77 敵情視察(2)
喫茶店に入ってきたのは、黒髪ボブの小柄な女性だった。
人を探しているようで、目が合うと、「あ」と視線が止まる。
「もしかして、高坂さんですか?」
尋ねると、
「はい」
と、安心した顔になった。
「三上さんですよね。この度は、礼央がお世話になって……」
礼央のママは深々とお辞儀をする。
……大人しそうな人。
この人が……息子に酷いことをしている?
あまり、想像は出来そうにない。
「どうぞ」
と、予定通り陽子さんの隣へ誘導した。
これで逃げられないわね。
「こちらは、同じクラスのケントくんのお母さん」
「よろしくお願いします」
陽子さんがにっこりと笑ったけれど、高坂さんは「そうですか……」とにっこりとする。余りピンと来ていなさそうな顔だった。
礼央くんとケントくんはいつも一緒にいるはずなのに。
うちに来る時だってあんなに仲良くゲームするくらいなのに。
礼央くんは家では、友達の話はしないみたいね。
じゃあ、これはどうかしら。
「礼央くんはいい子ですね。以前うちに来た時、お皿洗ってくれたんですよ」
にっこりと笑う。
「成績もいいみたいだし」
「そうですか……」
戸惑いの表情。
やっぱりこの人は、家で礼央くんと会話をしていないのかもしれない。そう思う。
息子の事を知らなすぎる。
思春期ならあり得ることだろうか。
けど、成績の話までこれほど他人事だなんて。
成績もチェックしてないなんてこと……。
それからは、当たり障りのない話を話した。
「うちの子は部活が好きすぎて」だの。
「この間出来たケーキ屋さんが美味しくて」だの。
「高坂さんは、ケーキお好きですか?」
「え、私ですか?」
自分の事を聞かれるとは思わなかったとでもいうような、戸惑いの表情。
「ええ」
にっこりと笑う。
「そうですね、食べます」
……あまり、楽しそうじゃない笑顔。
悪い人である感じはしない。
けど、違和感が拭えない。
「礼央くんはどうですか?甘いもの」
陽子さんが、話を振った。
律は知っている。
礼央くんが甘いものをどう食べるのか。
礼央くんは甘党ではないけれど、嬉しそうに食べてくれる子ではある。
そして、高坂さんの答えはこうだった。
「そうですね。食べると思います」
不思議な答え。
好きか嫌いかを問うているのに、食べるか食べないかで話が進む。
本当に、関わりはないみたいね。
好きな食べ物もわからなくなるくらい。
ただの思春期ならいい。
亮太も、中学の頃は少し擦れている事があった。
さて……、この親子の理由は何かしら。
そう思った。
その時だった。
ぽろぽろと、高坂さんの瞳から涙がこぼれ落ちる。
え!?
いじめてるみたいになっちゃった……???
◇◇◇◇◇
まだママ達の回は続きそうですね。
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