59 調理実習(2)
当日は、材料持ち寄りで、調理室に集まった。
クラスメイト達の声がざわつく。
「何の粉?」
「小麦粉だよ。そっちこそなんでお米?」
「うち、おはぎだもん」
「じゃあ、完成したら交換ね」
あれから数日。
流石に、礼央が無視するような事はなくなった。
「きなこ、持ってきた?」
「…………。うん。あとでおはぎ班にも分ける事になったよ」
けど、話しかけてはこなかったし、話しかけても毎回、一瞬だけなぜか固まった。
…………?
そして、ドーナツ作りは始まった。
一口サイズにする予定なので、輪っかの形にする必要はない。
という事は、ただ、生地を丸めればいい。これに尽きる。
というわけで、ドーナツ班の6人は、ちまちまと無言で作業を始めた。
ころころころころ。
ころころころころ。
ころころころころ。
…………これ、思ったより楽しいな。
作業は思った以上に楽しかった。
そこから先は、自然と役割分担することになった。
亮太と、もう一人の男子が揚げ物担当。
それ以外が味付け担当だ。
一人の女子がグレーズ作りに勤しむ。
その隣では、礼央がドーナツにあんを詰めていた。
「れおくんさぁ、ドーナツあげる人いるの〜?」
「あげる人?いないよ。多分ケントとサクかな」
「ああ、じゃあそれが意中の人だ」
「違うよ」
そこで亮太に、礼央が面白そうに笑う声が聞こえた。
は???
俺の前では、あんな顔ばっかしてるくせに???
他のやつの前ではそんな風に笑うわけ???
あからさまにムッとする。
俺には、最近そんな顔見せないくせに。
他のやつには見せるわけ?
油の中で、ジュワジュワとドーナツが泡を立てている。
ポコンと浮いてくる。
耳を澄ませたまま、視線はじっと鍋の中に注いだ。
「これで最後だぞ」
「あ、うん」
最後のドーナツが揚がる。
薄い色だったドーナツは、温かな甘い匂いを醸し出し、こんがりした茶色へと変わる。
美味しそうだ。
「れおくん」
「え?」
呼びかけると、話していた笑顔のまま、礼央がこちらを向いた。
そんな顔、誰に向けてるわけ?
「ほら、美味しそうに揚がったよ」
「ほんとだよね」
菜箸で、揚がったあとのドーナツを持ち上げた。
「………………」
「え?みかみくん?え…………」
「ほら」
亮太の目はすっかり据わっていた。
「それ、まだ、熱いんじゃ」
「あーん」
言うと、礼央が目を見張る。
ほら。照れるくせに。
亮太が、礼央の口に、ドーナツを押し込んだ。
「ちょっ……」
声だけは抵抗して、けど、そのまま受け入れるくせに。
モゴモゴとドーナツを食べる。
「あ、おいし」
嬉しそうな顔するくせに。
俺のこと……好きなくせに。
「変な抵抗すんなって」
言うと、照れ顔のまま、少し拗ねたみたいな顔をする。
「大丈夫だから」
すると、礼央は、
「うん」
と呟いて、少しホッとしたような顔で笑った。
◇◇◇◇◇
仲直りですか!仲直りですね!?
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