崔節!(さいぶし)

崔 梨遙(再)

1話完結:1700字

「ごめんね」

「何が?」

「ワガママ言って」

「ワガママって?」

「夜、急に海が見たいなんて」

「そんなの、別にわがままじゃないよ。夜の港、結構涼しくて気持ちいいし」



 僕は修平。女の子は佳乃。僕と、佳乃、そして哲平は幼馴染みだった。3人で一緒にいることが多かった。だが、高1の夏に何かが変わった。哲平と佳乃が付き合い始めたのだ。それでも、僕達は3人で一緒にいることが多かった。


 周囲から、僕は同情の目で見られていた。三角関係で負けた男だと思われたからだ。そう、僕達は三角関係だと思われていた。しかも、佳乃も哲平も僕が佳乃のことが好きだと思っていたのだ。


 だが、僕は佳乃を恋愛対象として見たことは無かった。確かにカワイイ……というか美人だ。顔が小さくて、スタイルがいい。スレンダーだが胸はあるということを僕は知っていた。身長は159だったと思う。


 ちなみに、哲平は173センチの63キロ。僕は169センチの59キロだ。哲平はイケメン、僕はイケメンではなかった。だが、僕の方が成績は良かった。



「哲平は、もういないんだよね」


 哲平は、大学で佳乃以外に好きな女性が出来たからと佳乃をフッたのだ。つい最近の話だ。僕は、2人が別れたことを哲平からも佳乃からも聞いていた。それで、今夜、佳乃から“海に行きたい”というメッセージが来たから車を出したのだった。


「ああ、佳乃の側からいなくなったな」

「めっちゃ泣いた。めっちゃ凹んだ」

「そりゃあ、そうやろうなぁ」

「また涙が……ごめん、ちょっと泣いていい?」

「いいよ。落ち着くまで泣けよ」


 座り込んで泣く佳乃の横に座って、僕はずっと黙っていた。


「ごめん、もう大丈夫」

「そう」

「私が泣く時って、いつも修平が側にいてくれるよね」

「そうかな? そうかもしれない」

「それで、思ったの。私が本当に好きなのは修平かもしれないって」

“はあ? 何を言ってるんだ? この女”

「この指輪、初めて哲平がくれた指輪で思い出の品なんだけど、これももう要らないよね?」

“知らねえよ”

「そ、そうだな」

「えーい!」


 佳乃が指輪を海へ投げ捨てた。


「修平、待たせちゃったね。これからよろしくね」

“え? どういうこと? 僕、もしかして告られてる? っていうか、僕が佳乃を好きな前提? 全然、待ってなかったんだけど。おいおい、幼馴染みだからって必ず好きになるとは限らないだろう”

「そうだね、よろしく」

「修平は裏切ったりしないよね?」

“そりゃあ、裏切らないだろう。特に好きな女性がいないんだから”

「私、ずっと気付いてたよ、修平の気持ちに」

“何言ってんだ? こいつは”

「そうか、気付いてたって、どんな風に?」

「修平の私への想い。修平が私を好きだってこと。ツライくらい感じてた。でも、修平がいつも笑ってくれるから、哲平と付き合ってからも修平とも一緒にいた」

“おいおい、どんだけおめでたいんだよ? 自分に都合良く解釈しすぎ! 僕は哲平や佳乃と喋りやすいから喋ってただけ。第一、他の友人とも遊んでたし。まあ、女っ気は無かったけど”

「修平、何度か告られてたでしょう?」

「うん、4回」

「全部断ったの、私のせいよね?」

“絶対に違う。学年の不人気四天王から告られたら、誰でも断るでしょ?”

「私、今日から変わる。私は、修平のものになる」

「えー! 嘘-!」

「潮風で肌がベタベタしてきた。ホテルでシャワー浴びたい」

“長年に渡るかなりの誤解があったようだが、美人でナイスバディの佳乃からアタックされたら受け止めないわけにはいかない!”


 これで、


「初体験は?」


などと今後聞かれたら


「友達の元カノ」


と答えられる。おもしろいかもしれない。僕は車でホテルへ向かった。



 そのまま、新しい彼女が出来なかったので、佳乃と結婚してしまった。


 息子が歩けるようになると、スグに近所の子と仲良し3人組が出来上がった。男の子2人と女の子1人だった。


「ねえ、修平。あの子達、昔の私達みたいね」

「そうかなぁ、そうだなぁ」

「男の子2人から好きになられて、きっと三角関係よ。私達みたいになるわよ」

「でも、僕の息子は三角関係にならないと思うけどな」

「何か言った?」



「いや、なんでもない」







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

崔節!(さいぶし) 崔 梨遙(再) @sairiyousai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る