18 ホットケーキを積み上げて(1)

 亮太がケントだけでなく、新しい友人2人も連れて来るというものだから、その日、亮太の母は張り切っておやつを作った。


「母さん……何してるの……」


 亮太が塔になったホットケーキの前に、呆然とした声を出した。


 亮太の家の居間には、4人が揃っていた。

 サクの部活が休みの日を狙って、ケントと礼央の部活と委員会が終わるのを待った。

 結果的に少し遅くはなったけれど、外はまだ明るく、おやつを食べるのには悪くない時間だ。


「何言ってるの!男子高校生が4人も居るのよ!?」

 と、台所から覗きつつ、元気よくポニーテールを揺らしているのが、亮太の母。


 母は追加で、ホイップクリームやらフルーツやらチョコレートソースなんかのトッピング類をテーブルに積んで、ドヤ顔を寄越した。

 ホットケーキ自体は、どうやって焼いたのか1枚で2センチほどはありそうなホットケーキで、実にまんまるに焼けていた。

 あまりにもまんまるなため、積み上げると綺麗な塔になる。


「砂糖の暴力だろ」

 と亮太が呆れる。

 母は性懲りもなく、

「ケントくんは甘いの好きだもんねー」

「ねー」

 と、ケントを味方につけた。


 文句は言うものの、甘いものが苦手な者は一人もいなかったようで、結局4人ともがよく食べた。


「んな〜!うまいな!」


 おかしな鳴き声を上げながら一番よく食べたのは、サクだった。

 身体がでかいだけあって、食べる量もハンパないのだろうか。


 礼央は、他の3人がガツガツ食べる横で、一人丁寧に食べていた。

 マイペースなところが、やはり礼央らしい気がした。


 ケントやサクも態度はよく、片付けの手際も良かった。

 ケントは勝手知ったるという感じだし、サクは体育会系のアレコレが身に付いているという事だろう。


 これだけのものを食べてもらえて、亮太の母も機嫌が良い。


「洗い物、手伝います」

 と申し出たのは、礼央だった。


 亮太は少しドキッとする。


 それは……、親に対するアピールなのか?自分が彼女ですアピールみたいなやつか?

 それとも、素?


 そこで、ケントが、

「じゃ、俺、上からゲーム機持ってくるわ」

 なんて言ったので、礼央の目から光が消え失せる。


「部屋?知ってるんだね」

 亮太は、そう問う礼央の表情に気付かないまま、

「小学生から一緒だからなー」

 と、気軽に返した。


 俺は、……礼央に手伝わせて自分が手伝わないわけにもいくまい。


 亮太は仕方なく、礼央の隣に立つ。

 母と3人で、4人分の皿やカップを手分けしながらキレイにしていく。


「僕、すすぐから、みかみくん、拭いて」

「あ、うん」


 なかなかの手際の良さだった。

 母も、満足そうだ。


「りょーくーん」

 上の階から声がして、

「しょうがないな」

 と呟きながら、手を止める。


「ちょっと行ってくるわ」

「うん」

 礼央が、言いながら、口がへの字に曲がっている。


 亮太が、階段を上がって行った。




「礼央くん」


 亮太の母と二人になったところで、声を掛けられ、礼央がハッとする。


「亮太と仲良くしてくれてるのね」


「え、は、はい」

 咄嗟のことに、どもってしまう。

「むしろ僕の方が、仲良くしてもらってて」


「あら、あの子、素っ気ないでしょう」


「いえ、助けられる事も、あって。前に……」


 礼央がちょっとした昔話をする間、それ以外に人の声はしなくて、ただ、カチャカチャとした食器を洗う音だけが響いた。

 平日の夕刻。


「高校に入ってどうなるかと思ったけど……。なんだか珍しく、亮太と波長が合いそうな子がいて、良かったわ」

 亮太の母が笑う。

 その笑顔で、礼央も少しだけ照れながら笑顔を見せた。



◇◇◇◇◇



いい感じに4人で仲良くなってきたんじゃないでしょうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る