第4話 うぶなさまのおすがた

「どんどん人が見てくださっとる、本当に感謝やわ」


「だねえ、私も驚いとるよ」


 蒼のスマホを確認しながら視聴者数が2000を超えてるのに驚いてしまう。その上、数字は変わり続けてるからまだ増えそうである。もう俺には分からんわ。


「じゃ、見てくださっとる皆さんに恥ずかしくない態度でやっていかにゃならんな。方言とか抑えたほうがええかね?」


「そんな、さっちゃんはいつもどおりでええんよ」


 蒼の言葉に自信が出る。何を日和った事、言っとんや。俺は初心名村の村長や。少しずつ暗さをましているダンジョンをズンズンと進んでいく。明かりの松明が弱まっているのだろう。


 そんななかうぶなさまはその指、その爪、闇に向ける。


「あかるくおなり」


 そこらにいたオークやスライムがその身をくねらせて燃え始める。辺りは光に満ちている。流石だが当然といえば当然である。うぶなさまがひかりあれとお望みになったからこの地に光が生まれたのだ。それを再現してるにすぎん。


「蒼、松明はもうお捨て。撮影に集中し。あかりが気にせんでええ」


「ありがとうございます!!」


 うぶなさまの隣で蒼はいつもどおりの笑みを浮かべている。うぶなさまは少し困った顔をしている。どしたんや。


「…蒼、私はお互い村長の嫁や。立場は違うけどそこに上下はない。気軽にしてええよ」


「あ、ありがとうござい…じゃなくてありがとう!!!うぶな!!」


 急に気安くなる。だがうぶなさまは少し頬を赤くしている。照れとる。かわいいわ。


「ふふ、お友達みたいで嬉しいわ。蒼、一緒にこの村を支えてこうな?」


「OK!!」


「ふふ、やっぱかわええわ」


 二人が和やかに話すのをみてうんうんと頷いて。人嫁・神嫁が仲良くせにゃ地に災いが起きる。ほんま助かる。三人で何度も床入れした甲斐があったというもんや。


 安心したのか俺は蒼に貸してもらったもう一台のスマホでコメントを見る。


『すご、全滅やん』

『これマジックアイテム?』

『いや分からん』

『なんで急にモンスター燃えたん?』

『知らん』

『これもう現地で確認するしかねえぞ!!』

『なんか配信者数名向かってるらしいわ』

『仕事早』

『まあそれが仕事だから』


 ふむふむと唸りながら見ている。どうもこれは視聴者として配信を見れる代物らしい。現に俺の後ろ姿が見える。


 真っ黒い着物に刀と猟銃、そして首にはお守り。背中にはこの村の村紋である蚕が描かれとる。


「もう少しおしゃれとかした方がよかったかもな」


「そなことないよ、三郎、十分かっこええわ」


 うぶなさまがするりと俺の隣に現れる。配信にも映るそのおすがた、白無垢に黒い髪、ほんま俺の嫁さんはべっぴんさんや。デレデレとしてしまう。


「だらしない顔しとるわ。さっきの床入れが忘れれんの?すけべやわ」


「そやないですよ!相変わらずうぶなさまがおきれいと思っただけですって!」


「なんか言い訳も嘘くさいわ。三郎はほんま正直もんやね。そういうとこも好きよ」


 うぶなさまに抱き着かれる。心地よい安堵、癖になる。彼女とまぐわう時間は格別である。蒼を抱くのも心地よいがそれとはまるで違う。言う慣ればまるで魂そのものが交配するような…


「うおおお、マジでいるじゃん!!!」


 聞いたこと無い声がする。


 俺とうぶなさまは振り返る。蒼の後ろに人、良う分からんしましまみたいな服を来て蒼とは違うスマホをこちらに向けている。さっきコメント欄にかいてあった。別の配信者?ってやつかもしれん。本当に来るのが早い。


「助かったわ」


「あ?」


 何も分かってない顔。助かるわ。俺は蒼に目配せすると配信を止める。周囲の明かりがゆっくりと消え、闇になる。


「え?あ、え?」


「本当に助かったわ、蒼、ほんまお手柄や」


「さっちゃんのお嫁さんだからね」


「何言ってんだおま」


 闇の中、何かが折れる音がした。そしてむしゃむしゃと響き続ける。男のスマホが彼のある場所を照らす。


―――


 数年前の夏。


 やけに唸る日の中で俺は骸になった男に手を合わせていた。その頭は無く、既にうぶなさまが食べた後のようやった。


「ほんまありがたい、これで村がまた助かる。こいつはどういう人なんかね?」


「もちもん調べたら廃墟探索とかしてる人らしいわ。ここに人住んでないとおもったんかもね」


 蒼が骸から取り出した財布を見てそう判断する。蒼がそういうならそうなんやろう。うぶなさまは満足したんか田んぼを見ながら欠伸をしとる。


「…そうか、それやったら手合わせんでもええわ。犬の餌にでもしとくか」


 これが観光客なんかやったらありがたいこってと死に奉り墓を作るが俺等の村を馬鹿にしにきた奴はどうなってもええ。俺が指笛をすると村の番犬どもがやって来てそいつの亡骸を加え、引きずる。


「でも、こんなんでも来てくれるだけありがたいわ。蒼、この前いってたインターネットはいい調子か?」


「うん、まあぼちぼちやね。この村が良い場所ってのは分かってくれるようにはしてるけど。どうしても人を集める大きな物が欲しいんよ」


「うぶなさまに協力して貰うか?いや、まだうぶなさまは不審がってるから微妙か。獣狩ってる所でも撮るか?」


「うーん、違うんよ。いまな、ダンジョン配信ってのが流行ってるんよ。それが一番やと思うわ」


「ダンジョン?」


 そういえば山二ツ離れた村にそういうのが出来て人が来て偉い騒ぎになってると聞いたことがある。観光客も来るそうやけどそれの深い部分を目指す探検家みたいなやつや怖いもの見たさで来るやつ、とにかく色々来るらしい。


「じゃあ、その村に行くって撮影するか?でも遠いしな。それに…あんま知らん人間と話すのは嫌かもしれんわ」


「さっちゃんはそういう人やしね。そこは分かっとる。それに村長さんが村を離れる訳にはいかんでしょ」


「そやなぁ」


 蒼の悩む顔を見てると何かしたくなる。暑さに道が白んでいる。そこにゆらりと濃い白が浮かんでいる。白無垢、うぶなさまである。


「話聞いたわ。そのダンジョン?ってのがあればええんやね」


 俺等に向かい指を指す。いや後ろ、山に向けている。


「じゃあ呼ぶわ」






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