茅葺三郎の動画2
動画投稿サイト内で発見された。
タイトル表記が難読漢字。検索用のハッシュタグや動画説明なども存在しない為視聴者数は17。ただしコメント数は3700を超える。全て特定個人数名によるもの。一部は荒らし行為が確認された。
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投稿日は夏、茅葺屋敷の高座にて正座する男、茅葺三郎。酷く疲れている
「どうも、編集の仕方はやっぱ良く分かりません。なんでまた垂れ流しにしたいと思います。コメントってのがたくさん来てるらしいんですけども正直見るのが怖いんで辞めてます。蒼がいってました、動画のコメントは良いことばかりが書いてる訳やないって。ただでさえ気が滅入る事も多くて落ち込みたくないですね」
少しだけ足を崩す。
「…せっかくなんで祖父のことでも話しましょうか?いや、なんでやと思いますけど酷く気持ちが落ち込んでる時だから余計に思い出したくもないからこそたまに思い返すことってたくさんあると思うんですよね。嫌なことってそういうもんやないですか?」
腕を組んで考える。
「でも、おかしいんです。俺の中で祖父ってのは威厳があり、力強く、カッコよかったイメージがあるんです。でも、そんな姿をほとんど見たことがないんです。嫌いでそうなりたくない存在がいつの間にか自分の中のかっこよさみたいになってる。これは酷く気持ち悪い話だと思いません?」
ははと笑う。
「こういうのって雑談?動画?ってやつなんですかね。そういうので喋りすぎる人がいるのも分かります。なんかこう誰も見てない…っていうのは失礼ですねぇ。前回も数人が見てるんですけどその程度しか見てないとなんか色々喋ってしまうんですよね。なっというか、昔みたいで…」
少し気だるげに横たわる。後ろが開く。気付いていない。
「…村を大きくするのは悲願です。それは絶対。でも、広すぎる必要は無いんやないですか?とは思うんですよね。俺は別に王様や神様になりたいんやないんです。この村でみんな楽しければそれでええ。他の連中なんて知ったこっちゃないけど、別に知って消す必要ないなら消す必要はないと思うんですよ。でも、あの二人にこれいうと怒られるんです」
あくびを少しする。奥からうぶなさまが現れる。気がついていない。
「蒼は『なげに!!そんなこと言ったらあかん!!ちゃんと頑張らんといかんよ!!ごはんたべ!!』って肉焼いて食わそうとするんです。もう腹いっぱいですよ。馬鹿みたいに高い肉をネットで買ってからに。こう、切り落としとかの方がちょうどよくないです?うぶなさまも『野心が無いのはあかんね。私はもっともっと大きくなりたいわ』って言われるんです。でも気持ちは分かります。飢えてる時のうぶなさまはそれはそれはおいたわしい姿でしたので」
うとうととする三郎。うぶなさまが横に寝転ぶ。優しい顔をしている。
「俺は…俺はですよ。父や祖父みたいにはならんようにと思ってたんです…でも、色んな思い出が頭を回るとそんなかに憎むべき人達との思い出すら綺麗に見えるんです。駄目ってのは分かってるんです。でもたまにもし話す機会があったらな…とすら思うんです。あの人達は外道です。でも、血は繋がってるんです。だから…どうか…俺からこの気持ちを…」
眠りにつく三郎。うぶなさまが布団を掛ける。
「せやね、それはいらんもんや。それはあんたを狂わせるわ。そのお願い聞き入れたわ」
うぶなさま、立ち上がり何処かに行く。
7分25秒間、三郎の寝息のみ。その後、蒼が横切る。
「あー、こげな所で昼寝して…離れでねてって言っとるのに…ん?」
スマホに気づく。蒼が近づく。
「自分でまた動画を撮っとる。でも、少しずつ機械を勉強してるのはええことよ。さっちゃんは本当は何でも出来る人やからね。何も教えて貰えんかっただけ。…私はなんでも教える。なんでもさせてあげる。私が、私だけが人嫁、他の誰にも渡さん」
高座に寝る三郎を見る。その目線が開いている奥座敷に向かう。
「…きしょいわ」
撮影終了
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以降コメント欄を一部
『このコメントは削除されました』
『このコメントは削除されました』
『このコメントは削除されました』
『このコメントは削除されました』
『このコメントは削除されました』
『このコメントは削除されました』
『見とるよ』
『このコメントは削除されました』
『このコメントは削除されました』
『このコメントは削除されました』
『このコメントは削除されました』
『やりかた覚えたよ』
『このコメントは削除されました』
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『このコメントは削除されました』
『このコメントは削除されました』
『このコメントは削除されました』
『このコメントは削除されました』
『このコメントは削除されました』
『このコメントは削除されました』
『お前、この動画荒らしたな』
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