81 ぎゅっ

 その日は一際晴れていた。


 心配していた礼央の家の事も、突然何か変わるとか、何か悪い方向へ行ったとか、そんな事もないようで。

 いつだって気にかけてはいるけれど、きっと礼央もいつだって守られたいわけじゃないだろうから、何か言ってくるまでは様子を窺うくらいに止める事にした。


 今日は珍しく、4人で購買へ来ていた。

 礼央とサクは相変わらず弁当なのだけれど、まあ、移動教室のついでというやつだ。


「俺、今日チョコレートの気分なのぉ」

 とふざけた声でケントが亮太にしなだれかかる。

「自分で買えよ」

 寄りかかって来た頭を、ぐいと押しやる。


 押しやった先に居たのが礼央だったので、

「りょーくんが今日はちょっといじわる〜」

 と、礼央に耳打ちする声が聞こえた。


 とはいえ、結局、亮太はその日、箱に入ったチョコレート菓子を買った。


 ケントの言葉でつい自分も食べたくなってしまったのだ。

 小さなレジ袋にチョコレート菓子の箱が入っているのはなかなか悪くない気分だ。


 そして4人は、いつも通り、屋上で昼食をひろげた。


 亮太はミックスサンド。今日は珍しくサンドイッチ。それに菓子パンをひとつ持っている。

 いつも通りのコーヒー牛乳。


 ケントも照り焼きが挟んであるサンドイッチを食べている。


 サクは今日も、トンカツなんかの揚げ物が山のように入っているどでかい弁当。


 礼央は、今日も小綺麗な弁当を食べている。

 家庭環境を聞けば、その小綺麗ささえ違和感の一端のようにしか見えないわけだけれど。




 ため息を吐きつつ、それでもこんな日常は愛しくて、亮太はミックスサンドにかぶりつく。

 うっすらとした雲を眺める。


 後ろで、礼央とケントがコソコソと話をしている。

 どうやらまだ、亮太のチョコレート菓子を狙っているようだ。


 サクはマイペースにささっと弁当を食べてしまうと、ぱったり大の字になって空を見上げる。

 見ていると、あのまま寝てしまうんじゃないかと思える。

 もしかして、まだ成長するんだろうか。


 その時、亮太の後ろから、

「どーん」

 と背中に突進してくる物体があった。

 まあ、その感覚には慣れたもので、ケントである事がわかる。

 ぎゅっと羽交締めとも思えるようなハグをすると、相変わらず間の抜けた甘えた声で、

「チョ・コ・レー・ト♡」

 と耳元で囁いてくる。


 亮太の手元には、チョコレート菓子の箱が開けておいてある。


「やらないよ?」


 言い放つと、

「んああ」

 と悲しそうな鳴き声を上げて帰って行った。


 しかし、その攻防はそれだけでは終わらなかった。


 再度、また背中に衝撃が走る。

「どーん」とケントの声がした。


 声こそ、ケントの声だったのだけれど。


 背中の感触は、いつもとは違った。


 ケントより細くて。

 ケントより背が高くて。

 ケントより遠慮がちな。


 これは……。


「れおくん……?」


「あ、はは」

 ちょっと照れた顔を見せたのは、予想通り、礼央だった。


 ドギマギしてしまう気持ちを抑えようとして、あまり抑えられずに、「はは……」とおかしな笑顔で笑い合ってしまう。


 俺……何、こんな事で意識して……。


 少し照れながらも、

「まあ、れおくんならしょうがないからな」

 なんて言って、チョコレート菓子をひとつ礼央の口に押し入れる。


 礼央は照れた顔で眼鏡を押し上げると、大人しく口をもぐもぐとさせる。


「ずりー」

 と、ケントの声が響いた。


 ケントの攻撃がこれで終わったと思うのは間違いだった。


 後ろの巨大な気配。


「まさか……」


 言いかけたところで、

「どーん」

 とケントの声がして、あり得ないほどの巨体が亮太に襲いかかる。


「ちょっ!サクはマジで死んじゃう!」

 のしかかって来る巨体は、「ふひー」と笑い声を上げた。

「チョコあげるから!」


 押しやろうとする亮太と、ちょっと慌ててサクを引き剥がそうとする礼央と、

「俺は!?」

 とまたその上からのしかかろうとするケントで、4人はその日、団子になって転げ回った。



◇◇◇◇◇



久々に4人の日常回でした〜!

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