22話 初心名村とは?

・・・ブウウ――ンンン―ンンンン・・・


 ドローンが俺の周りをぐるぐると動き続けている。スマホを見る。俺は配信を続けている。眼の前には腕が千切れて怯える名探偵がいる。絵になる。下には刀と猟銃が落ちている。もう必要ない。


「さっちゃん、さっちゃん!!」


 蒼が泣きながらやってくる。俺も嬉しくなって手をばっと広げてしまう。心地よい。酷く気持ちが良いのだ。彼女が胸に飛び込む。見つめ合う。その顔は喜びと少しばかりの寂しさがある。きっとそれは俺も同じだどおもう。俺はお前の人旦那やけんな。通じ合っている。


「さっちゃん、やったね、さっちゃんはやっぱ神様になれたんやね。よかった、よかった…」


「そうなげ?んだども、どういうりゆうでそうなっとかまっちょうわからん。なしてこなことになった?」

『ん?』

『なに言ってんだ?』

『訛が凄いっていうか、これ訛か?』


 俺の言葉がおかしい?正直、分からん。でも蒼は特に意味分からないみたいな顔はしていない。そして、俺の手からスマホを取ると手を繋いでくれる。スマホを俺に見せてくれている。


「説明が難しいんだよね。だから、ちょうど良いところに名探偵もいるし、解説して貰おうよ。ね?うぶなさま?」


「そやね、祭りよ、今日はお祭り、記念日や、素晴らしい日や」


 のそのそと歩き、釣山薫の元に行くうぶなさま。そして千切れた腕を彼女に押し付ける。元通りになる。


「ひ、は、も、戻った、え?」


「名探偵さん?はよう、お話してや。有名になりたいんやろ?バズりたいんやろ?みんなにしって貰いたいんやろ?是非、うちの茅葺三郎を語ってえや」


 釣山薫は立ち上がる。うぶなさまは俺の横に立つ。その後ろにはジジババ達が岩場に座って「楽しみでな」「こんな演説久しぶりやね」「剛太郎さ、話は面白かったな」「源五郎の話も面白かったな」「あんた何十年前の話してんだ」「覚えてねえがね!!」「「ははは!!!」」など好き勝手言っている。


 だが岩場ばかりでは座りにくいだろう。


 俺は椅子があれと願った。


 それは叶った。木製のベンチが皆のもとに現れる。


「んだ、はなしば、はじめてくれやね、んで、いつからおれはこんなことになっちょります?」


「…そうか、そういうことか。あのクソデブ、私をここに派遣したのはそういうことか」


 何かを悟り、一瞬下を見る。その顔は死の覚悟、そして…使命感があった。


「いいさ、やってやるさ!!!及ばず乍らも名探偵・釣山薫の推理劇、最終章を語らせて頂きます!!!では、まずは眼の前にいらっしゃる、茅葺三郎。彼の人としての物語を総括します」


 ステップを決めながら俺に指差す釣山。演技の様に立ち回る。カメラが回っている。彼女のスタンスがこれなのだろう。


「茅葺剛太郎の孫、茅葺宗次郎の息子として生まれた彼はこの村の老人達に育てられ、うぶなさまと蒼の寵愛を受けながらここまで成長しました。そして、祖父・父の死により村長としてこの村を治める事になった」

『まあ、そうやな』

『知ってる話だ』

『これが今のファンキー三郎状態の説明になるんか?』

『凄いネーミング』


「これだけ聞けばリスナーの皆様は村の人間や神は剛太郎や宗次郎から三郎を守っていた様に皆さんは感じるでしょう。ですが、それは全くの誤解。いや、正確に言えば守っていたと同時に神になれるようの準備をしていたんです」


 彼女はスマホを弄る。そして、画面を見せる。そこにはあの掲示板があった。


「彼らの推測は大体こちらの予測通り。うぶなさまという存在は超規格外ユニークモンスター。この村は現在進行系で被害が出続けているダンジョン災害地、そこに作られたダンジョン内ダンジョンが初心名村。出ている情報で出せる最大の正解です」


 ただと言いながら周囲を見渡す釣山薫。


「ですが私が出した答えは違います。多分、


 うぶなさまを見る。何も言わず笑っている。


「それも信仰や宗教や思想によって言語化出来る存在じゃない。文字通り、本当の意味での神です。それが何かの拍子に現れた。そこに理由は付けれません。神が現れた。まずそこを飲み込んで欲しい」

『無理矢理すぎるだろ』

『でも、実際、そこを言及するのって違う気がするのも分かる』

『いやいや、科学の時代だぜ?』

『そんなこと言ったらダンジョンの発生原因の調査だって統計で止まってるじゃん』

『仮定を前提として研究してその後出た結論から逆説的に仮定を証明するやり方もあるじゃん』

『詭弁だろ!!!』

『いやいや!!』 


 コメント欄が盛り上がる中、掲示板も騒ぎ立ててる。それでも彼女の喋りは止まらない。


「続けます。そしてそんな神を剛太郎はどうにか頼み込んでこの村に引き込んだ。でもその時にまだ


 しん、空気が冷える。それは真実だからなのだろう。場の空気がピリついている。


「この村は村に価値ある信仰を探しては捨てを繰り返していた村だ。そして、本当にいた土地神を怒らせて天変地異を受け続けていた村だ。そこに本当の意味で完璧な神様が現れた。まず彼女は…


「ねがうば?」


 俺の言葉を理解できずに釣山薫は続ける。


「うぶなさまという名前を与えたのはこの村の人間や剛太郎だろう。そして、風習や習わしを構築したのも同じだろう。床入れ、馴染肌、人嫁、神嫁に関しても剛太郎や村の人間が作り出した。。だからこの村は。因習が蔓延る村じゃない、因習に縛られた村じゃない、因習で神を縛り付けた村なんだ」



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