26 夕陽の中で(1)

 けれどふと、亮太は校舎の上を見上げた。


「ケント」

「ん?」

「バスケのルール確認するのに、俺ちょっと図書室寄ってくわ」

「おお。付き合おうか?」

「いや、先帰ってて」

「はいよ」


 図書室は、2階の真ん中にある。

 すでに静かになった階段を、とんとん、と鈍い上履きの音を立ててゆっくりと上がる。

 左手に持ったスマホで、時間を確認した。

 もう5時前だ。

 図書室って、開いてる時間決まってるんだっけ?

 勉強する奴もいるらしいから、それほど早いわけもないとは思うけれど。


 階段の踊り場を回ったところで、階段向こうの曲がり角に、人の気配がすることに気がついた。


 少し、どきりとする。


 あんまりこんな時間まで学校に居たことないからな……。


 誰もいない廊下。

 廊下の暗い陰に少し不安を感じ、踊り場で足を止める。

 見上げると、そこに人影が現れた。


 くりくりとした天パの黒髪。

 細身の眼鏡。


 瞬間、めちゃくちゃ安心している自分に気づく。

 いや、人間じゃないものが廊下歩いてるんじゃないか、なんて思ったわけじゃないけど。


 踊り場の上の方から差す夕陽の中で、礼央と目が合う。


 ……居た。


 そう思った。


 なんだよ。いるんじゃん。


 礼央が、パッと嬉しそうな顔になる。


 ……なんだよ、その顔。


 今日が久しぶりの部活だって知っている礼央は、けれどどうだったかなんて聞くわけでもなく、ただにっこりと笑った。


 ……だから、なんだよ、その顔。


「えっと……」

 自分を迎えに来たのか聞きたいような顔で、けれどそんなわけはないと心の中で否定しながら、礼央は少し言い淀む。


「図書室で、バスケのルール本、探そうかと思って」

 亮太がそう言うと、礼央の顔はパッと明るくなった。

 図書館はいわば礼央のホームだ。


「じゃあ早く行かないとね。もうすぐ閉めようかと思ってたから」

「ああ、急ぐよ」


 二人は、並んで少し早足で歩いた。


 なんだ。そっか。

 今日は図書室当番の日だったんだ。


「バスケ?」

「そ。ケントと、バスケの実況と解説することになってさ」

「そんなのするんだね。本格的だ」


「ああ。明日から練習、よろしくな」




 高校の図書室は、なかなかに広かった。


 こんなに広い図書室なんだっけか。

 図書室というものにあまり興味を持ったことがない。

 本なんて、いつ借りればいいのかわからないし、借りれば返さないといけないのが少々重苦しい。

 なので、亮太は学校の図書室に入ったのは、入学の時に学校探検した時以来だった。

 その時も、あまり眺める事はなかったはずだ。これほどの広さだということさえ、覚えていなかったのだから。


 図書室は、校舎の中だというのに、どこにそんなスペースがあったのかと思えるほどに広かった。

 小難しそうな本の他に、児童書や絵本、雑誌などもあるようだ。


 図書室に入ったすぐのところにある大きなカウンターには、一人の女生徒が座っていた。

 前に礼央を迎えに来た子だ。

 どうやら、図書室当番で礼央とペアになっている子のようだ。


「おかえり」

 とその子が言うと、

「ただいま」

 と礼央が返事をした。



◇◇◇◇◇



れおくんとペアになっている女子生徒は佐々木さんといいます。おとなしい女の子で、れおくんとは仲良しです。

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