58 調理実習(1)

 結局その日は、教室に戻ると、礼央はもう起き上がっていて、二人、並んで帰った。


 けど、今までみたいに緩い空気じゃなくて、その日は何故だか。

 何故だか、礼央はどこか緊張してるみたいに、亮太から視線を逸らし続けた。


 そんな風にされてしまうと、学校から電車なんてあっという間だ。




 翌日。


「さて、班なんだけど」

 家庭科の先生が考えながら言う。

「くじ引きでいいよね」


 調理実習の班分けだ。

 できるだけ、毎回違う班で作って欲しい、というのがこの家庭科教師の信条のようだった。

 先生お手製のくじを引く度、黒板に新しい名前が書き足される。

 その度に、女子がきゃーきゃー言い、それにつられて男子もきゃーきゃー騒いだ。


 クラス全員が、6つの班に分けられていく。

 それが何処であったとしても、あまり気にしない亮太は、ずっと頬杖を突いてその光景を見るともなく見ていた。


 いつもの黒いもさもさした髪が視界に入る。

 と、『三上亮太』の二つ下に、『高坂礼央』の名前が書かれた。


 同じ……班。


 殆ど毎回くじ引きで決まるが、同じ班になるのは初めてだ。


 すれ違う時、

「よろしく」

 と声を掛けたら、少し困ったような顔で、

「よろしく」

 と返ってきた。




 そこからは、班ごとの活動だ。

 6人の班。テーマはおやつ。

 前回は、和食がテーマで、それぞれ魚を焼いたり、和物を作ったりだった。それもよかったのだけれど、どうしてもみんなこのテーマの方がやる気が出てしまう。

「お裾分けできるものにしよう」なんて声も聞こえた。

 周りの班は、パフェやマドレーヌ、はたまた大学芋などが決まっていく。


 女子の一人が、

「じゃあ、ドーナツは?」

 と言ってからは、トントン拍子に進んだ。

「いいね。みんなの好きな味にしようよ」

「いい事言うじゃ〜ん。あたし、いちご味〜」

「私、もちもちのやつ」

「え、あれ作れんの?」

「あんドーナツどう?」

「いいね。男子は?」

「俺、あの白いトロトロかかったやつ」

「あれって何?」

「あれは砂糖よ、砂糖。みかみくんは?」

「俺、チョコ。れおくんは?」

「僕、きなこ」


 なかなか錚々たる顔ぶれだ。

 並べるとかなりの壮観だろう。


 そこで、先生から、

「食べきれないだけ作っても仕方ないからね」

 と注意が入る。


「あー、じゃあ、持って帰りやすいように一口サイズにしよ」


 先生の、

「下準備に時間かかるやつは、休み時間に調理室使えるから、申し出る事」

 の声に、

 みんなが一斉に、スマホでレシピを検索しだす。


 騒がしいけれど、楽しい。


「上手くできるといいよね」

 と礼央に声を掛けると、

「うん」

 とおずおずとした返事が返ってきた。



◇◇◇◇◇



まだそっけないれおくんなのでした。

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