空中城砦の紫丁香花(クンツァイト)

洪 臾殷(ホン ユウォン)

Prologue -プロローグ

夜明け色の宝石と花

かつて、帝国の最初の人は神に夜明け色の宝石を差し出し契約をした。


『我らを天に近い存在にしてほしい』と。


そのライラック色の宝石は南の隣国ククルカン王国の国石、

『クンツァイト』

と呼ばれるリシア輝石のひとつであった。


しかしクンツァイトに浮遊の力を見出した帝国の最初の人は野蛮にも鉱山の半分をククルカン王国から奪い神に捧げたのだ。


そしてトラソルテオトル帝国を築き、天に浮上した。


空中都市全域を城とし、

下界に城下町を作り、

日の当たらぬ帝国の民から税を搾取し始めた。


そこで神は人の傲慢さと愚行に怒り、抗えぬよう供物を課した。


「二年に一度の満月の夜、紫丁香花ライラックの種子をクンツァイトに取り込まねば帝国城を地に墜とさん」


帝国の者は再び鉱山へ赴き、神の指示したライラックの近種、

『モーント・リヒト』

を根から掘り起こし、城砦へと移植した。

皇族は神の示した通り二年に一度クンツァイトにモーント・リヒトの種子を与えた。

だがその安泰も続かなかった。


神は皇族をあざ笑うように再びにえを課す。


「五十年に一度の最大満月の夜、モーント・リヒトの元にケツァールが訪れ卵を産む。かえったヒナをクンツァイトに取り込まねばクンツァイトの魔力を枯渇させてやる」


その啓示通り、浮上から初めての五十年目を迎えた最大満月の夜にケツァールは訪れた。


しかしその卵から孵った生物の姿を目にした神官たちは体をすくませる。

孵ったのは鳥のヒナではなく、ライラック色の髪と瞳をもつ『人』の姿の赤子だったのだ。


神官を始め城砦にいた者たち皆がその美しい『贄』を前に罪の意識にさいなままれる中、


皇帝は空中城砦の威厳のため容赦なく赤子を殺し、クンツァイトに取り込んだ。



そしてこの儀式は、千年もの間 繰り返されてきた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る