27 夕陽の中で(2)

 仲いいんじゃん、なんて思っている場合ではない。


 周りを見渡すと、小難しそうな本棚にも、いろいろなジャンルがあるらしい。

 図書室には、まだ2、3人は勉強のために残っているようだ。


「スポーツ、は」

「スポーツはあっち」

 と、礼央が図書室の奥の方へ案内してくれる。


 途中、色々なジャンルの棚を見かけた。

 文学、参考書、外国語、辞書、美術…………。

 スポーツは、かなり奥の方だ。

 窓に向かって並んだ自習用の机を越えた、一番端。


 バスケの本は、10冊ほどあった。

「けっこう多いな」

「球技大会でもやるからかな」

 トレーニングの本、技術の本……。

 ルールに特化した本は、その中でも4冊だ。


 パラパラとめくって、イラストが豊富で簡単そうな本から、2冊ほど手に取った。


「これにする」


 礼央が覗き込む。

「みかみくんは、どの競技に出るの?」


「バドミントンやってみたくて」

「ああ、けど、サクは出られないんだよね?」


 そうなのだ。

 レクリエーションが目的の球技大会では、自分が所属している部活の競技には出られないことになっている。

 バド部のサクは、バドに出ることが出来ない。


「そう。けど、サクかっこいーじゃん?教えてもらえるなら、ちょっとやってみたくて」

「ああ、サクリスペクト。僕もそれがいいかも」


 球技大会のバドはダブルスだから、二人ならちょうどいいかも、なんて思う。


 いや、なんで俺はこいつと組む前提で考えてんだよ。


 バドの本を見るために、礼央がしゃがみ込んだ。

 くしゃくしゃの黒髪が、珍しく亮太の視線の下になる。

 何気に礼央が亮太より背が高いせいで、あまり頭のてっぺんが見える事はない。


「れおくーん、私、そろそろ帰るけど」


 図書委員の子から、声がかかって、亮太は礼央の頭から咄嗟に目を逸らした。

 顔を覗かせて見ると、もう図書室には誰も残ってはいなかった。


「佐々木さん、ごめん!鍵、返しておくよ」


 佐々木さんと呼ばれた女子生徒が出て行くと同時に、二人は図書室を出るべくスポーツの棚から離れた。

 薄く開いたブラインドから、濃いオレンジ色の夕陽が漏れる。


 礼央に本を借りる手続きをしてもらうのを、じっと眺めた。

「みかみくん、何番だっけ」

「29」


 いつもこんなに遅くなることなんてなかったから、ちょっと変な感じだ。


 誰も居ない暗い廊下に鍵をかけるガタガタとした音が響く。

 二人分の上履きの歩く音。

 そこだけ明るくなった職員室に鍵を返す間、薄暗い廊下で、職員室の壁を眺める。

 暗い中で、壁の張り紙も良くは見えない。


 時間的にはそれほど遅くはないので、どんどん重い色に変わっていく夕焼けの中を、公園を通って帰った。


 公園にはいつもの学生達の列はなく、人の気配は多いけれど、二人で歩いている事実が、いつもより強調されている気がした。

 少しだけ、居心地が悪い。


 夕陽は遠く消えていく。

 紺色の空が、拡がる。


 駅前はすっかり、電気の明かりで明るくなっていた。


 電気の点いたホームの上。

 礼央の方の電車が早く着く。


「じゃ、また」

「うん、また明日」


 一人、取り残される。


 人がまばらなコンクリートのホームを眺めた。


 特に何か話したわけじゃないけど。


 今日、あいつが居てよかった。



◇◇◇◇◇



貸し出しはバーコードぴってするんでしょうね。

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