村にダンジョンが出来たので【うぶなさま】と一緒に配信したらなんかバズってる
床の下
第1話 みんなしってるやろ?うぶなさま
「はー、蒼、お前は本当に賢い嫁じゃな」
「嫌やね、さっちゃん、そんなことないよ。こんなんちょちょいのちょいよ」
村はずれに出来た穴蔵、俗に言うダンジョンを蒼・うぶなさまと共にゆっくりと進んでいた。
流行りの洋服を来た幼馴染で俺の人嫁である蒼は松明とスマホを持って俺の横で何やらぐるぐると周囲を映している。今はダンジョン配信中、画面には無数のコメントが流れていた。
『おお、めっちゃ良いダンジョンじゃん。湧きも結構頻繁だし』
『出来たばかりだろ、そりゃな』
『これなら人集まるな』
『ダンジョン景気で初心名村?も安泰じゃん』
『蒼ちゃん、やったな』
「みなさん、ありがとうございます。初心名村チャンネルは定期的にこのダンジョンの様子を配信していきたいと思ってます。さっちゃんもほら」
蒼に引っ張られてカメラ前に出るが緊張してしまう。
「みなさん、本当に遠い所から感謝の言葉、誠にありがとうございます。これからも初心名村のことどうぞよろしくお願いします」
『ええで』
『応援するぜ!!』
『ってか初心名村の名産品とか無いん?紹介すれば?』
『うぶなさまの話も聞きたい』
『このチャンネル伸びそうやな。古参ヅラ出来る様にチャンネル登録や』
みんなのありがたい言葉を聞いて頭を何度か下げて蒼に配信を一旦止めてもらう。一息ついて近くの岩場に座る。こんなに知らん人と喋るのは初めてだった。
「いやいや、本当に凄いことさね。これなら村にも人が来る。うぶなさまのお力でも人だけは増やせんからな。蒼、ほんまありがとう」
「ややわ、そんなかしこまらんといて。私はさっちゃんの人嫁さんやけん。当然のことやって」
照れて頭を撫でながら俺の隣に座る蒼。そして、持ってきた手作りのおむすびを出す。俺と蒼でそれを食べて隣のうぶなさまがもう一つを食べる。いつものことや。何処に行くにもうぶなさまは俺の隣におる。
むすびを頬張り喋る。
「俺はそういうのは全く分からん。畑仕事とか習わしなんかは分かるんだども。世の中はITやからな。これから教えてもらわにゃいかんわな」
「さっちゃん、教えてあげてもええけど。すぐ忘れるやん。それに寝ちゃうし。私に任せてくれたらええよ」
ほんま気立ての良い人嫁だ。ありがたいと彼女に感謝しながら向かってきたゴブリンを日本刀で斬り伏せる。斬った瞬間、手首をひねればひゅんと飛んで後ろに落ちる。
「まあ、こいつらのお陰で人が集まるにゃ嬉しいがこれは少し多すぎる。うぶなさま、どうにかなりません?」
俺の隣に座る神嫁であるうぶなさまにそう尋ねる。蒼はスマホを上にする。うぶなさまの許可なく彼女を映してはならない。
180はある俺の胸元ぐらいの大きさ、白無垢を着た長い黒い爪の美しいお方。そして獣歯が二重に生えた大口を開けていつもの綺麗な声を出す。
「三郎、この化物が嫌いなの?」
「ええ嫌いです。もしこいつらが穴蔵から溢れたら村の人間を襲うでしょう。俺達の愛する村を穢す輩は殺さにゃいかん。うぶなさま、いやうぶな。旦那である俺のために一肌脱いではくれんだろか?」
「私からも切にお願い致します」
俺達は頭をペコリと下げる。本来なら頭を地面に擦り付け、腸を引きずって懇願するのが習わしなんやけども俺はうぶな様の神旦那であり、蒼も俺の人嫁であるため省略が許されている。
うぶなさまは俺の頭を撫でる。
「三郎、三郎、私のかわいい三郎、お前の祖父と父は大馬鹿ものだがお前は本当に賢いね。お前を生涯使い切れぬ富をやろう。蒼も人嫁としてよう頑張ってくれてる」
蒼は頭を上げる。
「はい!私もこの村の繁栄、三郎様の人嫁、うぶなさまの付き人として誠心誠意邁進していく所存です!!」
うぶなさまは大口で笑う。けたけたと言う音に合わせて周囲が揺れる。奥よりゴブリン達が這い出る。
「蒼も聡い子だね。わたしはあんた達が好きだよ。蒼は人の子を、私は神の子を産む。初心名村は安泰やね」
うぶなさまは立ち上がると手をひらひらと振る。俺は急いで深く頭を下げる。酷い獣の匂いが辺りを埋め尽くする、うめき声と叫び声、それはゴブリンのものだろう。聞いたことのない断末魔を上げて、死んでいく。
うぶなさまの御戸開を決して覗いてはならない。
いつもの通りである。これでこの穴蔵も少しは整備されるだろう。
そんな待つ時間が俺に気になることを思い出させる。先程の配信のコメント。どれもこれも気になると言えば気になるが一番気になるのはアレである。
なんでみんな、うぶなさまの事を知らないフリしてるんだ?
―――
数年前の夏
「えー、村長・茅葺剛太郎とその息子・茅葺宗次郎の葬儀をこれにて終わりとします。村長はうぶなさまの指名通り、茅葺剛太郎の孫である茅葺三郎とする。皆、意見はありませんね」
「んだ」
「ええです」
「さんせいさんえい」
「さっちゃんなら安心だ」
茅葺家の屋敷広間で行われた葬式。
村の外から来た弁護士先生がそう言い終わると集まった村の爺さん婆さんが口々に喋りだす。300人はいるので収集がつかん。
祖父と父親の棺桶の前で蒼も俺も同じ様に硬い表情をしている。そしてもう隣にはうぶなさまが顔に紙を掛けて座っていらっしゃる。お顔出しがない時は機嫌が悪いと言うことである。早々に村長襲名を終わらせないと死人が出る。
「では、村長になられた茅葺三郎様。どうぞ、あいさつをお願いします」
「はい」
その場に立つ。俺は黒い着物に白木鞘を腰に下げている。そして手にはうぶなさまの御神体が一つ、乾き赤子の勾玉が握られている。小さな子どもがミイラのようになっており、それが不思議と結晶のような膜を張って勾玉になったのだ。
村長は代々これを付ける事になっている。
「私、茅葺三郎はこの初心名村の村長としての使命を果たして、うぶなさまと共にこの村のより大きな発展を目指していきたいと思っています。皆々様、どうぞお力添えをよろしくお願いします!」
「おお、立派じゃ」
「こりゃ、めでたい」
喜ぶジジババ。そして陰口が始まる。
「そう言えば聞いたかね、あの二人が死んだ理由」
「きいた、なんでも神旦那でもない二人がうぶなさまのお社に許可なく入ったらしい」
「都会の連中とつるんでなんかしてたらしいな」
「おーこわ」
「昔からあの二人は好かん。三郎ちゃん置いて都会で商売してからに宗次郎も昔は可愛かったけどもうぶなさまの神旦那にはなれんで酷くグレてしもうたから」
「後は三郎ちゃんが神旦那になってくれたら…」
「決めたわ」
皆の軽口が止まる、俺もその場に正座し直す。顔の紙を捲って、俺の方を見るうぶなさま。俺は身を固める。これで俺の人生は決まる。
しばしの緊張と沈黙。そしてうぶなさまが口を開く。
「三郎、あたしをお嫁さんにしてくれる?」
「は、はい!!!」
蒼の方を見る。ボロボロと泣いている。俺もいつの間にか泣いている。そしてうぶなさまを見る。柔らかな笑顔になっている。俺は満身で頷く。
「もちろんで御座います!!!」
その瞬間、周りのジジババが立ち上がる。
旦那じゃ!!神旦那じゃ!!!ようやく旦那が決まったわ!!!
皆が両手を叩きながら喜ぶ。俺も踊り出したい気分だ。
この村で生まれ育ち、この村から出たこと無い俺にとってこの村が全てなのだ。だからこの村で最も名誉である村長になれて、この村で最も大事な役職である神旦那になれた事は俺にとっての全ての成功なのだ。
だがまだお役目がある。ここで気を抜いてはならない。
「では、うぶなさま、いやうぶな。蒼、行きましょう」
「はい」
「分かりました」
二人は頷き俺の隣に来る。俺は彼女達の腰に手を回す。俺は二人を連れて、屋敷の離れに向かう。神旦那になったその日、人嫁と神嫁に床入れをしなくてはならない。
俺は祖父と父の棺桶を最後に見る。
そこに頭部はなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます