退屈姫様と専属メイド

えんぺら

第1話歩き出す一歩

「うーん…やっぱりつまらない…」

頭の上に青い宝石をあしらったティアラ、その身には水色のドレスを身に纏った少女が座った姿勢のまま、机に頬杖をつきながらつぶやく。

「姫様、何か言いましたか?」

そのつぶやきに部屋の片付けをしていたメイド服を着た女性が顔は上げずにいったん手を止めて反応する。

「だからつまらないのよ。」

「何がですか?」

「姫として過ごすこと?かな」

「なんで疑問系なんですか?」

「いや~だって、毎日毎日、やれテーブルマナーだ、礼儀作法だっていろいろやらされてるけどそんなのちっとも面白くないし。」

姫は足をバタバタとさせながら不満をメイドに対してこぼす。

「まあ姫様はこの国の姫なんですからそれは当たり前のことでは?」

「みんなそう言うよね。」

姫の言葉にメイドがごく当たり前の返答をするが姫はつまらなそうにさらに言葉を返す。

「そうですねみんなそう言うと」

メイドがさらなる言葉を続けようとしたとき姫はいきなり立ち上がったかと思うと拳を握りしめながらメイドの言葉を遮る。

「だから決めたのよ。」

「何をですか?」

「この城から出ることよ。」

メイドが次を促すと姫はニカッと笑い右手にピースサインまでして自信満々にそう宣言する。

「また突然ですね。」

しかしメイドは驚かない。それが少し意外だったのか姫は右手にピースサインを作ったままの姿勢で目線だけをメイドに向ける。

「なに、驚かないの?」

「いやまあ姫様はいずれそう言い出すかなと思っていたので。」

「止めないの?」

「止めませんよ、めんどくさいので。」

「そう…じゃあ、止められないなら行こうかな。」

「なんですか?こちらをチラチラ見て。」

それからピースサインしたまま固まっていた姿勢を直し、顎に左手を当て考えること数秒間。

「うーん、やっぱりあなたも連れて行くわ!今決めた!」

それから顎に当てていた左手を離し、今度はその手でメイドを指差す。

「えー普通に嫌なんですが。そもそも私ここから姫様と一緒に出たら職を失うんですが。」

そう言われたメイドから返ってきた反応はめんどくさいだった。

「そんなこと言ったってあなた、私の専属メイドやってるのも前職に飽きたからとか言ってなかったかしら?」

どうしても来てほしい姫は説得しにかかる。

「そうですね。」

「それと今の職場を決めたのは私が面白そうだったからって理由じゃなかったかしら。そんなあなたが私のいない城でメイドを続ける理由は特にないと思うのだけど?」

さらに説得を重ねていく。

「まあそうですね。」

「じゃあいいじゃない!一緒に行きましょ!」

説得を重ねるだけでなく、両手のひらをあわせて頼み込む姿勢のおまけ付きだった。

もう既にそこに一国の姫の威厳はなかった。

「はあしょうがないですね。私も一緒に行きます。ただし条件があります。」

そこまでされたメイドはため息をつきながら折れ一緒に行くことに同意するがその前に条件があると指を3本立てる。

「何よ条件って?」

姫が条件について聞くと、メイドは立てていた3本指を拳の中にしまい、それから1本ずつ立てながら条件について説明する。

「まず1つ目、王位継承権の放棄を伝えること、2つ目、外に出たら私と姫様は対等な立場になること、そして最後に3つ目私を退屈させないこと。この3つの条件を提示します。」

「なにそんなこと、別に全然いいわよ。そもそも王位継承権とか初めから興味ないし、対等な立場なのもなんか今さらだし、退屈させないのも今と変わらないわ。ほら余裕でしょそんな条件!」

フフンッと鼻を鳴らしその控えめな胸に手を当てながら姫は自信満々に答える。

「そうですか、では私もめんどくさいですが姫様に付き合うことにしましょう。」

そう自信満々に答えた姫に対してメイドはやる気のない、しかも失礼な一言のおまけ付きで答える。

「あなたいちいち一言余計なのよ。でも来てくれるのはとっても嬉しいわ。これからよろしくね。さあさっそくお姉ちゃんに王位継承権譲ってくる!あと悪いけど荷物纏め始めといて!」

そう言って姫は部屋を慌ただしくバタバタと出ていく。

「まったく騒がしい人ですね、姫様は。」

メイドはそんなことをぼやきつつ2人分の荷物を纏め始める。

そんなこんなで姫が出ていってから待つこと数時間。

「よし!諸々の手続きと全員の説得完了。」

そんな声と共に姫が戻ってきた、しかも既にドレスから別の服に着替えていた。

「お疲れ様と言いたいところですが、一つ聞いていいですか?なんでその服なんですか?」

「なんでって私この服で出歩いて見たかったんだもの」

姫は自分の着ている王都にある学校の制服をメイドに向かってくるっと回って全身を見せながらそう答える。

「なるほど、姫様は家庭教師でしたもんね。途中から時間を合わせるのがめんどくさいとか言って私が教える羽目になってますけど。」

「そのことについては悪いと思ってるわよ。」

「それで学校に通えないから代わりに制服だけでもと頼んだのがそれですか。」

「そうよ。」

メイドはなるほどと頷いたあと話を切り替えるようにパンッと手を叩いて荷物の準備が整ったことを伝える。

「なるほどその服の意味はわかりました。それと荷物の準備は終わりました。旅に必要そうなものは全部入っているので後は姫様が持っていきたいものを入れてください。」

「さすがに早いわね。」

姫は感心したようにメイドを褒めつつ、自分の部屋の棚からいろいろなものを出しリュックの空きスペースに突っ込んでいく。

「前職では色んなところを転々としていたのでそのせいですね。」

「そういえば、あなたの前職って何よ?私教えてもらってないんだけど。」

姫の疑問に対してメイドは人差し指を口元に持っていき、秘密ですと回答を拒否する。

「姫様、それは乙女の秘密なので黙秘権を行使させていただきます。」

「乙女ってあなたそんな歳じゃ…」

姫はうっかりメイドの地雷を踏む。

「姫様〜なにか言いましたか?」

「いっいえなにも言ってないです!」

メイドはニコリと笑って姫に聞く。

なぜかいつもより少し声が優しかったが逆にそれが怖かった。

それを見た姫はうわずった声で慌てて否定する。

「なら良かったです。」

「こっわ」

「やっぱりなにか言いましたか?」

「いっいやなにも、とにかく前職は秘密なのね、了解したわ。そんなことよりそろそろ出発しない?」

姫は冷や汗をかきながら逃げるように話題を旅の方へと誘導する。

「そうですね。では姫様は先に城の外でお待ち下さい。少し自室に取りに戻りたいものがありますので。」

メイドも追求する気はなかったのか、誘導に乗ってくれる。

「わかったわ!じゃあまた外でね」

先に行っているように言われた姫は自分の分のリュックを背負うとメイドに手を振りながら自室を後にする。

それを見送ったメイドは一人過去を懐かしむように微笑みつぶやく。

「さて、旅ですか。もうとっくに飽きたかと思っていましたが以外にも旅の始まりはわくわくするものですね。姫様には絶対言いませんけど。」

それから自室へと向かうため、姫の部屋を後にする。

城の正門前

「お待たせしました。」

「おっ来たわね!さっそく出発するわよってあなたの服装もなにそれ?」

姫は旅の始まりに胸を高鳴らせピョンピョンと跳ねていたが、こちらに近づいてくるメイドの違和感に跳ぶのをやめて問いかける。

「何ってメイド服ですけど何か?」

メイドは何を言われているのかわからないといったふうにわざとらしく首を傾げている。

「いや学生服とメイド服で旅する二人組って何よ。怪しすぎない?」

メイドのわざとらしい態度に姫が突っ込む。

「それ姫様が言います?私だってメイド服が気に入ってるのでこれがいいんです。まあ変な輩が近づいてきたらぶっ飛ばして黙らせればいいと思いますよ。」

それに対してメイドは姫を指さしたあと、拳を握りパンチパンチと拳で風を切りながら物騒なことを言う。

「いやいや、だめでしょ!」

姫はバタバタと手を振り必死に否定する。

「姫様は知らないかもしれませんがこの世界には口で言ってもわからないやつが一定数いるんですよ。」

そう話すメイドはどこか遠い目をしていた。

「うーんそういうものかしら。」

「そういうものなんです。」

メイドの力強い肯定、それによって姫の疑問は先送りになる。

そして姫の思考は目の前の旅の始まりへと切り替わる。

「じゃあ気を取り直して出発!」

腕を上げ歩き出そうとした姫をメイドが呼び止める。

「姫様ちょっと待ってください。」

勢いを挫かれた姫は不満そうにその原因を作ったメイドに聞く。

「何よ?」

「お互いの呼び方を変えましょう。私は置いておいてさすがに姫様呼びは王族バレするのでやめたほうがいいかと。」

メイドの提案にふむふむと頷く。

「それもそうね。じゃあ私はあなたのこと名前のサラって呼ぶわね。私のことも名前で呼んで。」

「わかりましたシエラ。」

お互いの呼び名を決まったところで姫は今度こそと1回目よりも2回目よりもさらに気合を入れて宣言する。

「さあ今度こそ、私たちの旅を始めるわよ!出発よサラ!」

「そうですね行きましょうシエラ。」

そうして姫とメイドではなく、シエラとサラの旅の物語が幕を開けた。

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