込山くんは那須くんの一番になりたい
槇瀬光琉
第1話
「なんでだよ~!!!」
今日も生徒会長である
込山の傍にいた生徒たちはその叫び声を聞き
「あぁ、今日も会長は元気だ」
「またフラれたんだ」
「会長も頑張るねぇ」
「まだ諦めてないんだ」
等と噂をしていた。それもそのはず、込山が風紀委員長である
「うるさいぞ込山。生徒会長が廊下で騒ぐな。他の生徒に示しがつかんぞ」
込山が叫び声を上げた現況が飄々と現れてピシャリと言ってのける。
「う~!誰のせいだよ!那須が俺の相手をしてくれないからだろ~」
半泣き状態になりながら込山は那須に抗議してみるが
「こうやって相手をしている」
軽くあしらわれてしまう。
「なんでだよ~!!」
再び込山の叫び声が廊下に響き渡る。
「だからうるさい。さるぐつわでも噛ませるぞ」
片耳を押さえながら那須は言うが、決して本心で嫌がってるわけじゃない。その証拠に口元には小さな笑みが浮かんでいる。
那須にしてみれば込山のこういった反応が面白くてわざとはぐらかしていたりもする。
ただ、込山の気持ちを本気で考えているかどうかと言われればそれは否だ。
考えるのをはじめから放棄している。
那須自身の気持ちの問題でもあるが、相手は生徒会長の込山だ。下手に手は出したくない。それが一番の理由だった。
込山は生徒会長とだけあってかなりの人気者だ。彼に憧れる者も少なくはない。
勿論、好意を抱く者もそれなりにいるのは知ってる。
が、如何せん、本人は那須に首ったけでよそ見などしない。
だから那須はそんな連中から恨まれてたりもする。それでもそれを気にしないのが那須なのだが…。
「いい加減、俺じゃなくて他のヤツに目を向けてみたらどうだ?」
那須のこの言葉に
「なんでだよ~!!」
見事にまた込山が叫ぶ。毎度、毎度こんなやり取りをしてるもんだから生徒会長と風紀委員長の恋愛ごっこ遊びと称されるようにもなった。
込山本人はいたって本気なのだが…。
「それより込山そろそろ戻らないと柳川にどやされるぞ」
込山がここで最初に叫んでから彼これ30分ぐらい過ぎようとしていた。
一人で地団駄を踏みながら叫んでいたのだ。それに気が付いたから那須が声を掛けたのだが、一緒になってカラかっていたので少々時間を取りすぎたと那須が反省をする。
「う~、もっと早く教えてくれよぉ…」
情けない顔して文句ひとつ口にする。
「お詫びに生徒会室まで送ろう」
那須の提案にぱぁ~っと明るい顔になり
「デートか?」
なんて言い出す。
「違う。付き合ってもないのにデートもくそもないだろう。迷子になった会長を送るだけだ」
那須の容赦ない言葉に
「なんでだよ~!!夢見せろよ!」
込山がまた叫ぶ。毎度、毎度これだけよく叫べるものだと那須は感心する。
「イヤ、事実だ。夢など見るな。特に俺に関してのな」
にやりと笑いながら那須に言われ
「クソぉ~!!那須の意地悪~!!!」
握り拳を作りブンブンと両手を振りながら地団駄を踏む。
ガキかこいつは…と呆れながらも那須は溜め息をつき
「柳川に怒られるのと、このまま大人しく生徒会室に戻るのとどっちがいい?」
いまだに地団駄を踏む込山に選択を迫る。
「うっ、どっちもヤダ。でも生徒会室に戻る」
込山は大人しく生徒会室に戻ることを選んだ。那須は込山に気が付かれないように小さく笑う。
「なら送ろう」
込山の背を軽く叩き歩き出すように促せば込山は小さく溜息をつき項垂れるように下を向きイヤイヤ歩き始めた。
「いつまでほっつき歩いてんですかね会長は…」
生徒会室に入るなり柳川の棘のある言葉に
「う~」
込山は唸る。
「悪かったな。すぐ連れて帰るつもりがつい話し込んで遅くなった」
込山を庇うように那須が言葉を紡げば
「那須がこの馬鹿を庇う必要ないです。どうせまた那須にフラれて叫んでたんでしょう?ホント懲りない男だ」
柳川の言葉は冷たい。が、本当のことだから込山の言い返せない。
「お見通しか。さすがだな柳川」
那須が感心していえば
「毎日、叫んでるのを聞いてれば安易に想像できるし、那須も遊んでるみたいだしな」
ギロリと那須を睨む。
「やぶ蛇か。じゃぁ、届けたからな」
那須は苦笑を浮かべながら肩を竦め生徒会室を出ていった。
「なんでだよ~」
那須の背を見送った後で込山が呟く。
「手強い相手に惚れたな込山。あいつは一筋縄じゃ行かないと思うぞ」
止めを刺すように柳川がいう。
「なんでだよ~!!」
再び込山の叫びが生徒会室に木霊した。
込山くんは那須くんの一番になりたい 槇瀬光琉 @makise_h
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