白光の魔剣士

レア

プロローグ

1話 白へ

 鮮やかな若葉の生い茂る森に、空から明るい陽光が差し込む。

 美しい木漏れ日の下、ニトは地面の草花に足を取られながらゆっくりと足を動かす。息を荒げ、時折咳き込みながら苦しげに足を動かし続ける。

 ニトは、黒髪のショートヘア、同じく黒い瞳をした、整った顔立ちの少年だ。その顔は青白く、14にしては小柄で頼りない。

 随分前に見た鳥の巣に、母鳥が返ってくる気配を感じたのは何度目だろうか。捕らえた餌を子に与え再び飛び立つのを見守り、ニトは小さくため息をついた。

 もうほとんど覚えていないが、こんな自分も幼い頃は意味もなく外を駆け回っていたことを思うと自然に笑みがこぼれる。

 懐かしんでいるわけではない。たった数10メートルをノロノロと必死で歩いている自分がバカらしく思えたのだ。

 ニトは後ろを振り返り、荒い息を整えようと深呼吸をした。

 帰りのことを考えると、もうとっくに引き換えしたほうがいいのだろう。

 ニトは頭上を見上げた。

 若葉の隙間からまわりの木の倍ほどの高さがある木が見えた。しばらくそれを見つめた後、ニトは小さくため息を付き、再び歩き出した。


 

 9年前のあの日の様子を、ニトははっきりと思い出すことができる。

 とても暑い日だった。ニト達が、まだ魔物の脅威から逃れながら遊牧をしていた頃、移動式の住居の中で、1人退屈を持て余していた。

 部屋を歩いたり、立ったり座ったり、横になったり、そんな一連の流れを何度か繰り返してから時計を見ても長針が数目盛り動いただけ。

 天井をしばらくぼんやりと眺め、ふと顔を上げるといくつかに束ねられた本の山が目についた。

 そこにはもう何周もした子供向けの本がたくさんある。内容もすべてほとんど覚えてしまい、今更楽しめるものではないが、何もしないよりマシだろう。

 ニトは立ち上がりそれに歩み寄ると、本を束ねた紐をそれぞれほどき、その表紙に目を走らせた。

 本の山が、ニトの右側から左側へとほとんど移動した。そしてとうとう最後の一束になったとき、ニトはそれを見つけた。

 それぞれ暗い赤、青、緑、黃、黒色をした5冊の本。相当古いのだろう。紙が黄ばんでいるのがよくわかる。

 そのどこか神秘的な雰囲気に好奇心をくすぐられたのだろうか。

 他のどの紐よりも硬い結び目をニトは小さな手でなんとかほどいた。

 作者名も題名もない暗い黄色の表紙をめくり、1ページ目に目を走らせる。

 文字と小さな図だけだ。内容もよくわからない。少し期待はずれ、

 次のページへと進もうとしたときに、友人達のニトを呼ぶ声がした。

 本から目を離し、答えようと口を開いた。しかし、声が出ない。

 その後すぐに、声どころか金縛りにあったように体も動かなくなった。 

 自分の心臓の音しか聞こえない。

 体が熱い。

 息もできなくなった。

 ついにはその心臓の音すらだんだんと遠ざかっていき、ニトは意識を失った。

 

 

 (こんなに長く歩いたのは、あれ以来かな…)

 ぼんやりとそんな事を考えながら足を進める。

 突如として、ほとんど隙間なく太陽の光を争っていた木々が急に姿を消した。

 ニトは肩で息をしながら目的のものを前に立ち止まる。

 それは周りの木の2倍以上の高さがあり、太さに関しては比べ物にならないほどの大樹だった。

 人間が両手をめいいっぱい広げても一周するのに5.6人は少なくとも必須だろう。

 ニトは肩で息をしながらその大樹を見つめた。

 それは今まで見たどんな植物よりも生命力に溢れている。

 手をまっすぐに突き出し、一歩前へ踏み出した。大樹に触れるまであと数センチ。

 そのとき、後方で生き物の気配がし、とっさに後ろを振り返る。

 その直後、気配の元を見つけ、天を仰いで大きくため息を付く。

「こいつは…」

 うんざりした様子で悪態をつき、目の前に突如現れたそれを冷たい目で見つめ続けた。

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白光の魔剣士 レア @patronus

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