第6話

 交渉が決裂した後、3人は仲間を弔った。花丸はなまる隆太りゅうたという2人の少年は、まだ13歳だった。

 一希がエルル出会った日、2人は食料の調達のために観光異星人向けの食料品店に忍び込んでいた。

 いつもなら警備異星人の目を欺いて逃げられたかもしれないが、エルルが失踪したと報告を聞いて駆け付けた伯爵との知恵比べには勝てなかった。

 2人は最期に、一希いつきはれの名前を呼んでいた。しかしその事実を3人が知る術はもうない。


 「いつか、家に帰してやるからな」


 一希と晴は2人のテントの近くに穴を掘り、そして2人を並べて埋めてやった。

 頭がある位置に、石と花を手向ける。


「約束だよ、兄ちゃん」


 2人の耳に、少年たちの声が聞こえた気がした。


「一希、晴、大変だ!」


 祈りを捧げていた2人にエルルが声を掛ける。

 彼女が呼ぶ方、護衛たちを縛っていた木へ向かうと、伯爵の姿だけがすっかりと消えていた。


「伯爵が、消えたんだ!」

「あいつ、死んだんじゃなかったのかよ」

「どうやら偽装していた、と見た方がいいかな」


 一希の刺突で大木が揺れたことが原因だろうか、緩んだロープが木の根元に落ちていた。

 また護衛たち4人は口封じのためか、全員が喉を掻き切られて死んでいる。

 しばしの静寂を晴が破る。


「いつ逃げられたかは分からないし、こちらも早めに次の行動を決めなくちゃだ」

「ああ、だがどうする」

「……新しい拠点であれば私に心当たりがある」


 晴はエルルの言葉を聞いて「ああ、なるほど」と頷く。

 その様子を見た一希は「早く言え」と言いたげに、2人の方を見た。


 「ムウカに匿ってもらう。ムウカは私に仕えるメイドで、地球にいるバーレウス星人の中で最も信頼できるからな」

 「ちょっと待て、まずお前を信用していいのか?」


 エルルに対して一希が疑惑の目を向ける。


「一希、でも他に良い案はないし、エルルちゃんはなんとか伯爵の時だって一緒に戦ってくれたでしょ」

「……そうかもしれないが」

「貴様の言い分も分かる。私たちが出会ったのもつい先ほどのことに過ぎない。だが、私はお前に誓った言葉は死んでも成し遂げる。だから、ここは信じてくれないか?」


 一希はじっとエルルを見る。しばらくの後、これ以上考えても仕方がないという風に深く息を吐いた。


「おい、俺を殴れ」

「え、貴様何を……」

「仲間を疑った罰を受ける。早くしろ」


 エルルはそろりと晴の方を見た。晴はやれやれという風なジェスチャーをして、頷いた。


「分かった。ええいっ!」


 しっかりと地を踏み、腰の入った拳が一希の頬を捉える。

 並みのボクサーを超える勢いのある拳は、ヒュンと空を切り、「ゴッ!」と大きく鈍いを音を鳴らした。


「い、ってえ! 強すぎだこの馬鹿」


 年相応の反応を見せた一希はエルルの頭を叩く。

 

「貴様が殴れと言ったからだろうが! 文句を言うな!」

「仲間だって言ってんだろうが、多少は加減しろ馬鹿。お前はやっぱり信用できねえ!」


 喧嘩のようなじゃれ合いを横目に、晴はこれからの準備をするためにテントに入った。

 

 そして数時間後、深夜。

 3人はエルルの住んでいた屋敷を目指し、森を後にした。

 

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