32 自分だけの舞台(3)

「はい、受け付けました」

 店長がニコニコと案内書を出してくる。


 案内書には、『ビバーク』という店名と、大会の日時が書いてあった。

 ……そんな店名だったのか。


「『タテガミ』の二人ね。土曜日はよろしく」




 そう。

 大会に出るからには、名前を決めないといけなかった。


 「あの、なんとかの〜黒獅子みたいのは?」

 「あれは店長が勝手に付けてるだけ」

 礼央のゲーム名、レオンがライオンという意味だから、それに合わせて馬という意味のエクウスと名前を付けたまでは良かった。

 問題はその先だ。


 受付カウンターで礼央が、

「あ、チーム名が要るのか。じゃあ……アニマルブラザーズ?」

 と、真面目な顔で亮太に意見を乞うた時には、呆気に取られ、亮太は沈黙で返してしまった。


 その沈黙を肯定と受け取った礼央が、店長に向き直ったところで、

「ちょ、ちょちょちょちょちょ」

 と引き留める。

「もうちょっと考えない!?」


「え?」

 と顔を向けてきた礼央は、本当にキョトンとしていたので、本当にそういうセンスが無いんだろう。

 正直で素直なところが出ているのはいいと思うけれど。

 そういえば、確かにレオンというのもほとんど名前そのままだもんな。


 そこで二人して腕組みをして、悩み出してからが長かった。

「アニマルズ……動物……う〜ん」

「れおくん、さすがに“動物”からは離れない?もうちょっとかっこいい名前……」

 と、亮太はスマホをいじり出す。

「フェアシュプレッフェン、とか!?」

 と、言ったところで、亮太は自分の礼央よりもセンスが無いとも言えるような名詞を出してしまう自分に絶望する。


 もしかして、頑張ってかっこいい単語使わなくていいのでは……?


 そんなことを思いついたのは、散々かっこいい単語をネットで調べ終えてから。

 結局、チーム名は亮太が思いついた『タテガミ』にした。




「帰る前に、少し寄ってく?」

 聞かれて、

「うん」

 と答えるしかなかった。


 あと3日しかない大会まで、少しでも練習しておかなくては。


 人気のFPS。

 亮太は、二、三度やったことがあるかどうかのゲームだ。


「よし」


 けど、一応二、三度はやっているわけだ。

 それなりの仕事はできるはず。


 おどろおどろしいゾンビがどーんと登場し、バズーン!という効果音が流れる。


 始まると同時に、荒野のような舞台が現れる。

 荒野でゾンビに襲われるストーリーなんだろうか。


 敵が出てくる。なんとか、トリガーを引いて凌ぐ。


 これ、いけんじゃね?


 なんて、呑気に構えたところで、大量のゾンビが両側から這い出てくる。


「う、うわわわわわわ」


 銃を振り回して撃つけれど、弾のなくなった銃にはなんの効力もない。

 その時、タタタタタタと、隣からテンポのいい音が聞こえてくる。

 礼央の弾は、全てゾンビの頭を撃ち抜いた。

「落ち着いて、リロード!」

 ゾンビが一旦空になったところで、画面外でトリガーを引く。あっという間に、弾はいっぱいになる。

 また湧いてきたゾンビに、礼央のサポートをする形でトリガーを引く。


 俺…………めちゃくちゃ初心者じゃん………………。



◇◇◇◇◇



店長さんは今頃、にこにこ顔で新しく大会に出てくれるみかみくんの二つ名を考えていることでしょう。

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