74 静かな夜(5)

 眠れないと思った。


 けど、それでも時間が経つにつれて、じわじわと亮太にも、眠気がやって来る。


 それから何時間経ったのか。

 亮太は他人の気配で意識を取り戻した。

 目を閉じたまま。


 …………?


 まだ、夜中っぽいけど……。


 ああ。そうか。

 今、うちにはれおくんが居るんだ。


 水のペットボトル……渡してあったと思うけど、問題なかったかな。


 トイレ、とか。大丈夫かな。

 いや、今までも何度も来てるんだし、そんなこと、悩む事でもないか。


 礼央が起き出して、ペットボトルの水を飲む音が聞こえた。

 やっぱり……よく眠れないのかな。

 明日は直ぐに帰っちゃうみたいだし、少しでも休めてればいいけど。


 うとうとと、また眠りに誘われる。


 意識を手放そうとした、その時だった。


「…………」


 礼央の吐息が聞こえた。


 ………………!?


 な、んか…………近…………。


 どうやら、礼央はこちらを覗き込んでいるみたいだった。


 こんなんじゃ……目、開けられないし。

 とりあえず、たぬき寝入りを決め込む。


 シーツを伝って、礼央がベッドに手をかけたらしい気配を感じる。


 なんか…………。なんか、れおくん……、近付いてきてない?


 確かに、礼央は近付いて来ていた。

 じっと、見られている視線を感じた。


 俺の顔なんて眺めて、どうするつもりなんだよ。


 ……………どうするつもりなんだよ…………。


 俺の顔なんて、絶対面白くないのに。


「…………」

 変な沈黙の時間が、流れる。


 いつまで!?

 ねえ、これっていつまで???


 まさか、起きてるの気付かれてる……?

 ……う〜ん、いやいや、そうでもないか。

 バレてたら、こんなじっと見るわけないもんな。


 その時、ふわっと礼央の手が動く気配がした。

 一瞬、離れていくのかと思った。


 けれど礼央の手は、そのまま亮太の方へ伸びてくる。


 ………………!


 礼央の大きな手が、亮太の髪に触れた。


 う、うわああああああああああ。


 なんだこれ。

 なんだこれ。

 なんだこれ。


 なんか……、少しひんやりした手は、妙に優しくて。


 ……まるで愛しいものを、触るみたいな。


 好きだって、伝わってきてしまいそうな。


 こんなの……反則だろ。


 ダメだろ。


 近いし……。


 何考えて…………。


 けれど、そのささやかな攻防は、それだけでは終わらなかった。


 吐息が、亮太の顔にかかる。


 …………へ?


 思わず、力が入る。


 だんだんと、礼央が近づいて来るのが分かる。


 …………まさか、そんな。


 うわああああああああああああ。


 だって。


 だって。


 そんな事されたら、これがファーストキスになっちゃうし。


 まさか今だって思わなかったし。


 だって。


 だって。


 けれど、礼央の吐息は、亮太の顔にかかるばかりで。

 そして亮太は覚悟を決めた。


 うぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ。


 決めたのだ、けれど。


 亮太の唇には、何も触れる事はなく、礼央は離れて行ってしまった。


 ガチャ……、パタン。


 礼央が部屋の外へ出ていく音がする。


 亮太はそれをキッカケに、ガバッと跳ね起きた。


「な…………っ、な…………っ…………」


 暗い部屋の中には、真っ赤になった亮太の荒い息遣いだけが聞こえた。



◇◇◇◇◇



そんなこんななな夜でした〜。

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