19話 茅葺剛太郎とは?

―――


 それはある日の夏


「なげに、うぶなさまの御戸開を撮って武器にする?他の手段もあるやろぎ」


 蒼がうぶなさまの御戸開を撮影した事を話した日、床入れ後に少しばかしの休憩。ようやく二人共冷静になる。


 俺は布団で寝転び、蒼は近くにあった麦茶飲み干しながら扇風機に当たっている。ずいぶんと回数をこなしたのと夏の暑さに参ってるのか、汗だくになっている。


「あーーー、うん?まあ幾つか理由はあるけど、まず1つはうぶなさまに対してやね」


「ん?うぶなさまに?」


「うぶなさまはお優しいお方、でもいつの時代も神様が気まぐれってのは付きもんよ。だから、もしなにかあった時、うぶなさまの正体が分かる情報を公開しといたほうがええ。まあ、今回のジョーク映像の万に一つに紛れ込ます。それで十分」


「うぶなさまを疑っちゅうか?」


 布団から起き上がり指がポキリと鳴らす。蒼は静かにこちらを見る。


「さっちゃん、これから村は大きくなる。何が起きるか分からん。だから用意にこしたことはない。必ずうぶなさまの、村の、いやさっちゃんのためになる」


「…分かった、お前を信じる。他には理由あるんか?」


「もう一つは大した事ない。これから先、村が大きくなった時に村の中で裏切りが起きるかも知れん。そん時の攻め点を作るみたいなもん」


「…人は変わるからのお」


 俺は布団の上で腕を組む。祖父も祖母も父も会ったこと無い母も思い出の奥にはおるがそれが形をなそうとすると常に気狂いの顔になっちゅう。俺もいつか、そうなるんやろか…それが恐ろしい。


「そういうやからはまず私から狙うやろね。理由はどうあれ、戦力で言えば私が一番弱い。でも相手側が冷静なら理由もなく私を襲う真似はせん、そうなった時下手に頭回されて村人を困らす真似はしたくない。あくまで私だけを狙わせたい」


 蒼は俺の膝に座る。汗が乾いて同じシャンプーの匂いがする。鼻を押し当てる。ええ香りや。


、これだけで攻める理由は十分。後はその時に合わせる。アドリブってやつよ」


「賢い、可愛いし、先が見えるし、その上偉い可愛い」


「えーほめすぎよー、でもね、こんなんを使わんのが一番よ。みんな楽しくが一番。やろ?」


「…そやな!」


 蒼に抱きつかれ、俺も抱きしめ返す。蒼の言うそれは俺が判断しないといけない事だった。俺は蒼やうぶなさまに醜い決断を押し付けている。遠くのほうにあるベンチにうぶなさまが空を見ていた。


 気がついてこちらを見て手を振る。俺も振り返す。聞かれてたのかも知れない。でもその答えは出ない。


―――


「いやはや、名探偵の前でこんなことするなんて。これは現行犯逮捕物ですよ」

『何が起きたんや!!』

『途中で暗くなってわかんかったぞ!!』

『何が起きたか分かるように総集編作ってくれ』

『笑う』

『どんなつもりで誰が作るんだよ』


 へらへらと笑う名探偵の周りにドローン二つが旋回し続けている。まるで天使の輪のようである。裁かれているみたいや。今は松明も無くスマホライトの細い光ばかりで、夜目が効く俺達と違い闇を覗いとるみたいになってるらしい。


「さっちゃん、火を付けるわな」


「頼むわ」


 松明に火が灯り、全てが明るくなる。そこには死体は一つもなくて何もなかったかのようである。


『は?』

『なんで?』

『大和たちは?配信も止まっとるし?』

『三郎、説明してくれ!!』

「そやな、で?話し続けよか?次は父さんの話か?」


 コメントを無視して、蒼、うぶなさまを後ろに引き連れ、俺は名探偵に近づく。明かりの下で彼女は不敵に笑い続けている。こいつは別に俺達をどうにかするつもりはない。単純に面白半分でここに来て推理劇をしてるだけ。最初に来たあの配信者、それと何も変わらへん。


 だったら喋らせるに限る。全てはその後でええ。


「凄いねぇ、今みたいな真似が日常化してるんだ。こりゃ私みたいな下品な探偵が呼ばれるわけだ。お上品に椅子に座ったりしてちゃ勝ち目はないよな」


「話さないんか?もうだいぶ情報が出てきて何を聞けばええか分かった。蒼が推理出来る、うぶなさまにお願いも出来る。お前に聞かずとも良いんやぞ、はよ喋れ」


「私もええよ、三郎が望むなら。全部答え合わせしよか?」


 釣山薫は汗を流す。なんや、裁定者気取りの癖に怖いんか。難儀やな。俺は刀で身体を小突く。透明の膜阻まれている。でもそれで十分。


「はよ」


「…無敵のバリアがあるのにこの威圧感って、凄いね。分かったよ。ただ、このまま続けても少しだけ認識の齟齬が生まれるだろうからね。補足するよ?」


「…補足?なんや?」


「私は茅葺剛太郎は失踪したと言ったけどその点に疑問は無いんだね?」


「そうやろが、あの夜まで会ったこともないわ。なあ、蒼、うぶな」


「…そやね」


「そうかもねぇ」


 何や二人共口が重いわ。釣山薫はあーなるほどねという顔をしている。そして、また俺の周りをくるくると回りだす。見定めているようや、腹立つわ。


「じゃあ補足だ。茅葺剛太郎はたえの殺害後、急速に耄碌し廃人状態になる。村の噂や神旦那になれなかった負い目、そこに自身の人嫁を自ら殺す所業。ま、そりゃ心が死ぬさ」


 釣山は1枚の写真を出す。そこにいたのは皮と骨になった老人がいる。その目は虚ろ。口からは唾液が垂れている。


「誰ぞ、これ?」


「…やっぱりね、


 目が飛び出そうになる。


 俺の中にある祖父はもっと威厳があり、祖母を殺したその日から消息を立っている。あの日から俺がその首を落とすまで会ったこと無いはずや。あの時のイメージしか無い。俺が殺した時もこんな老人や…いや、いや、俺は俺は見たことがある。というより、殺したあの時の老人は…こんな姿だったんじゃないのか?


 


「さっちゃん、落ち着いて!」


「深呼吸して、三郎」


 二人に抱きしめられる。はあはあ、何かが繋がろうとしてる。本当に俺はこれを知ってええんか?怖い、怖い。俺は知るのが…怖い。さっきまでの勢いが消える。


 名探偵が笑ってる。


「うぶなさまの夜這いの一件まで。でももう君は。だから君はあの夜から会ってないという認識なんだろうね、いるのは認識してるけどね。物扱いだよ」


「…俺の心でも読めるんか?」


「さあね、酷く下世話な名探偵なんでね。人の心を探るマジックアイテムはもしかしたら持ってるかもね」


 あの初めて自分で動画を撮った時に独白した気持ちを思い返す。そう、あれが全てなのだ。。そうなるのが怖いとしか言わなかった。肉親すらうぶなさま、村、いや、いやいや、自分の、自分の為に罪悪感もなく殺せるのだ。


 これはただ事実を並べてるんやない。


 俺を俺という人間を推理しとんや。武器でも権力でもなく、。それが言葉から伝わる。


「さて、ようやく君のお父さんの話が出来る。ここの認識の齟齬があると話がややこしくなるからね。少し念入りに語らせて貰った。さあ、真打ち登場だ」


 名探偵はスマホを取り出す。そして何処かに連絡をいれる。画面を向ける。そこには太った男がいる。誰やこいつ?


「はーい、どうも、金満太です!ダンジョン協会の理事をしてまーす」


「いや、マジで誰やこいつ?」


「酷いな!ひーちゃん、酷いよね」


「まあ妥当かと」


「ひどいよ!!」


 ご機嫌な調子で喋っとる。隣から女も出てきた。男はやけに親しげで腹立つ。


「さあ、本題だけど君のお父さん、茅葺宗次郎については君より僕の方が詳しいよ。というよりも…君達のいる初心名村及び前初心名村に関しても詳しいよ。だってその利権を作り上げたのが僕だもん」


―――

【すごいぞ】初心名村チャンネル監視板17【オーディエンス】


198 名無しですが何か?

大和死んだ…やろこれ


199 名無しですが何か?

もう止まらねえぞ!!!


200 名無しですが何か?

ってかここまでしてダンジョン協会動かないのやばすぎる


201 名無しですが何か?

いや、うぶなさま=ユニークモンスターなら説明が付くだろ


202 名無しですが何か?

ダンジョンを意図的に発生させれる存在って最早通貨を作ってるようなもんだからな。そりゃ何万人の命より大事だわ。


203 名無しですが何か?

命は平等だろ!!!


204 名無しですが何か?

思ってないことをでかい声で言う、ネットのよくあるやつ


205 名無しですが何か?

うぶなさまの不可思議さが御戸開動画を見たら死ぬだったからそれが無くなるとこの推理を否定する理由が無くなる


206 名無しですが何か?

これだろ、釣山が調べてたって奴、見つけた

https://kakuyomu.jp/my/works/16818093077328867626/episodes/16818093078249017584


207 名無しですが何か?

これやっぱさ!!!正解じゃん!!!


208 名無しですが何か?

いや、やっぱ確証自体は無い感じだろ


209 名無しですが何か?

そもそもそんな規格外のユニークモンスターいるの?


210 名無しですが何か?

八柱が解決したダンジョン災害みたいな感じか?


211 名無しですが何か?

東京での死霊術師による死者蘇生ってやつやろ?あれヤバかったよね


212 名無しですが何か?

ティム・バートンの映画みたいだったな、死体の花嫁のやつ


213 名無しですが何か?

でも消耗戦で終わったやつだ


214 名無しですが何か?

まあ基本はそう、ユニークモンスターが地上で活動するとしても制限時間がある。


215 名無しですが何か?

定期的にダンジョンを行ったり来たりしないと駄目ってことか。


216 名無しですが何か?

でもそのときって初心名村ダンジョンは無かったよな?


217 名無しですが何か?

ついこの間だからね


218 名無しですが何か?

ほなユニークやないか…


219 名無しですが何か?

ミルクボーイ紛れ込んでる?


220 名無しですが何か?

ってかそもそもの話、〇◇村ダンジョンってなに?何処にあるん?


221 名無しですが何か?

社ってこと?


222 名無しですが何か?

大規模って書いとるぞ


223 名無しですが何か?

供えが足りてないから配信した感じだからかなり規模が小さくなってたとか?


224 名無しですが何か?


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