第10話 飛べる

◆◆◆◆◆◆



黒いナイフの王子様がマンションから出てきた。


街灯に照らされたあたしの王子様は、暗闇にくっきりと浮かび上がっていた。


道路を歩く王子様が、不意に立ち止まる。そして、何かを求めるように夜空を見上げた。


「あっ」


王子様が上を見上げるなんて思わなくて、あたしは思わず声を出していた。王子様があたしの声に反応して視線を彷徨わせる。

そして、奇跡みたいに王子様があたしを見つけてくれた。


こんなあたしを見つけてくれた!!



見上げた王子様と目が合って、不思議そうにあたしを見つめてくる。あたしは黙って見つめ返すしかできない。

そうしたら・・・・王子様の視線があたしから逸れていった。


胸がぎゅって痛んだ。



あたしの王子様が離れていく。

やっとあたしを見つけてくれたのに、離れていく。



嫌だ。



嫌なの。



連れて行って。

あたしを連れて行って。ここから連れ出して。


あたしを置いていかないで!!


あたしは咽喉が痛くなるくらい叫んでた。王子様に近づきたくて、あたしはベランダの柵によじ登っていた。柵の上に立ち上がると急に視界が広がった。



風を全身に感じた。

その風に乗って、飛んでいける気がした。


あたしは自由だ。



「危ない!!」


王子様がそう叫んでいた。あたしは王子様に向かって微笑んでいた。



あたしは、風に乗ってあなたの元に降り立つ。

きっと神様が守ってくれる。


だって、王子様があたしを見つけてくれたのだもの。

神様がきっとこの奇跡を起こしてくれたのだから。


あたしは飛べる。



あたしは飛べるよ。




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