第11話 幼馴染

 かたや活発そうな金色の髪の親子、かたや大人しそうな水色っぽい髪の親子。


 避難した時に神殿で遭遇したママンの幼馴染たちだ。


 勝ち気そうな金髪ボブカットの女性がサリーさんで、クールな感じの水色ロングヘアーの女性がミリアさんだ。


 子供たちの髪の色は母親の髪の色を受け継いでいるっぽい。俺もママンの髪の色を受け継いでいて、銀色のサラサラヘアーだ。


 この世界は母親の髪色が遺伝しやすいのか?


「トール君、娘と遊んでくれる?」

「私の娘とも仲良くしてくださいね」

「あいっ」


 サリーさんとミリアさんが囲いのあるスペースに子供を入れる。


 俺は元気に手を上げた。


「こんなにお利口だなんて羨ましいわぁ」

「手がかからなすぎて逆に心配になるのよね」

「楽な分にはいいじゃないですか」


 綺麗な女性たちに褒められて自己肯定感がアップする。


 俺の前に二人の幼児が一人座りをして、俺をジッと見つめていた。


 何もしていないのに、なんだか責められているような気分になるのは、すでに心が穢れているせいかもしれない。


「あぃ〜」

「あう〜」


 とりあえず、一歳児って何をして遊ぶんだ? 


 俺はすでに意識がハッキリしてるけど、リーシャとレイナはまだ自我が薄くてぼんやりとしている。話しかけてもあんまり会話にならない。


「とう〜」


 考え込んでいるとリーシャが俺に近づいてきた。


「りーちゃ?」

「あうあ〜」


 待っていると、リーシャが俺にのしかかってくる。


 リーシャはどうやら好奇心が強い子みたいだ。髪の毛を引っ張られたり、服を引っ張られたり、俺はなされるがまま。


 でも、全身に魔力を流すことで頑丈になっているお陰で痛くも痒くもない。


「あむ」

「ひゃ!?」


 突然、耳を甘噛みされてビックリした。


 赤ちゃんはなんでもかんでも口に入れたがるって聞いたことがある。それにしても耳までとは恐れ入る。


「リーシャに玩具にされても泣いたり喚いたりしないなんて、本当に不思議な子ね」

「痛くないのでしょうか」

「転んでも顔色ひとつ変えないのよ」

「それは少し心配になるかもね」


 赤ちゃんに上手く擬態できていたと思ったけど、ちょっと無理があったらしい。まぁ、そこはどうしようもない。開き直って好きにしよう。


 一方でレイナはガラガラと音が鳴るオモチャで一人遊びしていた。


 放っておくのも可哀想だ。


「マンマ、うちゅわとしゃじ、かちて」

「待っててね」

「あいあと」


 ママが台所から木製の器と匙を持ってきた。


 リーシャにくっつかれたまま器を床に置いて匙でコンコンと叩く。


 その途端、レイナがこっちに向いた。


 ガラガラを持ったまま近づいてきて、俺に負けじとガラガラを鳴らす。


「他人をちゃんと見てるなんて本当に一歳かしら?」

「レイナが音に興味があるって分かるんですね」

「この子は凄く賢いからね」

「トール君が見ててくれるなら安心みたいね。お茶しましょうよ」

「大丈夫でしょうか」

「それとなく見ていれば大丈夫よ。トール、二人を見ていてね」

「あいっ!!」


 ママンたちはそばのテーブルでお茶を飲みながら話し始めた。


 リーシャとレイナを見ていて改めて魔力が漏れていないことに気づく。


 目に魔力を集め、二人を観察。


 生まれたばかりの俺と同じように、丹田らしき場所に魔力が溜まっていて、一切外に漏れだしていない。これは俺だけが特別なのではなく、全赤ん坊共通なのだろう。


 いつ頃から詰まりが開くのか分からないけど、このままいけば、ママンたちと同じように詰まりが残った状態で大人になるに違いない。


 俺は魔脈を開通させて魔力を増やすことで、一般人にもかかわらず魔法が使えるようになった。これは俺が特別なのか、他の人間も真似すれば使えるようになるのかは現状では分からない。


 二人には悪いけど、ちょっと実験させてもらおう。うまくいけば、二人の生存率も高まるし、魔法も使えるようになる。悪い話じゃないだろう。


 リーシャの手に触れて魔力を流せないか試してみる。


 すると、あっさりとあっさりとリーシャの体内に吸い込まれていった。より鮮明に魔脈の様子が分かるようになった。


 一気に開通すると、俺みたいに激痛に襲われる可能性がある。


 そこで、少しずつ少しずつ、詰まりを溶かすように魔力を変質させるプロセスを経て、魔脈に魔力を浸透させていった。


「あうあぁ〜!!」

「あたたっ」


 ちょっとやりすぎてしまった。


 リーシャが少し痛かったのか俺をポカポカと叩く。


 よし!!


 でも、その甲斐あって、ほんの少し詰まりを解消できた。


 レイナにも同じように魔力を流すと、レイナの魔脈も溜まりが少しだけ溶けた。


 これを繰り返せば、俺と同じように完全に魔脈を開通させることができるだろう。


 でも、思った以上に神経と魔力を使う仕事で、一気に眠気が襲ってきた。


 リーシャとレイナは、気づいたら横になって眠っている。


 俺も立っていられなくなって横になった。


「あらあら、すっかり仲良しね」

「今日ここに遊びにきて良かったわぁ」

「友達ができて良かったです」


 三人のママンに見守られながら、俺は意識を失った。


 二人が遊びにくるたびに、自然を装い、魔脈の詰まりの解消を進める。


 そして、厳しい冬が明けた。

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