8 そしたらどうする?
心臓を抑え込まれたような感覚と、喉の奥が詰まるような感覚。
一瞬、放心状態になる。
だけど。
あ、えっと。
そうだ。
このまま、こいつを放置するわけにもいかなかった。
「俺らさ、」
話を続けたけれど、カスカスになった声は、声にはならなかった。
「ケホッ、ん、んん……」
やり直し。
「俺らさ、この時間はいつも非常階段でたむろってるんだけど、一緒にどう?」
「え、あ……」
礼央が口ごもる。
礼央の方も、どうやら会話の内容が頭にうまく入らない程、まだ動揺しているらしかった。
「僕も、行っていいの?」
礼央がどんな顔をしているのか、見ることが出来ずに、
「当たり前だろ」
前を向いたまま返事をした。
ちゃんとついて来ているか確認だけはしながら、亮太は前を歩いた。
賑やかな午後の校舎の中。
階段を1階まで降り、校舎の裏へまわる。
非常階段なので、2階や3階からでも校舎の端まで行けば、もちろん階段には出られるのだけれど、上級生のいるフロアを堂々と歩けるほど、亮太はまだ学校に慣れてはいない。
非常階段に向かうと、そこには既にケントとサクの二人が居た。
サクは壁に寄りかかり、居眠りに興じている。
ケントの方はどうやらまたスマホで推しでも眺めているみたいだった。
二人が来るなり、ケントが、
「あ、れおくん、見て見て!これ、俺の推し〜」
と、予想通りの行動に出る。
「かわいいね」
「だろ〜」
亮太は階段に座り、手に持っていたコーヒー牛乳のパックをじっと見る。
普通を装うので、精一杯だった。
あの……顔…………。
思い出すだけで、喉の奥が潰れそうになる。
見せられないような顔をしている気がして、じっと壁の方を見つめた。
……流石に、「好かれている」という前提で動いた方がいいよな。
そう決まったわけじゃないけど。
これで勘違いだって切り捨てるのは、むしろ……失礼なんじゃないか?
だったら、離れたほうが……いいの、かな。
その気持ちに応えるつもりなんて、ないわけだし。
「…………」
ズルズルと、パックのコーヒー牛乳を口にした。
けど。
二人の会話を聞く。
「え、猫耳の子、これ?」
「そうそう。このがむしゃらに撃ってるおっさん」
「イメージと違うね」
「だろー?そこがいいわけ」
なんだか楽しそうで。
それで……俺はどうしたらいいって……?
友達にまでなるななんて、そんなことを言うつもりはなかった。
別に……嫌なヤツじゃないしな。
告ってくるわけじゃないし。
襲ってくるわけじゃないし。
ベタベタ触ってくるわけでも、変な目で見てくるわけでもない。
ちらりと見ると、ケントと一緒にゲーム実況を楽しんでいる。
「おっさん動きがすごい……。解ってる動きだ」
「だっろ〜!人気はそこそこだけど、ちょー!オススメだから」
礼央が、笑う。
「………………」
突き放すなら、何かあった時でいいか。
きっと今は、このままでいいんだ。
◇◇◇◇◇
ケントの推しは、ゾンビと戦うようなゲームが得意なタイプです。
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