第5話上級スパイ、カロス・クロウ

そして自分の髪をオールバックにして、自分のマーク、つまりシーニーの中にある魂を表す絵を、長い舌を出しながらチョウラにみせた。

「さ、早く決めないとね。」

「そうだな。」

ホワスは安心したようだ。わかりやすい。

「決めるって何を?」

「へっ?」

(いや分かって無かったんかい)

「あれだぞ。狐女の話だぞ」

「あーあれねえ」

「そう」

「今度こそ決めるよ。」

(今度こそ)

「じゃあ、行きたい人」

「いや待って待ってえ」

(なんだよもう)

シーニーは段々投げやりになってくる。

「今度はなんだ」

「うち、魂石の効力がヒルアスに必要っていうのがよくわかんないんだよお」

(チョウラ何もわかっとらんな。しかも難しい話苦手なのに自分で突っ込んでってるし。)

シーニーは面倒くさくもなって来た。何か今説明しなくて済むいい方法はないかと頭を悩ませ始めた。が、

(そうだ。ここはもう、で釣ってやろう)

思いついたのは、こんなやり方だった。あまりやりたくはないが、

(物は試しっていうしな)

結論として、やるに至っていた。

「うーん。どうしよっかなあ~?その説明が後でいいって言ってくれたら、なんか買ってあげようか。」

「え!?何でも?」

「そ。

何でもを強調して言う。ホワスは、ドン引きしている。やばいことやってんな、と顔に書いてある。

(まあホワスは置いといて)

「服でもいいし、髪ひもでもいいし、あっそうだ。何なら前に欲しがってた蝶々のガラス細工買ってあげ、、、」

「蝶々!」

「、、買ってほしいなら、説明はあとでね」

「わかったあ!」

(よしよし。うまくいった。やっぱり物は試しだね)

「じゃあ狐女の話、行きたいか、行きたくないか。どっち?」

「はーい!うちは行きたいなあ」

「私は行きたくない。てか、無理に決まってるから。」

「俺も」

ホワス、シーニー、行きたくない チョウラ、行きたい

(こんな感じか。多数決で行くなら行かないってことになるけど)

シーニーは、違和感を感じた。何かといえば、ホワスである。なんとなく突っかかっているような表情というか、何と言うか。そんな感じだ。

「ねえホワス。なんか隠してる?」

「え!?いや何も、、」

「うっそだあ。顔に出てる。あと声」

「正直に言って」

「はいはい。分かった。」

「俺が言いたいのは、なんだかんだ無理じゃなさそうってこと」

「はあ?何言ってんの?」

「いやだから、無理じゃなさそうなんだってば」

(いやいやいやいや。無理無理)

「どういう心境の変化?」

「これこそ何となくだけど、20年あればいける気がする」

「いや、20年ってそーとー短いぞ」

「うんまあ俺の感覚的にはそうだけど」

(いや。感覚的にそうならそうに決まってるだろ)

「人間からしたら、20年は長いだろ?」

「まあ、うん。そうだね。でも、私たち耳隠しのエルフはエルフに一番近い種族なんだから、短く感じる。」

「でも狐女は恐らく人間だ」

「あっ!」

確かに、言われてみればそうだ。シーニーたちには短くとも、多分クソぎつね女からすれば、長い時間を一つのために割ることになる。よくよく考えれば、今までの頼みより随分ずいぶん大判振る舞いだ。

「ねえねえ、耳隠しのエルフってなあに?」

(うわーチョウラ、聞いちゃってたか)

もう今日は説明のオンパレードだ。全くの全くに話が進んでいない。

「てかチョウラ、さっきの話もう忘れたの?」

「さっきの話?」

「説明を後回しにしていいのなら、何でも買ってあげるって話」

「あっ!忘れてた」

「どうする?今説明してあげてもいいけど。まあそうしたら何にも買ってあげれられないなあ」

「後ででいいよぉ」

(よしよし)

「で、ホワス。続き、何だっけ」

「狐女は人間なんじゃないかって話」

(あー、そうそう)

「俺が言いたいのは要するに、狐女はここから魂石をヒルアスに持っていくのには、20年もあれば十分足りるって感覚的に思ったんじゃないかってこと」

(なるほどね)

「でも俺は、無理だと思う」

「あ、無理だと思うんだ」

「でもさあ二人ともお。ちょっと楽しそうだと思わない?」

(楽しそうではない。)

「声でてんぞ」

「おっと」

(声に出てたか)

シーニーは最近、なぜか考えていることが声に出てしまう。なんだかんだ嫌である。

「まあ確かに楽しそうではないけどな」

「そおかなあ?」

「それにチョウラ、西側を軽く見ちゃいけないからね。南でさえ危ないんだから」

「どういうことお」

「後で話してあげる」

今説明するとまた説明のオンパレードが始まってしまう。そこは早く決断しなければならない今、避けたいところだ。

「なあ、ちょっと待った。西側はわかるけど、なんで南が危ないんだ。最近あの辺にあるカルタナーク森林とか、落ち着いたんだろ?」

「ホワス、エルフが人間と違う時間感覚じかんかんかく持ってんの覚えてる?」

「いやまあそうだけど、10年前だぞ。ほとんど変わってないだろ」

「変わってたらどうするの?それこそ死ぬかもしれないよ」

「大丈夫だろ」

「大丈夫なわかないでしょうに」

(森の中で死んだらどうすんだよ)

「ちょっと待ってえー喧嘩しないでよお」

「あっごめん」

(いつの間にか喧嘩しちゃってたか)

こういう時にチョウラは喧嘩の仲裁をしてくれるので助かる。

「とにかく決めるんじゃなかったのお?」

「ああ、そうだったそうだった」

(どうすっかなあ)

行くか行かないか、微妙なところだ。時間はいいとして、路銀は自分たちで用意しなければならない。シーニーがそんなことを考えていたその時、足音が聞こえた。

「誰か来たのか?」

「さあ」

「わかんないけどお、なんか足音聞こえたような?」

”コンコン”

と、ドアをノックする音が聞こえた。

「はい」

ガチャリとドアを開ける。

「あ、すみません。お話し中でしたか?」

そこに立っていたのは、黒髪で長身な、二十代くらいの男性だった。

「あのー誰ですか?」

「ああ、申し訳ございません。わたくし、カロス・クロウと申します。本日はルーラ様の使いとしてまいりました」

(ルーラ様って。呼び方の違和感すごいな。)

「カロス・クロウ様でいいですか?」

「はい。気軽にカロスと呼んでいただければ」

「何か話があるのですか」

「はい。今回、あなた方にルーラ様が依頼したという話を聞いておりまして、そのことについてなんですが、、、、。少々お時間よろしいでしょうか」

「そういう話でしたら、どうぞ入ってください」

(カロス・クロウって。なんでここにきてるんだ?)

カロス・クロウは、クソぎつね女の配下の中でも上級のちゅうあたりの間謀スパイだ。そんなに位の高い御方おかたがなぜ、位が下級ののシーニーたちに顔を出すのだろうか。というか、下級の下の間謀スパイは最早間謀というより何でも屋になってしまっているのだが。

「では、お言葉に甘えて。失礼いたします。」

(謙虚だなあ)

「話って何でしょうか?」

「それがなんですけど、言いにくいのですが。」

(不吉な予感しかしないんだけど)

「返事は三日後と言っていたのですが、ルーラ様が二日後に早めていただきたいとおっしゃっておりまして。」

「はい?」

「え、待って。どうしよホワス」

「んなこと俺に聞かれても」

「すみませんちょっと時間いいですか」

「どうぞどうぞ。」

「ホワス、チョウラ、ちょっと来て」

「うん。」

こそこそと話し始める。

「チョウラも、ほら。」

「うん。わかったあ!」

(声でっか!)

チョウラがいきなり空気をぶった切るような大きな声で返事する。が、

”ビーーーーーー”

チョウラ以上に空気をぶった切るような音がカロスの胸元から聞こえてきた。

「へっ?何の音お?」

「あ、すみません。発信機の音です。気にしないでください」

そう言うとカロスは、何かこそこそとやり始めた。すると、

「申し訳ありません。仕事が入ってしまいました。また夕方おうかがいします」

「あ、そうですか」

「では失礼します」

そう言い残して、カロスは部屋を去っていった。






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