2話 投げ出されたキャンパスと空っぽのバスケット

「えっ?あ!ニト!」

 無駄なスタッカートをつけながら叫んだ少年を、鳥が大きく羽ばたき、時折つつきながら追い立てていく。  

 木の陰から出てきたそれは、ニトの目の前を横切り再び木の陰へと消えていく。

 悪かった、そろそろ巣に戻れよ。などの声とともに足音や葉のこすれる音が遠ざかっていく。

 その後しばらくして勢いよく鳥が木陰から飛び出して来た。

 鳥はそのまま勢いを落とすことなく、ニトが先程まで歩いていた道をまっすぐにとんでいく。

 首元に見覚えのある模様がある。またあの子どもたちに届ける餌を探しに行ったのだろう。

 鳥の姿が見えなくなって少したった時、先程の少年がゆっくりの茂みからでてきた。

 体つきが良く、暗めの金髪に黄色の目をを持っている。

 その姿を見るなり、心底嫌そうな顔でニトは大きくため息を付いた。

「さっきの鳥…行ったか?」

 その少年、ルークがあたりの様子を伺いながらニトに問いかける。 

「行ったよ、お前今度は何やらかした?」

「俺は何もしちゃいねぇよ。ほんとだって。」

 ニトの諦めたような表情を見てルークは必死に弁解をしようとする。

「警備員に追いかけられてるやつを傍からみて、悪くないとお前は思えるのか?」

 ニトが呆れながらルークに問いかけた。

「いや、思わん…」

 ルークは何を言っているのか全くわからないという顔をしている。

「お前の頭の風車の軸には、そろそろほんとに油をさしたほうがいいと思うよ。」 

 肩で息をしながら、小馬鹿にしたように笑ったニトが言った。ルークは考え込むような顔をしたが、数秒と経たずお手上げだとでも言うように顔を上げた。

 ニトは小さくため息を付き、どこか見下したように言う。その顔には嫌味な笑みを貼り付けている。

「空っぽのバスケットでもおうちには帰るべきじゃないかな?」

 それにルークが顔をしかめ少し怒った声色で言う。

「俺はお前を探しに来たんだぞ。」

 ルークを一瞬睨みニトが言う。

「母さん?」

「あぁ、これはお前が悪い。」

 ルークから目を離し黙り込む。追い詰めるようにまた言う。

「今だってはぁはぁしてるし、普段より顔色も悪い。」

 ルークはニトをまっすぐに睨む。

「ここまで来て…」

 つぶやきかけて口を閉ざす。こうなればてこでも動かないことはニトが誰よりよくわかる。

 一瞬、大樹の方に目をやる。相変わらずの生命力を発している。

 ニトにはどこか悲しげに見えた。

「…わかったよ」

 かすかな声でニトが呟く。

 ルークはそれを聞くなりニヤッと笑う。

「よし、じゃあ早く戻ろう。みんな心配してる。」

 ニトにくるりと背を向け、先ほどまでの道を大股で歩いていく。

「待ってくれ、それじゃ追いつけない…」

 ルークの背を必死に追いかける。

 背後で一瞬何かが揺らいだような気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

白光の魔剣士 レア @patronus

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ