Plaize money

文明涼

第1話 過去の交わり 暗殺一家

昔から二人だった。

普通そこは一人だった、と言うのが定番かもしれないが、生憎俺には妹がいる。歳は一つ下で俺によく似た妹だ。


幼い頃に両親が殺し屋に殺されてしまい、他界。後に爺ちゃんから聞いたが、どうやら俺の両親は多方面から恨みを買っていたらしい。

なぜ恨みを買っていたのかって?まぁ待てってすぐ話すから。


そんな俺はお爺ちゃんの元で育てられ、妹は親戚の家で育った。なぜ兄妹離れ離れにされたのか、それには理由があった。


俺の父親は賞金稼ぎをやって生計を立てていたそうで、俺の一家は皆、犯罪者を殺して手に入れた金で飯を食ったり家を建てたり保険に入ったりしていた。

それを聞かされて俺は絶句した。大好きだった父親が、あんなにも優しかった父親がまさか人殺しだったなんて。じゃあ俺が今着ている服も、今まで食べてきたご飯も、何もかも全て人を殺した上で成り立っているものだ。そう考えると多少吐き気がする。


両親が殺された日から数ヶ月が経ち、徐々に精神が落ち着いてきた俺に向かって爺ちゃんはその事を聞かせた。今でも思い出す。自分の一家が人殺しの一家であったことを聞いた時のあの、複雑な感情を。

まるで一枚の紙を一度くしゃくしゃにした後、頑張って元の綺麗な状態に戻そうと頑張っている無知な子供を見ている時のような。


「翔雲」


「なに……爺ちゃん」


「急にこんな事を話してしまって、とても混乱していると思う。なんせお前はまだ若い。毛もまともに生えていない小童だ。だが、話の本題はこれからなんじゃよ」


「……え?」


十分な話を聞かされたつもりだった俺だが、改めて自分の中でまだ心残りがあったことに気づいた。


「そうだ……奏は?なんで奏と離れて暮らさなきゃいけないんだ?」


「いいか、翔雲。一言で言うぞ」


そう言って爺ちゃんは突然、目にも止まらぬ速さで懐からナイフを取り出し、空を切る。

目の前でナイフを出されたが、あまりの速さに俺は驚く暇も与えられなかった。


「お前は暗殺者になれ。凶悪な犯罪者を殺して金を稼ぐ、賞金稼ぎになるんじゃ」


今気づいた。爺ちゃんは決して空を切ったわけではない。先程からうろちょろ飛び回っていた小さいハエの身体を真っ二つに切り落としたのだ。

目の前で息絶えた虫を見て、俺はゾッとする。それと同時に暗殺者というワードに、全身の毛が際立つ。


「賞金稼ぎって………お父さんがやってた事?」


「そうじゃ。お前がこの柊家に生まれた瞬間から、賞金稼ぎになることは決まっていたのじゃ。お前のお父さんからこの事を知らされるのも時間の問題じゃった。それが少し早まっただけじゃ」


「それって、人殺しでしょ…?やだよ、俺。人を殺してお金を稼ぐなんて、やりたくない…それに俺、子供だしっ!」


「人殺しじゃない。殺す対象を想像してみろ」


相手は自分よりも何人も多くの人を殺してきた凶悪犯。女も子供も関係なく、様々な悪行を犯してきた犯罪者だ。警察の手には負えない。もはやそれは我々と同じ脳を持った人間ではない。


「そんな奴らを殺しても、構わないだろう?」


「で、でも………それじゃあ、相手とやってる事は同じじゃないの?」


「違う!!!」


爺ちゃんは手に持っていたナイフを勢いよく畳の床に突き刺し実の孫に向かって怒鳴りつけた。


「いいか?翔雲。これはアイツらがやっている悪の殺しとはまるでわけが違う。ワシらが先祖代々やってきたこの殺しの仕事は、"正義"なんじゃ」


「せい……ぎ」


「お前のお父さんは、お前をここまで育てる為にたくさんの正義を執行してきた。たくさんの悪を殺し、金を稼ぎ、お前という善人を育ててきた。果たしてこれでもお前は、自分の父親と凶悪な犯罪者がやっていることが同じだと言えるのか!!」


「っ!?」


俺のお父さんを殺したのは、俺のお父さんに対して恨みを持っていた凶悪犯だ。きっとその凶悪犯にも何か大切なものがあって、それをお父さんが傷つけたのかもしれない。


だが当時の俺はそんな事考えもせずにただ爺ちゃんの話を聞いていた。


「お前は大事な両親が殺されて何を思った」


「……何も……ただ、泣きたかった。すっごく悲しかった」


「嘘をつくんじゃない」


「……え?」


「殺したかった、の間違いじゃないか?」


「っ!?」


爺ちゃんによると両親の葬儀中、どうやら俺は笑っていたらしい。涙を流していながら笑っていて、その目はまさに狂気に満ちていたそう。


「ワシの息子にそっくりじゃ。その時のお前を見てワシは思ったのじゃ。お前なら立派な賞金稼ぎになれると」


「ほ、本当に……?俺は、笑ってなんか…っ」


自然と口角を上げながら悲しげな表情を見せる俺。だがそんな俺の表情を見て、爺ちゃんはまた言った。


「ほら、今も笑っておる」


「え?」


爺ちゃんにそう言われた俺は自分の顔に手を当ててみる。涙は流れていない、ただ歯茎を出しながら笑っていた。どんなに面白いバラエティ番組を見ている時よりも笑顔だった。


「奏は暗殺者への適正がない。だがお前にはある。ついてこい。まずは首の狩り方から教えてやろう」


俺の人生が狂い始めたのはその時からだ。小学3年生の夏。俺は初めてナイフを握り、野菜や獣肉を切るわけでもなく、人肉を捌いた。

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