24 君の声が聞きたい(4)

 水面が、ぴちゃん、と音を立てる。

 魚でも居るのだろうか。


「うん」

 礼央が、どこか残念そうな顔をしたので、また少し笑った。


 そんなにぶっ飛ばしたかったんだろうか。

 けっこう過激なゲームが好きみたいだし、攻撃的な性格は予想外だ。


 こんな穏やかな見た目してるくせに。


「……みかみくんは、やりたいの?」


「どうかな。正直、部活のメンバーなのは間違いないし、手伝いたい気はしてるんだ。けど、裏方だけってわけにはいかないみたいで」


「そ……っか」


 礼央が、何か考える。

 考えた末に、うん、と頷いた。


「やってみるのは、どうかな。手伝える事があったら、何か手伝うし」


「え」


 やってみるといいって、言われたのは初めてだった。


 ケントも優しいけれど、“やらなくてもいいように配慮する“という優しさだ。


 ……こんな風に、背中を押されたのは、初めてだった。


 確かに、こんな話を誰かにしたのも初めてだったけれど。


 実際、教室で話せないというほどではない。

 授業での発表程度では困ることもない。


 体育館レベルの舞台に立たないといけないことは、それほどない。

 ……それほどないように、賞を取るような事は避けてきた。

 生徒会に入るような事も。

 そんな舞台に立たないとならない習い事も、全て。


 苦手なんだと笑って言えば、いつだって、じゃあ無理しないでと返事が返ってきた。


 こんな風に、手伝ってくれると言ってくれる人がいるなんて。


「どうしても、やりたくないわけじゃないんだよね。やってみたい気持ちがあるなら……」


「ああ。……そうなんだ。チャレンジしたい気持ちは、あってさ。けど、迷惑かけるかもしれなくて」


「練習しよう。付き合うよ」


 礼央が笑う。


「…………うん」


 呆然としつつも、そう返事をする。


「僕は、みかみくんが司会とか、実況とか?してるところ見たいな」


「…………そか?」


 それは、好きな奴が活躍するのを見たいってこと?


「僕、みかみくんの声、好きだよ」


「…………」


 へ?


 亮太本人のことではないとはいえ、『好き』だなんて、まさかそんな直球な言葉を使うとは思わなかったから。

 少し驚いた。


 礼央は、亮太をじっと見ていた。


 ほのかに染まった頬。

 はにかんだ……それでいて真剣な顔。


 あまりにも隠しきれていない好意に、戸惑っていいのか、喜んでいいのかわからなくなる。


 少し驚いた顔のまま、じっと見てしまったものだから、礼央は慌てた顔をした。


「変な意味じゃなくて!」


 今の話をなかったことにするかのようにブンブンと手を振る。


 確かに下心があるような言葉じゃなくて、純粋に応援してくれているんだと思うけど。

 恋愛的な感情からのものじゃないっていう意味なら、それはちょっと……いや、かなり疑わしい言葉だった。


 けど、だからこそ信じられる。


 声なんか誰も気にして聞いてないだとか、そんな風に言われても、反論したくなる気持ちばかりでうまく飲み込めなかっただろう。だって、みんながみんな、そんな人間ばかりじゃないだろ。


 けど、礼央の言葉は。


『好き』だという純粋な言葉は、心にスッと入ってくるのがわかる。


 亮太は、ふっと笑う。


「うん。……ありがとう」



◇◇◇◇◇



意外とれおくんの方が行動的だったりするかもしれません。

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