98 番外編 性格が出る仕事
「う〜ぬ」
朝、キッチンで礼央が腕組みして悩んでいる。
礼央は、小学生以来、実家ではキッチンを見ることすらなかった。
なかったので当たり前なのだ。料理ができないなんて。
それでも出来る限り家事は分担したいというので、休日の朝食をお願いしている。
そして何度か料理らしきものに挑戦したところ、料理というものに疑問を抱いているというわけだ。
「なんで、レシピ通りにやってるのに上手くできないんだろう?」
礼央の目の前には、基本の料理本、それにスケール、さじ、フライパン、フライ返し、菜箸など、キッチン用品が所狭しとならんでいる。
目の前には大きな黒いボソボソとした何かが置いてある。どうやらオムレツを作っていたようだ。
最終的に礼央が、
「……この卵3個っていうのがアバウトすぎるんじゃ?」
なんて言い出したものだから、亮太が吹き出してしまった。
む〜っとした顔で礼央が顔を上げる。
「ごっ、ごめん……っ。けど、そこまでしなくても大丈夫だと思うよ」
なんていう言葉を言ってしまったものだから、結局、亮太がオムレツを作ってみせることになった。
卵を割ったところまでは良かった。
まあ、レシピには『卵3個』って書いてあるしな。
それから、牛乳を目分量で入れたところで、
「…………!」
礼央が驚愕の顔をする。
「そんな事ってある……?」
「あるある」
笑いながら料理を進める。
バターも、だいたいの量でフライパンにひいた。
「ぬ〜〜〜」
という顔の礼央はなかなかに面白い。
卵の液をフライパンに入れたところで、礼央の顔は真剣だった。
ちなみに、亮太の顔も真剣だ。
亮太だって、あまり料理が出来る方ではない。
じっくり焼いた結果、グシャ……、とほどほどの崩壊を見せてオムレツが完成した。
崩壊したと言っても、形が崩れただけで、焦げただなんてことはない。
ただ、一部がスクランブルエッグのようになっただけだ。
礼央は更に「ぬ〜〜〜〜〜」という顔をした結果、
「食べてみないとわからないから」
とちょっとだけ拗ねた顔をした。
ダイニングテーブルに、半分にわけたオムレツを用意する。
レタスやトマトは礼央が事前に用意していたものだ。
「いただきます」
「いただきます」
はむ。はむはむはむはむはむ。
オムレツは結局、なかなか悪くない味だった。
悪く無いどころではない。思った以上に美味しい。
礼央は、まだちょっと拗ねた表情を浮かべたまま、
「……おいしい」
と呟いた。
「認めたね」
亮太の嬉しそうな顔に、多少ながらもむっとする。
「認めたよ」
礼央は、諦めたようにオムレツを頬張る。
「じゃあ」
亮太が改めて、礼央に向き直る。
実は、亮太がオムレツを作る時に、ちょっとした賭けをしたのだ。
亮太のオムレツを“認めた”場合、亮太の好きなところを一つだけ言う、と。
礼央が、拗ねた顔のまま、頬を赤らめた。
亮太としてはちょっとした冗談のつもりだったのだけれど、ここまで来るとドキドキしてしまう。
礼央は、亮太の様子をチラリと見ると、一拍置いてつまらなそうに口にする。
「……こんな時でも、どこが好きなのか聞き出そうとするところ」
「…………」
そんなところが好き……なの?
内容はともかく、その悔しそうに潤んだ瞳。
礼央の視線が逸れるのと同時に、礼央の眼鏡が少し逸れる。
少し恥ずかしそうにして、手を顔に持っていく。
照れ顔を隠そうとするのは相変わらずだ。
亮太は、そんな礼央をじっと見つめた。
「れおくんは……今、俺を煽ってどうするつもりなの」
「は!?」
亮太は無言で立ち上がり、礼央を柔らかく抱きしめる。
「まだ最初だし、ご飯は一緒に作ろうよ」
「……うん」
返事を聞くと、亮太は満足そうに、礼央のくりくりとした頭に頬を寄せた。
◇◇◇◇◇
こんな感じのただご飯食べるだけのほのぼのです。
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