第37話 村の変化

 俺は五歳になった。


「そこまで!!」


 リオさんが鋭い声を上げる。


『ありがとうございました』


 俺と組手の対戦相手がお互いに頭を下げた。


「シャロ、腕を上げたね」

「ううん、まだまだだよ」


 俺と戦っていたのはシャルロットだ。


 彼女は魔脈が開通した後、それまで体が弱かったのが嘘のように、とても元気になった。そして、シャルロットは他の守護者の追随を許さぬ魔力と、圧倒的な戦闘センスを持っていた。


 まだ一年くらいしか訓練していないというのに、身体強化を使えば、もう俺たち以外に負けないくらい強くなっている。


 圧倒的な魔力による身体強化と、先生から教わった武術をまるで息をするように自然に使いこなしていた。


 このままだと追い付かれてしまうかもしれない。うかうかしていられない。でも、俺も簡単に追いつかれてやるつもりはない。


「全員、整列!!」


 指示に従い、五、六歳組の子供たちがリオさんの前に並ぶ。


「本日の訓練は終了とする」

『ありがとうございました!!』


 リオさんに感謝を告げ、今日の訓練を終えた。


「トール、帰ろっ!!」

「うん」


 リーシャとレイナが俺の横に並ぶ。もはや二人の定位置と言ってもいい。


「兄貴、また明日!!」

「トール、またな」

「じゃあな」

「またね」

「うん、また」


 部屋から出ていくスオル、ロドリー、ハロルド、メアと挨拶を交わす。


 スオルとロドリーは六歳になってかなり大きくなった。完全貫通のおかげか同年代の子供より成長が早い。もう少し上に見える。五歳のハロルドとメアも同じだ。


「トール君、リーシャちゃん、レイナちゃん、一緒に行こ」

「そうだね」


 俺たち三人にシャロが加り、最近は四人でいることが多くなった。


 彼女を助けたことで懐かれたらしい。


「それじゃあ、また明日ね」

「また明日」

「シャロ、またね!!」

「ばいばい」


 シャロと四人で神殿の入口まで一緒に行き、そこで別れて三人で帰路に就く。もう五歳になったので一人で神殿と家を行き来している。


 リーシャとレイナと別れ、家の扉を開けると、二人の人物が俺を出迎えてくれた。


「トール、おかえり」

「あぅ~!!」


 母さんと、その腕に抱かれた小さな女の子。


「ただいま、母さん、レナ」


 それは去年生まれたばかりの妹のレナだ。レナの他に、リーシャの弟とレイナの妹も生まれている。


 それだけじゃない。この村は今、空前のベビーラッシュを迎えていた。


 その理由は、モンスターの大規模侵攻後にモンスターが激減したことと、守護者の子供と大人の魔脈の開通を経て、戦力が格段に上昇したことに起因している。


 この二年で、守護者の子供たちは全員魔脈を完全開通させ、一定以上の魔力量と身体強化による戦闘力を手にした。


 そして、子供たちほど劇的ではないものの、大人たちも全身の魔脈が開くことで、身体強化をしても一日中魔力が途切れないくらいまで魔力を増やしている。


 今では一対一で空を飛ぶクラグファル相手に有利に立ち回れるほどだ。子供もクラグファルの攻撃を受けても死なないくらいの防御力を持っている。


 そのおかげでこの村の戦力が格段に向上し、安全度もそれに応じて高くなった。それから平穏な日々が続き、生めや増やせの風潮になって今に至っている。


 イーデクス様によると、これまで少しずつ人口が減少し、ジリ貧だったらしい。でも、去年から出生率が急激に上昇したので、これから増えていくだろうとのこと。


 ちなみに、いきなり強くなって増長しそうになった子供は、俺が鉄拳制裁をして分からせた。


「にぃ~」

「はいはい、お兄ちゃんだよ」


 レナがぼんやりとした顔で俺に手を伸ばす。


 その手の前に指を出すとギュッと握った。


 あぁ~、うちの妹が可愛すぎる。なんとしてもこの天使に不自由のない生活をさせなければならない。もっとこの村を安全に、そして豊かにする必要がある。


 すでに一般人の大人たちの魔脈の開通も進めている。二年で以前よりも体が頑丈になり、畑仕事のスピードが格段に上がった。


 おかげで、毎日余裕をもって仕事を終えられるようになった。それもベビーラッシュに拍車をかけている一因と言えるだろう。


 それに村の生産力も向上している。でも、まだまだ足りない。


 もっとたくさん食料が取れるようにならないと、いざという時にレナにひもじい思いをさせてしまうかもしれない。それではだめだ。


「トール、レナをお願いね」

「分かった」


 母さんが夕食の準備をするため、レナを俺に任せる。


「よしよし」

「あぅ~」


 すでにリーシャとレイナの子守をしてるのでもう慣れたものだ。


「ただいま。トール帰ってたのか」

「うん、お父さん、おかえり」

「あぁ、レナ、ただいま。パパでちゅよ~」


 父さんが帰って来て、だらしのない顔で話しかける。


「やっ!!」

「ガーンッ!!」

 

 レナはプイッと顔を背けた。


 父さんはガックリと肩を落としている。レナは俺によく懐いている。父さんは一番下だった。


『ファイヤーボール!! おおっ!?』

『ウォーター!! えぇ!?』


 ウチの両親はこの二年で魔脈の開通を完了した。


 そのおかげで他の一般人よりも圧倒的に頑丈だし、身体強化も覚えた。それだけじゃない。魔法もちゃんと使えるようになっている。


 リーシャとレイナの両親もあと少しというところまで来ている。


 最近はその力の使い方の教育も行っている。


「トール、レナ、あなた、ご飯よ」


 母さんに呼ばれて食卓に着く。


「レナ、美味しいか」

「おいちっ」


 レナにご飯を食べさせるのは俺の仕事だ。


 やっぱりうちの妹は最高だ。


 大人たちの魔脈が完全に貫通すれば、多少なりとも魔法を使えるようになる。その魔法を使えば、より効率的に畑仕事ができるようになるはず。


 そうなれば、この村もかなり暮らしやすくなるだろう。


 ご飯を終え、タオルで体を拭いて皆で就寝。


 そして、俺は今日もモンスターの討伐に出かける。


「トール、お待たせ」

「お待たせ」

「来たよー」


 今はリーシャとレイナ、そしてシャロが一緒だ。


 シャロの感知性能がかなり高くてすぐにバレてしまったからだ。


 気配を消し、四人で壁を越えて外へと繰り出した。

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