第10話 飛べる
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黒いナイフの王子様がマンションから出てきた。
街灯に照らされたあたしの王子様は、暗闇にくっきりと浮かび上がっていた。
道路を歩く王子様が、不意に立ち止まる。そして、何かを求めるように夜空を見上げた。
「あっ」
王子様が上を見上げるなんて思わなくて、あたしは思わず声を出していた。王子様があたしの声に反応して視線を彷徨わせる。
そして、奇跡みたいに王子様があたしを見つけてくれた。
こんなあたしを見つけてくれた!!
見上げた王子様と目が合って、不思議そうにあたしを見つめてくる。あたしは黙って見つめ返すしかできない。
そうしたら・・・・王子様の視線があたしから逸れていった。
胸がぎゅって痛んだ。
あたしの王子様が離れていく。
やっとあたしを見つけてくれたのに、離れていく。
嫌だ。
嫌なの。
連れて行って。
あたしを連れて行って。ここから連れ出して。
あたしを置いていかないで!!
あたしは咽喉が痛くなるくらい叫んでた。王子様に近づきたくて、あたしはベランダの柵によじ登っていた。柵の上に立ち上がると急に視界が広がった。
風を全身に感じた。
その風に乗って、飛んでいける気がした。
あたしは自由だ。
「危ない!!」
王子様がそう叫んでいた。あたしは王子様に向かって微笑んでいた。
あたしは、風に乗ってあなたの元に降り立つ。
きっと神様が守ってくれる。
だって、王子様があたしを見つけてくれたのだもの。
神様がきっとこの奇跡を起こしてくれたのだから。
あたしは飛べる。
あたしは飛べるよ。
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