう優しい御方なんです……」


 人知れずというのには理由がある。

 俺は自分の能力を知られたくないし、知られないようにすることが可能なのだ。


 時間停止──。


 60秒間だけ俺以外の時間を止められる。

 厨的表現を使うなら、一時的に状況の絶対支配が可能になるのだ。


 原作ではアルだけが使える魔法だったので、おそらくこの世界でも使えるのは俺だけだろう。


 だから、魔力検査中に検査結果を改ざんしたり、義母が執事に送ったいやらしい手紙をチョロまかすことも出来た。

 その他には、あんなことやこんなことにも……。

 

「屋敷や領地のみんなだって実はすごく助けられています。残念ながら私以外は真実に気付いてませんけれど……」


 チート能力は知られると面倒だし、知られないことがより強みになる。


 だが、フランだけは俺の秘密を知っていた。


 魔法を初めて使ったのは、ドジなメイドを助けた時である。

 当時、状況が良く飲み込めてなかった俺は、フランの質問に正直に答えてしまったのだ。

 

 あるいはフランはエルフなので、何かの魔法で自白させられたのかもしれない。


「だからきっと修道会でも余計なことをして、アル様が貧乏くじを引く羽目に……うう」

「フラン」


 俺だって、このメイドには少しばかり情が湧いている。


 前世記憶のせいで大人びていた俺は気味悪がられることも多かったが、フランだけは常に味方でいてくれた。

 使用人たちのほとんどが義母とダニエルの派閥だったにも関わらず、だ。


「3年だ」


 と、俺は指を3本立てた。


「3年後に俺は最強になって戻ってくる」


 鬱陶しい主人公の軍勢が、ボルトン男爵領を攻めるのは6年後の話である。


 ただし、ゲーム的には序盤。

 いくら主人公といえど、本人も弱々で軍勢もまだ貧弱だ。


 修道会で物理を鍛えておけば、時間停止+物理攻撃という最強戦士が誕生する。


「義母とダニエルに、いつまでも好きにはさせん」


 最強戦士となった俺が、ボルトンを残り3年で育てていけば──勝機はあるはずだ。


「そうですか……。では、2つだけ私と約束して下さいませんか?」


 フランが真剣な眼差しで俺を見た。


「え? ああ──何だ?」

「まず1つ。なるべく早く3年以内にボルトンへ戻って欲しいです。奥様とダニエル様では、きっとみんなを苦しめると思いますから……」

「当たり前だ」

「はい。あとは──」


 フランは左手を腰にあて、右手の人差し指を左右に振った。

 

「えっちなことには魔法を使わないで下さいっ! 絶対!!」


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ともかく、明るい王道を目指します〜。

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