18話 みとびらきとは?

「ご利益のある神様だけを探し続けたこの村に本物の神様であるうぶなさまが降り立った。後は茅葺剛太郎が彼女を神嫁にすれば全てが安泰になる筈だった…だが、実際は違った」

『あー、あの動画だ』

『土下座で頼み込んでたもんな』

『奥さんの怒涛のカメラワーク』


 灯火は消えて、使い慣れた松明の火が周囲を照らす。それを持つのは蒼、その横にうぶなさま。


 釣山薫は踊るように推理し続ける。周囲を回る者だから影は伸び縮みして壁を這う。俺の影も伸びている。


 俺の背中に何かがいる。


 遠くのほうで足音がする。誰かが来ている。モンスターか?人か?構わん、今更何を恐れる事がある。襲ってきている蜥蜴人間を刻み、撃ち殺しながら推理の邪魔だけはさせない。奇妙な話だ、俺はこれほど腹立たしい気持ちになっているのに聞くのを辞めるつもりはないのだ。


「うぶなさまは…初心な神、つまり処女神だった」


「しっちゅう」

『知ってる』

『まあ、そこまでは予測通り』


「いややわ、照れるわ」


 後ろでうぶなさまが惚けた声を出してる。まあ、自分のそういう話をされても怒らんなったんはほんま丸くなられたとしか言いようがない。蜥蜴人間の一匹が影からナイフを持って突撃してくる。俺は足を上げて振り下ろす、頭が潰れてその場に倒れる。


 ナイフを落とした。それはドレインナイフ。高価なアイテムと聞いてたけども俺にゃいらん。踏み潰して先に進む。


「その時の心情をここで赤裸々に語るのは名探偵といえども品がない。なんせ、うぶなさまの恋や愛の話だ。それでも分かることは一つある。最初の相手は既に決めていた」


「せやね、三郎。私の最初は一目見た時からあんたやったんよ?」


「ありがたいです、お選びになって頂いて」


 顔がぬるりと俺の横から現れる。その手には松明。酷く明るい。うぶなさまのその顔がよく見える。いつものように美しい。俺はその頬に頬を当てる。柔らかく、少し甘い草の香りがする。救われる。頭の痛みが少し止む。


「だが、現実問題、茅葺剛太郎は神嫁を持てなかった事で失墜。その後、妻・たえを殺して後の失踪に至った」


 思い出す。


―――

 

 ある夏の夜


「たえ!!!何処におる!!!ここか!!!」


 扉を開けて入ってくる。醜い老人、幼き頃、俺を抱きしめてくれたあの優しい顔はもうない。その目は錯乱して祖母を睨んでいる。俺は離れの庭先にうぶなさまに抱きしめられながら見つめていた。


「見つけたぞ!!!三郎を返せ!!!あれは俺のだ!!」


「…」


「あれには役目がある。今日にでもわしの代わりにうぶなさまの神旦那にさせる」


 酷く汚い笑みを浮かべ叫び続けている。


「そしてわしの代わりに番わせる。そして次の子を生ませる。蒼も血が出たじゃろ、さっさと子を産ませえ。わしが生きとる内にうぶなさまの身内を増やす。うぶなさまがこの村から逃げれんように、この村の人間を気軽に襲えんようにする」


 祖母の方に近づく祖父、叫び続けている。


「みろ!!俺ほどこの村の事を考えとるやつがおるか?宗次郎の馬鹿は偉そうにダンジョン協会となにか馬鹿をしとる。あんなの役に立つか!利用されのがオチだ!!俺を見ろ!!この村を初心名村とする。ええ名前やろ。うぶなさまも気に入る」


 祖父は叫ぶ。泣き叫び続けている。


「なんでや!!なんで俺が神旦那になれんのぞ!!これほど偉大な俺が!!神一人孕ませれんと!!!俺がおれこそがこの村の全てを支えてきた!!全部俺のお陰や!!崇めろ!!奉れ!!!股を開け!!俺だ、俺こそが神なんぞ!!!」


「でももう…


 叫ぶような祖母の声が響いた。静寂。そして、祖父の顔は真っ赤になって、その後は刺す音だけが響き続けた。


 それから祖父とは会ってない。


―――

 

「そして、代は茅葺宗次郎に移る。…おっと先客が来たね。まずはそっちからかな?」


 釣山に指さされ俺は振り向く。蒼の後ろ、そこには大和と数人の女が立っとった。手には照明を付けたスマホ、配信でもしてるんやろうか。なんや、どした?いや、俺も聞きたいことあったから嬉しいんやけども。


「どした、大和?なんぞ、慌てて」


 大和がこちらを見る。酷く高揚した顔、それは奥座敷の床入れの時からそうやった。話を聞かず、こちらの言葉も聞き入れず、ただ闇雲に捧げてくる。それは酷く重荷になる。


「三郎様、うぶなさま、どうかお聞き下さい。ここにいる蒼!!彼女はうぶなさまの御戸開を撮影し、それをネットに上げたのです!!」


 大和は蒼の肩を掴む。スマホの明かりが眩しくて顔が見えん。だが、それは俺も黙認した。俺も同罪や。だが、大和はそれを知らん。そう大和は何も知らん。


「うぶなさまを晒し者にする所業は許せません。これによりこの大罪人・蒼を人嫁の任から下ろす事を進言します」

「そうですそうです」

「お疲れになっていますし、もうお子も産めぬでしょう」

「この村の繁栄の為にどうか交代を」


「うぶなさま、彼女達の言う通り。私はうぶなさまの御戸開、つまり真のお姿を撮影しました。ですが…」


 走ってきたせいやろか。後ろにいた女の1人がライト付いたスマホを落とす。それが蒼の顔に当たる。笑っとる。


 その笑みを俺は知っとる。


 祖父や父の死を、近隣村々の滅びを、配信者の死を、。昔から性悪なのは知っとる。知っとる上で好きなんや。


 そして、その笑みが浮かんどるということは死がそこにある。


 

―――

【すごいぞ】初心名村チャンネル監視板17【オーディエンス】


132 名無しですが何か?

いや、それ本当ならマジでユニークじゃん


133 名無しですが何か?

超規格外なモンスターがダンジョン災害を現在進行系で起こし続けている。やっぱこれが一番しっくり来る。


134 名無しですが何か?

いや、やっぱおかしいって、じゃああの御戸開動画はなんなんだよ。見たら死ぬ映像を作るモンスターっていないだろ?


135 名無しですが何か?

うぶなさま、メデューサのユニークの可能性は?石化が即死に変わったという意味で。


136 名無しですが何か?

いや、むしろあれは直視じゃないと駄目。姿を見たら死ぬ系統のモンスターも記録を見る場合は基本無害。


137 名無しですが何か?

だからそいつが出たら専用装備の眼鏡が売れまくる。実際は撮影した映像を常時再生し続けてるだけらしいけど。ダンジョン協会も商売が上手い。


138 名無しですが何か?

考案したの金満だろ?あいつヤバすぎ?


139 名無しですが何か?

ってか、そもそもの話。稿


140 名無しですが何か?

いや、死んでますやん


141 名無しですが何か?

流石に斜に構えた推理、名探偵か?


142 名無しですが何か?

正確にいうと失踪したんだろ?死んだって話は俺達の憶測じゃん


143 名無しですが何か?

いやまあ、そうだけど


144 名無しですが何か?

ってかあの動画見たやついる?


145 名無しですが何か?

いや見たら死ぬだろ


146 名無しですが何か?

そうそう


147 名無しですが何か?

見たら死ぬ動画を見たやつはいない、死んでるので。つまりここにいる奴は動画を見てない奴しかいないってことだ。


148 名無しですが何か?

おまえはどうなんぞ、ええ、名探偵さんよ!!!


149 名無しですが何か?

お前は犯人なんか?


150 名無しですが何か?

ほら、配信を画面収録で残してたやつ、死んどるや無いかい!!

https://kakuyomu.jp/works/16818093077328867626/episodes/16818093078249017584


151 名無しですが何か?

貞子ダビング


152 名無しですが何か?

この後、失踪しただけだろ。配信内容もモザイクで良く分からん。


153 名無しですが何か?

何が言いたいねん


154 名無しですが何か?

だから、最初から蒼は見たら死ぬ映像なんか投稿してないんじゃないの?


155 名無しですが何か?

じゃあ投稿した動画はなんなんだよ


156 名無しですが何か?

始めは初心名村の映像だけど最後は文章だけ書いてる動画なんじゃない?良くあるエロサイトのトラップみたいな?個人情報は盗んだ。公開されたくなければ百万振り込めみたいな。


157 名無しですが何か?

は?


158 名無しですが何か?

はあ?


159 名無しですが何か?

そんなわけあるか


160 名無しですが何か?

なんでそれで失踪者出るんだよ、ふざけんなタコ


161 名無しですが何か?

こんなスレいられるか、配信に戻らせてもらう


162 名無しですが何か?

死んだな


163 名無しですが何か?

いや、実際そうなんだ。この脅しが本当に個人情報を盗んでるから誰も口にしないし、失踪したスレ民もだから黙ってる。話したら個人情報をバラされるから。


164 名無しですが何か?

実際、蒼はそれしてたもんな


165 名無しですが何か?

え?マジで?マジであの動画ってジョークみたいな感じだったの?


166 名無しですが何か?

いや、まあジョークの皮を被ったマジモンの脅迫動画なんだけど


167 名無しですが何か?

人間が一番怖いになってきたな


168 名無しですが何か?

…もしかして動画見たのお前


169 名無しですが何か?

おう、で脅されたからずっと黙ってた。でも今ならバレないと思って喋ってる。


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