第28話 商品⑥ 生首ボール・Ⅲ
◆◇◆◇◆◇◆
「どう? こんな感じで」
圭吾は、接着剤でかつらを貼り付けたゴムボールを新平と純一に見せた。
ゴムボールもかつらも、100円ショップで買ってきたモノである。
「おう、上出来」
「いい感じじゃん」
新平と純一が、パレットで絵具を溶きながら、楽しそうに答えた。
圭吾の部屋である。
圭吾、新平、純一は、日頃からイタズラばかりをしている三人組であった。
学校では先生に叱られ、家では親に説教をされることが日課になっている。
その三人のうちの一人、純一が、昨日、奇妙な噂を聞いてきたのだ。
近くの公園で、夕暮れになると、生首でリフティングしている男の子の幽霊が出るという噂である。
しかも、その男の子には首が無いと言う。
自分の首をボール代わりにしているのだ。
「なんだそりゃ?」
「えらく雑な作りの怪談だな」
純一から話を聞いた圭吾も新平は、まったく信じなかった。
「だよな」
二人に噂を伝えた純一も、そもそも信用していない。
「でもさ、信じているヤツらって、けっこういるみたいなんだよ。
だから……」
純一は、その噂を利用してイタズラを仕掛けようと二人に持ちかけたのだ。
◆◇◆◇◆◇◆
ボールを人の肌に似せた色で塗り、その上から目と鼻、口を描くと生首ボールが出来上がった。
「ひゃあ、ひっでー出来だな」
新平が笑う。
ペイントを見れば、人間の顔を模しているのは分かるが、元々はただのボールで凹凸が無いため、離れれば髪の毛らしきものがついた妙な球体ていどにしか見えない。
「こりゃ、騙されるヤツはいないんじゃないのか?」
「大丈夫だって。
先入観があれば、生首と錯覚するさ」
純一が自信たっぷりに言う。
「そろそろ、日が暮れてきたな。
じゃあ、行ってみるか」
圭吾が立ち上がり、純一と新平も立ち上がった。
三人は自作の生首ボールを紙袋に入れ、噂の流れる公園へと向かった。
公園に着くと、圭吾はリュックからサイズの大きいジャンパーを取り出した。
家からこっそりと持ってきた、父親のジャンパーである。
ジッパーではなく、金属製のボタンで前を留めるタイプのジャンパーであった。
「汚すなよ。父さんにバレたら、ゲンコツものなんだからな」
「了解、了解」
気楽に答える新平がジャンパーを着、圭吾と純一が手伝う。
普通に着せたのではない。
新平の頭も中に包む形で、ジャンバーを着せたのだ。
袖を通しボタンを留めると、両脇が上へと引っ張られるような不自然な形になったが、新平は首なし人間に見えないこともない姿となった。
新平の顔の前のボタンだけを外し、視界を確保できるようにする。
「どうだ?」
「厳しいけど、まあ、なんとか、出来るかな」
圭吾が問うと、ジャンバーの中から新平が答えた。
「出来る」とは、この不自然な姿で、リフティングが出来るということである。
三人の中では、新平が、一番リフティングが上手いのだ。
「あとは圭吾と純一の演技力しだいだな」
ジャンバーの中から目だけを覗かせて新平が言う。
「まかせとけって」
「新平こそ、しくじんなよ」
圭吾と純一は笑みを浮かべて言う。
すでに日は暮れ、ほどよい暗さに周囲が包まれはじめた。
「じゃあ、行ってくるぜ」
生首ボールの入った紙袋をもった首無しスタイルの新平が、ヨタヨタと不格好な動きで公園の中に入って行った。
圭吾と純一は、歩道に面した公園の入り口で待機する。
公園は低い植え込みに囲まれ、歩道からはよく見渡せた。
新平が公園の中央辺りで生首ボールを使い、リフティングをはじめる手筈であった。
ちょうど、その辺りは街灯の明かりが届かず、歩道から見ると、シルエットだけがぼんやり浮かぶようになるのだ。
しかし、誰かが通りがかっても、生首ボールでリフティングをする新平に気づかなければ意味が無い。
そこで圭吾と純一が、公園の入り口からリフティングする新平を眺め、誰かが通りがかったら、「なあ、あのリフティングしているヤツって、妙じゃないか?」「うん。首が無いように見えるよな」と大きな声で話をはじめ、注意を向けさせる計画なのだ。
「首が無い」という先入観を与えれば、蹴っているボールは生首に見えるだろうという考えである。
「先生が通り掛かって、引っかかればおもしろいのにな」
「いいな、それ」
圭吾と純一が笑い合う。
「おい、出てきたぞ」
純一が公園の方へと目を向けた。
新平が、公園の中央に現れたのだ。
手にしていた生首ボールをひょいと上に向かって放ると、器用にリフティングをはじめた。
膝、足の甲、太もも、足を変えて再び膝でボールを弾ませる。
上手いものである。
予想していた通り、誰かがリフティングをしているのは分かるが、薄暗くて細部まではよく見えない。
しかし、リフティングをしている少年のシルエットに、首から上が見当たらないことは分かる。
「おお、それっぽいじゃん。
これだと、誰が見ても驚くぞ」
「早く、誰かが来ないかな」
わくわくする二人の耳に、歩道を歩く足音が近づいてきた。
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