第10話 発動

 さらに二カ月。


 魔法を発動させるために試行錯誤していたが、未だに苦戦していた。


「んぁ〜、うまくいかにゃい!!」


 魔力そのものはイメージで形を変えられる。しかし、どうしても魔法にして出力するとなると、それだけでは上手くいかなかった。


 気分転換も兼ねて寝室の外に出る。普通の一歳は扉も開けられないけど、身体強化ができる俺には関係ない。


 隣の部屋ではママンが夕食の準備を始めていた。


 ママンが野菜を切り、コンロっぽい土台がついた厚みのある板の上に鍋を載せ、側面にある鉱石に手を当てる。


 ――ボッ


 しばらく触れていると、板の中央から炎が噴き出した。


「ありぇは……」


 おそらく魔道具というやつだ。


 思えば、これまで鍛錬に夢中になりすぎて寝室で過ごしてばかり。そのせいでこの世界にそんな道具があることに気づかなかった。


 ご飯も寝室で、トイレもおむつだし、お風呂はないしね。


 一般人が村の外に出ることが困難なことを考えると、こういう道具がないと生き残ることさえ危うかったのかもしれない。


 水はどこから手に入れていたのかと思っていたけど、それなら頷ける。


 外が少し暗くなってきて、ママンがランタンみたいな道具に手を触れた。


「おおっ」


 すると、ランタンに灯りが点る。少し形が歪な水晶みたいな鉱物が、中で発光している。どう見ても地球のそれとは別物だ。


「あらっ、トール?」

「マンマ」

「扉は閉めたと思ったけど、気のせいかしら。どうかしたの?」


 気づいたママンが俺を抱き上げる。


「そりぇ、なに」

「これは魔導ランタンよ。魔力を込めると、しばらくの間灯りがつくの」

「そりぇは?」

「魔導コンロ。魔力を込めると、火が点くのよ」


 ランタンとコンロを指差して質問すると、思った通りの答えが返ってきた。


 やっぱり魔道具か。とても興味深い。


 どちらもママンがしばらく手を触れていたら自動的に稼働した。その時にママンの魔力が魔道具に流れこんでいた。


 魔道具は使用者の魔力を使って稼働しているらしい。


 驚くべきは、魔力が光や火となって具現化しているということ。それはつまり、魔法が発動しているという事実に他ならない。


 だから、魔道具の魔力が魔法に変換されるまでの流れを分析できれば、魔法も使えるようになる可能性が高い。


「ランタン、みちゃい」

「トールが何かに興味を持つなんて珍しいわね。いいわよ」

「ありあと」


 ママンは吊るされていたランタンを俺の前に置いた。


「けちて」

「分かったわ」

「ちゅけて」

「はいはい」


 ママンに頼んでランタンをつけたり、消したりしてもらい、稼働するまでのプロセスをじっくりと観察。


 その結果、手が触れた鉱石から発光する水晶まで魔力が流れ、水晶の中で魔力が文字が繋がってできた図形に変換され、光として出力されていた。


 この図形が発光を意味しているようだ。この図形を魔法式と名付けよう。


 これ以上は見ているだけでは分からない。あとは自分で掴むしかないだろう。


「ちゅけてみたい」

「トールには難しいかなぁ」

「やっちぇみちぇいい?」

「いいわよ」


 許可を貰った俺は早速ランタンに触る。


 何の問題もなく光を放った。


「ちゅいた」

「嘘……」


 ランタンがついたのを見てママンが唖然としている。


 もしかしてやりすぎたかな?


「どうかちた?」

「いいえ、トールはやっぱり天才だなって思ったのよ!!」

「しょうなの?」

「そうよ、本当に凄いわ!!」


 ママンがギュッと抱きしめて頬擦りしてくる。褒められて気分が良くなった。


「それじゃあ、ママはお料理するから大人しくしててね」

「あいっ」

「いい子ね」


 ママンが俺のおでこにキスをしてふたたび料理を再開。


 俺はママンのそばでランタンをつけたり消したりして、魔力の流れと魔法式への変換されるまでの流れをひたすらに観察する。


 そして、実際にその真似して魔法を発動させてみた。


「おっ」


 当然だけど失敗した。だけど、今までとは違う。


 今までできなかった魔力が体外に放出される感覚があって、後少しって感じ。


 つけたり消したりして観察を続け、何度も何度も再現してみる。


「おおっ!!」


 そして、ついに指の先に光を具現化することができた。イメージもさることながら、魔法式に変換させるイメージすることが大事だったみたい。


「ただいま〜」

「お帰りなさい、あなた」


 夢中になっていたら、パパンが帰ってきた。


「トールがこっちの部屋にいるなんて珍しいな」

「魔道具に興味を持ってずっと遊んでるのよ? しかも一歳なのに使えたの」

「なんだって? そんなこと守護者以外で聞いたことないぞ?」


 やっぱり一般人の子供は魔道具を使えないのが普通らしい。


 赤ん坊は、魔力が外に出ていないのだから当然と言えば当然だ。


「えぇ、もしかしたら、うちのトールには物凄い才能があるのかもしれないわ」

「……信じられないな。トール、やってみてくれるか?」

「あいっ」


 パパンに言われてランタンに光を点ける。


「マジかよ……トールは俺たちでは想像もつかない大物になるかもしれないな」

「そうね」


 パパンとママンは嬉しいような、それでいて心配なような、そんな顔をしていた。


 それから、あっという間に魔道具と同程度の火、水、光の魔法を使えるようになった。しかし、威力を上げるにはまだまだ鍛錬が必要そうだ。


「サリー、ミリアいらっしゃい。どうぞ入って」

「お邪魔するわね」

「こんにちは」


 数日後、家に二組の親子がやってきた。

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